既刊「光を与えてくれた君へ」の補足(+没シナリオ)

どういう理屈(?)で描いたのかという補足です。
既刊「光を与えてくれた君へ」を全部読んだ人向けの文です。無駄に長い。
自分の描いた漫画を自分で補足解説するってちょっとダサい気もするんですけど自分の漫画の一番のファンは自分なので別に良いかなと思って…(?)
暇つぶしに流し読みでもしてもらえれば幸いです。

#1 再会

・尾形の記憶が流氷時点で途切れてる設定になっているのですが、これは漫画を描いた当時(2021年10月頃)はどういう終わり方になるのかが
まだわからず、最悪尾リパが再会せずに終わる可能性も考えてこういう設定にしました。
なのでその後出てくるアシㇼパさんとの記憶も全て流氷までとなってます。

・元々は「現代で25年間生きていた尾形」は記憶を取り戻した時点で明治時代の尾形に人格を乗っ取られた…という描写を入れるつもりだったのですが没になりました。
(描写が没になっただけで設定としては生きてます…一応)

↑没シナリオ

また、結構自分の中で重要視して書いた部分が尾形が現代に於いても「銃を持たなかった」という点でした。
尾形と銃は切っても切り離せない、アイデンティティそのものと言っても過言では無いのですが、幼少期に銃に出逢ってしまったが故に
命の重さがよくわからなくなってしまい歪な価値観と共に取り返しがつかないほどに大切な人を殺め、最終的に銃に生かされ銃に殺された人生だったと思っているので
銃を持たない剥き出しの彼であれば…人殺しの無い平和な現代であれば…今度こそベストエンドルートへいけるのでは!?という想いの下にこういう設定となりました。

#2 公園にて

・公園エピソードは、アシリパさんにとって尾形が大切な友人となるまでの心理描写の説得力を持たせたくてしっかり描きました。
樺太編では二人きりでの会話はほとんど無かったと思うので、こうして1on1でやり取りして仲良くなっていればこんな感じだったのかも…?というのを妄想しながら描きました。

・尾形は記憶を取り戻したとはいえ、25年間現代人として生きて来た尾形の人格と混ざり合った状態かつ銃を持たなかった事で誰も殺しておらず、精神的にはまあまあ落ち着いている感じです。この時点では…。

#3 眼

・タイトルは「見てくれなかった者達(父母)と、見ようとしていない者(勇作さん)と、今も見ている者(アシㇼパ)」の三重掛けの意味です。
過去と同じく勇作さんを拒絶しつつも、菊田さんという存在がいる事でちょっと運命が変わってます。

・「勇作さんもあんな人前で話しかけなくても良いのになぁ
 尾形の立場はわかってる筈だが…良くも悪くも純粋なんだろうか」
は尾形に誰か言ってあげてくれんかなと思ってた台詞でした。笑
他人に改めて言ってもらえることで救われる事もあるんじゃないかなと思います。

・尾形の「俺の惚れた女は今もここにいる」の「ここ」は射抜かれた右目に焼き付いたアシㇼパの事です。ので目の前の明日子の事を差してはいません。
彼は今でもアシㇼパに固執しているのであって、現代の明日子の事は姿が同じだけの器としてしか見れていない…という描写です。

#4 代わりにもなれない

・明日子と尾形の現代社会に上手く溶け込めない孤独を描きたかったので描いたエピソードです。
明日子が廊下で陰口を言われているシーンは#3の尾形が会社で陰口を言われているコマと全く同じ構図で対比させてます。

・杉元は本当に優しくて良い男なんですが優しいが故に残酷でもあるという解釈をそのまま書いてます。

・明日子の「本当に聞きたかったのはその言葉じゃなかったのになぁ…」という独白は、のちのち尾形がその「欲しい言葉」を与えてやることの伏線として同人誌版で追加しました。

・杉元が明日子に婚約者がいる事を知らせる事すらしなかった、というのは原作でも聞かれなければ教える事すらしていなかった杉元に対して、何で?と考えた結果、「最初から自分の人生に関わらせる気が無かった」からなのかなぁと思いましたのでそのまま尾形に言わせました。
「ただの子供で庇護対象でしか無かった」はそんな事は無いことは尾形も知っているので対抗心で無意識に強めの言葉で言ってるのかもしれませんが
「だから安心して好意を向けられたんだろう?」は本心で言ってます。
そしてもうこの辺から右目でアシㇼパを見てますので、目の前の明日子のことは眼中にありません。

・「俺は杉元の代わりにはなれないのか?」…については
尾形という男は、母親からは父親の代わりとしてすら目を向けられず、父親からは勇作の代わりとしてすら愛されず、アシㇼパさんへの「やっぱり俺では駄目か」発言…といったところから
誰かの代わりになって愛されるという形でしか愛情表現が出来ないのかも…というところからこういう台詞となってます。
なのでこれは彼なりの精いっぱいの縋るような「I love you」のつもりです。
けれどそれは目の前の彼女でなく思い出のアシㇼパに対して言っているので、言葉はもちろん届かないです。

・結局また流氷と同じように拒絶されて右目を鞄でぶっ叩かれてしまいますが、ここでようやく左目で目の前の彼女を見て、「俺は(今も昔も)お前に何も与えられない」と同じことを繰り返す自分に自嘲するしか無かったという感じです。
尾形は明日子が学校に居場所が無く、自分の所へ逃げて来ているだけという事はわかっていてそれでも傍に居たかったのですが
結局自分が求めているのはアシㇼパである以上どうしようも無いし、杉元を想い続ける彼女の居場所にはなれない。
現代版流氷リバイバルみたいな内容ですが、一つ違うのは尾形が右目に致命傷を負っていない、という点となってます。

