映画感想(シン・仮面ライダー)

作品名:シン・仮面ライダー
監督:庵野秀明
総合評価:C-

書こうか書くまいか迷ったが、一応書く。
はっきり言って文句しかないが、ダメなものをダメと言っておかないと、誉め言葉の価値も薄くなるため、形にして残すことにする。

まず冒頭、本郷が廃屋で緑川に改造に至った説明を受けたあたりで「この作品は仮面ライダーの看板に甘えてる」と感じた。そしてその感覚は作品を最後までみて余計に強くなった。
あるべき感情の発露がないため会話に説得力はなく、初めて聞く単語の数々は理解不能であり、視聴者が仮面ライダーについて基本的な知識をもっているからかろうじて話として成立しているレベル。
誤解しないようにいっておくが、役者さんの演技に問題があるわけではない。おそらく、この作品において役者さん達は求められた演技を100%こなしている。
果たしてこの映画で初めてライダーに触れた人はライダーとは何かを理解できただろうか。

また、相手の怪人たちについて、短い映画の中でそれぞれを印象付けるために口癖を持たせたのだろうが、あまりにもとってつけたキャラ付けであり、不自然が過ぎる。痛々しくすらある。この辺、シン・マンでのメフィラス人気を意識した結果ではないかと思うが、やり過ぎである。

各怪人との闘いもひどい。
対コウモリの作戦のムリヤリ感。なぜそうせねばならなかったのかが弱すぎる。会話も寒い。
サソリを公安勢力だけで倒すが、ここまでの間でライダーの強さや一般人にとっての怪人の強さを全く印象付けていない上、大して公安が苦労している描写もないため、口癖も相まって、結果ショッカーがただの変人集団になりさがった。敵が強大であるというのはライダーの存在を際立たせるために必要な要素であったのに、これによってライダーの存在意義を失ったともいえる。普通に倒せるなら公安だけで全部やれ。
次いで蜂。キャラクター的には他に比べてマシな方だが、ルリコとの因縁も、装置の存在も、なにもかも積み上げが足りない。積み上げが足りないから蜂に対してのルリコの感情もつかみにくい。それゆえに本郷の選択と、公安の冷徹な判断も色あせた。
加えて。有効な弾丸もってるにしても怪人がまだ健在の場所に正面からのっそり姿を現す公安二人。弾丸に加工したんなら真正面じゃなくてライフルでの狙撃や、上空からの狙撃が無理なら物陰に潜んだ状態から射撃→姿を現す、という流れの方が良かっただろう。どうせ効かないから、とかいうアホな理由で弾丸をまともにくらう蜂のムーブには、話を盛り上げようという意思を全く感じない。
蝶。強者感はまあ良かったのではないかと思うが、最後の決着で謎の理解をみせるため、結局お前何したかったんだ感は否めない。勝利のための方法、とかいいつつ、蝶のマスクを破壊した時点で決着はついており、それができるならさっきの会話なんだったんだよ、とも思った。さらに蝶戦のカメラワーク、本郷と蝶が言い争いをしながらもみ合いになっているところ。セリフの最中にカメラをグネグネ動かすな。そして会話をさせるときはアクションを止めろ。双方が本音でぶつかる、セリフを聞かせなければならないシーンで余計な情報に意識を向かせるな。観てる側からするとごちゃごちゃ言いながらぐだぐだの戦いしてる印象にしかならない。子供のケンカか。強者感を出していたボスキャラとの闘いであるのに、この低レベル化で全て台無しである。

全体的に。
話にメリハリがない。徹頭徹尾、冒頭からラストまで、あらゆることが平坦に描かれ過ぎていて、観ている人間に起こる感情の波があまりにも小さすぎる。従来の仮面ライダーにあった力強さを廃し、別の形のライダーを描きたかったのではないかと推測するが、それによって話の強弱が失われ、説得力もなくなった。
ライダーでは時として強引な筋書きと、理屈を超えた結論が描かれることがある。だが、論理を飛び越えた結論を納得させるためにはパワーが必要なのである。もし、そこを廃したいのであれば、そうなる理屈を、確実にわかるように、納得できるように筋道立てて説明するしかない。「ライダーだから」「いままでのライダーでもこれくらいあったから」という理由で、これらのことに納得しろというのは、まさに看板に甘えている状態、というべきだろう。

最後に。
観終わったあと思ったことは、「これ、庵野さんは本当に作りたいと思って作ったのか?」ということだった。本当のところは見ているだけのこっちにわかるはずもないが、それくらい全てに熱がなく、やる気を感じなかった。
本家ライダーへの敬意も何も感じない。”いくつかの要素を並べればライダーになるだろう”とか、”ライダーというのはこの程度のものだ”と言われているような気にすらなってくる。おそらくは、そんなつもりはないのだろうが。
出演された役者さん達には悪いが、劇場に足を運んで、ただただ無為な時間となった。旧来のライダーファンは見ないほうが良い作品であり、ライダーだと思って見に行くと後悔する。ライダーではないと思ってみるにしても、物語として単純につまらない。キャラクターの多くはそのキャラ付けの不自然さに気持ち悪さを感じるし、爽快さもなければ、感動もない。
これが仮面ライダーの名を冠したことを、非常に残念に思う。

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