見出し画像

「クリスマスマーケット」を知らなかった僕が、熊本で70万人以上が訪れるクリスマスマーケットを作った話。その9 〜ホンモノにこだわる・会場空間づくり〜

 
こんにちは! “あらきん”こと荒木です。
 
前回の記事では、クリスマスマーケット熊本(以下、クリクマ)に欠かせないコンテンツである雑貨販売とホットワイン開発をどう進めていったか? についてお書きしました。
 
前回の記事はコチラ
 
僕らがミッションとする「熊本の地域にこだわりつつ、日本や世界のホンモノも感じることができるお祭り」にふさわしい飲食店と雑貨店が決まり、目玉となるホットワインも完成した。
 
しかし、肝心なモノがまだ残っていました。クリクマが成功するか否かを左右する、といっても過言ではないくらい、重要なもの。それが、「会場空間づくり」です。
 
会場空間づくりにおいては、どこもこだわっているつもりですが、なかでもクリクマらしいものを4つ、ご紹介したいと思います。

ホンモノの「杉の葉っぱ」で覆ってしまえ!


こだわりの会場空間づくり、まず一つ目は、ホンモノの杉の木を伐採して使っていること。
 
毎年、山の木を切り倒して会場まで運び、幹や葉っぱを会場の様々な装飾として使っているのです。じつはこれ、クリクマの世界観を壊さないための工夫として、苦肉の策からうまれたアイデアでした。
 


たとえば、ステージや看板を設置したり、電飾を吊るすために欠かせないのが足場(イントレ)です。
 
会場のあちこちに建設現場などで用いられる足場を建て、電飾や電気の配線を通したりするのですが、普通であれば、ビニール製のシートで目隠しすれば、手っ取り早い。しかし、それだと無機質だし、工事現場のようになってしまいます。
 
僕たちが作りたいものは、そうじゃない。僕らが作ろうとしているのは、寒くてもわざわざ行きたくなる居場所、思わず時間を忘れしまう「クリスマス村」です。
 
使い回しのきくフェイクの葉っぱでカムフラージュする方法も考えましたが、あくまでフェイクだし、なにより初回だけに、お金がない。
 
どうしよう? 見せたくないものをうまく隠せる、良いものはないか? 
 
あれこれと考えていたとき、ピンとひらめきました。
 
「そうだ、うちの実家に、杉の山があるじゃん!
 
実家が所有する山にある杉の木を伐採して
ホンモノの杉の枝葉でまるごと覆い隠してしまおう!と考えたのです。
 

 僕の父は、以前のnoteでも紹介した通り、建設業・工務店を営んでいることもあり、たまに所有する山の木を伐採して、材木などに使ってもいます。
 
このホンモノの杉の木を切って使う!というアイデア、実際にやってみると、思わぬ効果がありました。


会場に入った瞬間、来場者はまず会場空間に風景に感動されるのですが、やがて、あることに気がつきます。森林へ足を踏み入れたような、癒しの香りに包まれている。思わず大きく深呼吸している。
 
目隠しのために使った木の葉っぱや幹によって、「森の香り」という新たな付加価値が生まれていました。
 
切りたての木を使っていますから、植物の香りがイキイキとしています。飲食を販売するヒュッテ(木造小屋)も木で出来ていますから、香りの相乗効果も生まれます。
 
 
「視覚」と同時に「嗅覚」が刺激され、非日常的なクリスマス村の世界にどっぷり浸ってもらえる。
これは、想定外のことでした。
 


足場の目隠し用に枝や葉っぱを使う一方、幹の部分も有効活用。輪切りにしたものをテーブルに置いて、協賛企業のプレートを飾ったり、人形を腰掛けさせたりと、お客様の手に届くところにも、いろいろな用途に活用しています。



 
ちなみに毎年2、3本の杉の木を伐採していますが、いずれも間伐用のもの。ご承知の通り、森林を守るため、良い木材を作るためには、間引きしなければなりません。
 
植物の成長を促すためには、若いうちに栄養分を吸収しておく必要がありますが、木が密集していると栄養が分散してしまい、太陽の光も地面まで届かなってしまいます。ですから、製材になる木とそうでない木を選別して間伐する必要があり、製品化できない木を切り倒して、クリクマ用に使っているのです。


早い時期に伐採すると枯れてしまいますから、切り倒すのはクリクマ本番直前の3週間前。僕の父がチェーンソーで切り倒した大木を山から降ろすのですが、これがなかなかの重労働です。

3トン積みの大きなアルミトラック2箱ぶんに杉の木と葉っぱを満載し、福岡の県境に位置する南関町の山から熊本市内の会場まで約50kmの道のりを、自分たちで運搬しています。
 
みずから提案したアイデアとはいえ、ほんとうに大変。毎年やっていても、やっぱり筋肉痛になります。それでも、この木たちがホンモノを感じてもらえる空間づくりの付加価値になると思えば、「よし、今年もやるぞ!」と奮起するモチベーションになっています。 



1脚40万円の椅子を屋外に設置する


 
ホンモノにこだわった会場空間として次にご紹介したいのが、来場者用の椅子やテーブルです。
 
みなさん、ちょっと思い出してみてください。屋外イベントへ出かけた際、どんな場所で食事をしていますか? 一般的には、会議用の長テーブルとパイプ椅子、或いは、プラスチック製のテーブルセットのようなものではないでしょうか? 主催者側にとっては、そのほうがコストを抑えられますし、設置や撤収をするのにも効率がいい。限られた予算やスタッフの人数を考えれば、それもやむを得ないかもしれません。
 