#5 雨のみぞ知る

・明日子は尾形の眼差しが自分に向けられていないことには何となく気付いているのですが、まさか前世の自分に執着し続けているとは夢にも思ってない感じです。
「お前にとって私は一体何だ?」は原作でもアシㇼパさんが尾形に対し一番思ってたことなんじゃ無いかななんて…

・フチの入院からの杉元の「相棒だろ」…は明日子さんごめんよ~と思いながら描いていた。
原作でも杉元はアシㇼパさんの恋心に気付いているのかいないのかわかりませんが、あくまで「相棒」と呼ぶところに彼の優しい予防線を感じてしまう今日この頃。

・そして実は杉元もアシㇼパさんの事を覚えている…という事なわけですが
この辺は後編でいずれちゃんと描こうと思ってます…。

・雨の中での幼少期尾形との対話。現代尾形は「銃にすら縋れない」ので(原作宇佐美戦での「結局お前は銃にしか縋れないのか」から来てます)
過去の自分にすら存在を否定されています。
尾形は銃の技術によって他者から必要とされ、認められ、生き抜いてきたのでそれが無ければ他者と繋がる事すら出来ない…という自己肯定感の低さが露呈してる感じです。

・拒絶され突き放しながらもそれでもまたアシㇼパを求めて雨の中公園前まで来てしまった尾形が、どしゃぶりの中ベンチに座る明日子を見つけるシーンは持ち前の視力で遠くからでも見つけた、的な感じです。

・雨の中駆け寄った尾形くん息上がってますので全力で走ってきたのだと思われます。
「俺はどこにも行かない」は明日子さんが欲しかった言葉でした。
「行こう、明日子…」は原作台詞のリバイバルですが、ここでようやく尾形は思い出のアシㇼパでなく目の前の明日子に対し声を掛けています。
実は"明日子"と呼んだのは漫画内でここが初めてです。
原作で初めてアシㇼパの名前を呼んだ行こアシシーンと絡めてみました。

・タイトルはそのことを雨だけが知っている、という意味です。

#6 光を与えてくれた君へ

・明日子さんが尾形の右目の傷について心配するのですが、傷自体が大した事無かったので大丈夫でした。
原作でも右目を抉り取るような取り返しの付かない重傷で無ければ…
「お前に非は無い」「それでも私が悪かった」とお話が出来ていれば…という完全IFです。

・「自分が清い人間でなくなるのがそんなに恐ろしいか?」…というのは原作で尾形を撃った後、医者からもう助からないと聞かされた時に悲し気な表情をしていたアシㇼパちゃんに対して
尾形ならきっと「自分が清い人間で無くなるから悲しんでいる」と捉えるだろうなと思って出て来た台詞でした。
なのでそれは違う、尾形が大切な仲間だから悲しいんだという事を伝えさせました。

・尾形の事をもっとちゃんと理解したいと言う明日子に、やや困惑気味に「何故?」と問う尾形。杉元の代わりとしてしか愛される未来は無いと考えている彼に対し、「杉元の代わりは誰にも出来ない」と断じた上で誰の代わりでも無い尾形個人ともっと仲良くなりたい、と言ってくれました。
仲良くなりたいと思ったのにもちゃんと理由があり、それは明日子にとって尾形が「与える側の人間」になれたからという事です。

・明治での尾形はアシㇼパさんに殺しの道理を与える事しか出来ませんでしたが、現代で明日子を孤独から救い出す光となれた尾形は初めて他者から本当の意味で必要とされました。
自己を否定され嫌われ続け、帰る場所も無い尾形にとって「居て良い場所」というのは無かったのでは無いかと思います。
「ここに居て良いのか?」という剥き出しの問いにあっさりと「ここに居てくれ」と返した明日子に、欲しくてたまらなかった言葉を当たり前のように与えてくれたことに、何とか感謝を伝えたいけれども
言葉の代わりに弾丸を撃ち込んできた彼はそれを伝える言葉を持たない。
そこで、今まで気を引く目的でしか呟いた事の無かった「ヒンナ」という言葉を通して過去と未来どちらにも心から感謝を伝えて、微笑んだというシーンです。
個人的にお気に入りのシーンです。

・タイトルの「光を与えてくれた」は尾形⇔明日子どちらにも掛かっております。

#7 新しい明日

・「勘違いしちゃいけないよ。あの娘は父親のいない寂しさを身近な年上の男で埋めたいだけだ」
 「心の隙間に偽物のお前が滑り込んだところで明日子がアシㇼパの代わりに愛してくれるわけじゃない どうせ最後は棄てられる」
というのは、尾形が内心思っていることです。

・彼は明日子が自分を必要としてくれているのは今だけであり、大人になればきっとまた自分の下を飛び立ち相応しい男と結ばれるだろうと考えているのですが、今度こそ一緒にいられる未来があるのなら…とささやかに願う事ができる程度には前を向けるようになったようです。

・タイトルは新しい(アシㇼパ)明日(明日子)です。
 尾形がようやく明日子に向き合った事で原作とは違った新しい明日を選び取れた的な意味です。

以上です!!
なっが~~い文章で失礼しました……誰が読むねんこんなん…
もしここまで読んでくださった方がいらっしゃいましたら本当にありがとうございます…。


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