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M&Aは全体像を俯瞰することが大事

ある相談者(企業)から株式譲渡スキームにより対象会社をM&A(買収)するために必要な契約書(株式譲渡契約書)の作成について相談を受けた。

この相談を仲介した知人曰く、買い手企業と売り手企業は同じ業界同士であり、付き合いも長く、お互いの会社のことは知り尽くしている。売り手企業は後継者不足のため、買い手企業に事業を引き継いでほしく、株式売買価格も決まっており、揉めることもないとの認識である。

したがって、会社法上必要な契約書類があれば良いとのオーダーであるが本当にそうなのだろうか?

たとえば、

・株の変遷、株主名簿等の基礎資料、株主の確認は大丈夫なのか?
・定款、就業規則、取引基本契約書、各種議事録等の資料収集は?
・コンプライアンスの問題は?

知れたる間柄であっても、揉める要素は多分にある。

株式譲渡契約書の作成は単純ではない理由を以下に示す。

株式譲渡の本質は株式と代金の交換であり、法的には売買である。つまり、「株式」の売買契約なので、要件事実的には、売買対象物である対象株式や譲渡価額である株価を特定し、当事者や契約締結日の記載があれば足りる。最小限の記載があれば、「甲(売り手)と乙(買い手)は、●年●月●日に、甲が乙にX会社(対象会社)の株式●株を譲渡し、乙は甲にその代金として●●●円支払うことを約束した」ということのみで成立する。

このことは、最小限の記載だけの場合、担保責任などの問題を排除して考えると、売り手は特定された株式を特定された譲渡価額にて買い手に引き渡せば一応は契約上の義務を履行したことを意味する。そうなると、後日、対象会社において、多額の簿外負債や労働問題、あるいは法令違反による業務停止の可能性などが発覚しても、買い手は売り手に何ら責任を追及できないことになる。

したがって、実際の契約では、上記最小限の記載では不十分で、売り手及び買い手が、株式譲渡を通じて安心・安全なM&Aが実現できるよう詳細な条件を加える必要が出てくる。対象会社に問題がない旨を表明して保証する売り手による「表明保証」は、最終契約において重要なポイントになる。売り手と買い手の取り決めを網羅し、この表明保証を各事業に沿って適切に文章化することが、最終契約における核となる。

※著書「M&Aの視点からみた中小企業の株式・株主管理」より抜粋


なお、株式譲渡契約書の基本構造は以下のとおりである。

株式譲渡契約書の基本構造

また、株券発行会社・不発行会社等株式譲渡方法と対抗要件の検討、譲渡制限株式の会社承認手続き、クロージング手続きに必要な書類の準備等々、株式譲渡契約書の作成以外に法律に基づく必要な書類は少なくない。

諸々検討すると、相談者には、M&Aの全体像および流れを理解していただく必要があるということだろう。

M&Aの全体像を俯瞰できる「たたき台」の資料を作成して打合せに臨みたい。

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