しかし、僕たちは違いました。ホンモノを感じてもらえるクリスマスマーケットを完成させるべく、その世界観をパースで見える化して、みんなで共有していました。
それに、会場空間の雰囲気としてお手本にしているものがある。
 
以前の記事で書いた、東京・表参道にある「COMMUNE 2nd(コミューンセカンド)」という屋台村です。
 
屋台の周りに不揃いでカラフルな椅子やテーブルたちが無造作に置かれた、カオスな空間。オシャレな雰囲気が際立ち、街のど真ん中にいることを忘れさせてくれる。そんな会場空間をつくりたい。
 
そんな願いを叶えるべく、力を発揮してくれたのが、実行委員長を努めるチカオとミシロくんでした。
 
日ごろは竹あかりユニット・CHIKAKEN(ちかけん)として活動する二人。国内外のコンサートや大規模イベントの演出などで活躍する一方、全国で発生する自然災害などの復興支援にも積極的に関わっています。
 
そんな彼らにとって、損得勘定よりもプライオリティが高いのが、
たくさんの人の心に、あかりを灯したい」という思い。
 
まちづくりや復興支援で長年一緒に活動している二人ですが、人を喜ばせたい、笑顔が見たい、という純粋さを持ち続け、心からリスペクトしています。
 
 
まず、驚かされたのがチカオです。
 
彼が会場へ運び込んできたのは、趣味で集めているという、高級家具の数々。有名ブランドの椅子やアンティークのソファなどレアなものばかりで、なかには1脚40万円というモノまで! 会場は屋外ですから、雨や雪にさらされることもありますし、知らない人が傷つけてしまうかもしれません。正直、僕にはそんなことは到底真似できませんが、それを平気で出来てしまうのが、彼なのです。
 
さらに、ミシロくんも負けていません。モノづくりを得意とする彼は、解体された家屋から出る廃材などを熊本各地から譲り受け、それらを使って会場に飾る看板や椅子、テーブルなどを作ってくれました。木と手づくりの温もりが感じられて、会場の雰囲気にもぴったりです。

ミシロくんの作品(会場入り口の看板)


 
こうして、ふたりの感性が発揮されたこだわりの家具や設えによって、
思い描いていたクリクマの完成イメージへとまた一歩、近づきました。
 


ラグジュアリーゾーンで過ごす特別な時間


 
ホンモノの木を使った足場の目隠しと、高級アンティークや手づくりの家具で楽しむ飲食スペース。
 
さらに、会場空間に付加価値をつけたい。
 
役員会議であれこれとアイデアを出し合うなか、これはイイね!となったのが、「ラグジュアリーゾーン」の設置でした。異空間が広がる会場の中でも、より特別な、高級感を味わえるエリアを作ろう。
 
そこで購入したのが、ガーデンイグルーです。
ガーデンイグルーとは、ドイツで開発されたスケルトンのドーム型テント。今でこそ全国のイベントなどで見かけるようになりましたが、2018年当時はまだ珍しく、全国のクリスマスマーケットにおいても珍しい演出でした。
 
ほかのクリスマスマーケットではやっていない、クリクマらしい空間演出に挑戦したかった僕らは、このガーデンイグルーをドイツから輸入。クリクマの公式サイトで予約を募り、有料で時間貸し出すことにしました。
 

かまくらのようなおこもり感があって、会場の賑わいを感じつつ、静かで特別な空間を過ごすことができる。しかし、ガーデンイグルーだけ準備すればいいというわけではありません。
 
リビングのようにくつろいで、心も体も究極にリラックスできる空間を作り上げるべく、ガーデンイグルーの中にも、チカオの高級家具とミシロくんの手作り家具をコラボ。お洒落なソファやテーブル、照明を配置し、デロンギのオイルヒーターもあるので、夜でも暖かく過ごせます。
 
しかも、ガーデンイグルーごとに設えが違いますから、たった一つだけのオリジナル空間を独り占めできるわけです。大切な人と過ごすには、この上ないシチュエーション。

おかげさまで、一度利用した人は翌年も予約するというほど大人気となり、毎年、事前予約の段階で予約がいっぱいになるほど。カップルはもちろん、家族や友達同士で、年に一度、なかなか取れない予約を勝ち取り、クリスマスを心待ちにするという価値が生まれています。
 
ちなみに、ガーデンイグルーをご利用いただくのは夜の時間帯がメインということもあり、昼間は幼稚園児たちをガーデンイグルーに招待。この非日常的な世界を体験してもらっています。
 

竹あかりアーティスト「CHIKAKEN(ちかけん)」が創る圧巻の竹あかり演出


そして、最後は、クリクマ実行委員長を務めるチカオミシロくんコンビが共同代表で織りなすクリエイター集団「CHIKAKEN(ちかけん)」による、自然の竹を使ったアート作品「竹あかり」による圧巻の空間演出!

ホンモノの生竹を、多くの人と、時間をかけ、ひとつずつ穴を開けていく。その手間を繰り返しながら、壮大なあかりのアート作品を作り上げます。
これは、言葉で説明するよりも、写真でご紹介します。




 
今回お書きした4つの会場空間づくりは、ほんの一部に過ぎません。
 
予算が限られる中、どこまでこだわるか? やり切れるか? そこで価値が変わってくる。
 
熊本のみなさんに、新しい文化や価値観を感じてほしいとの思いから、みんなで知恵を出し合い、試行錯誤を重ねながら、毎年アップデートしています。
 
次回の記事では、クリクマを応援してくださる協賛企業や広告の集め方についてです。こちらです!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?