郷土紙という超ローカル新聞(連載9) 読者は誰?
【産経新聞を上回る!】
私が所属していた本郷日報(仮称)は、発行部数が約1万部です。公称は、もうちょっと盛っています。実際に配達されているのは、おそらく9000~9500部くらいなのではないでしょうか。エリア内のコンビニや駅売店でも多少扱っているので、実売部数は不明です。
大手全国紙のように、本社が販売店に新聞を押し付ければ引き取ってくれるような「押し紙」はありません。「ありません」というよりも規模が小さい新聞なので、このエリアの県紙の販売店に配達を委託しているため「力関係上できない」というのが正解です。
※地方紙、郷土紙も新聞の部数は減少傾向ですので、今はもう少し減っていると思われます。
とはいっても配達エリアが県南部の一地域。人口規模でいえば2000年代半ばで3市5町60万人ですから東京都(2005年なら約1250万人)に換算すると200万部に相当します!
ん?
計算まちがいか。
いやいや、端数はともかく、おおむねそのくらいの数字です。
200万部といったら当時の産経新聞の全国での発行部数に近い数字ですよ。
けっこうな影響力じゃないですか。
産経新聞は、強い関西地域込みの部数ですからそれを上回るなんて暴論も成立してしまいそうです。どっちにしても地域限定のことですけど。
【世帯普及率4%は数字のマジック?】
発行部数を世帯数で割った世帯普及率はどうでしょうか。
遠浜県(仮称)の南部地域は、田舎です。世帯人口は、2をそれなりに上回ります。
大まかにみて25万世帯くらい。配達部数9500部なら4%弱の普及率といえます。
小中学校のクラスでいえば1人くらいが家で取っているということです。絶対的な知名度を誇る遠浜県の県紙の世帯普及率が60%くらいですので、まずまず健闘しているといってもいいと思います。
自分で書いて喜んでいながらなんですが、世帯普及率4%は、数字のマジックです。
一般家庭ということでいえば普及率はもっと低下します。1~2%くらいでしょうか。
昔ならともかく、新聞衰退期です。県紙または全国紙に加えて郷土紙も購読という一家で2紙も新聞を取る家庭は少なくなっています。
新聞の名前は知られていても実際に購読している家庭は少ないと言わざるを得ません。
そもそも小学生も携帯電話を持つようになった2000年代半ばに4000円の県紙に2500円を追加で払うのは、よほどの新聞好きか仕事や生活で必要だからという以外ありえません。
郷土紙は、優先順位2位以下の存在なのです。
【郷土紙のおもな読者は】
郷土紙を購読しているのは誰なのか。
個人で購読している人は、世帯普及率の4%弱よりも低いと推測できますが、実際に1万部近くが配達(コンビニや駅売店での販売含む)されています。
では、どこで読まれているのでしょうか。
率直に言うと、郷土紙のおもな購読者は県庁や市役所、警察署、消防本部、税務署、商工会議所など行政機関や団体、地元に本社がある金融機関や企業、商店などが中心的読者です。町役場はともかく、市役所内では、複数の部署で購読してくれます。
団体、法人が購読するのは、地元の情報を集めるためでしょう。同時に自分たちで発信した情報がきちんと正しく伝えられているか検証もしています。企業の経営層や幹部公務員の方は、自宅でも購読してくれる傾向にあります。
企業や経営者は、新聞の講読料と広告費の両方払ってくれているお得意さまです。
このほかに国、県、市、町会議員も大半が事務所や自宅で購読しています。県紙ではカバーしきれない後援者、有権者の情報収集に使っています。以前に掲載したとおり訃報記事を見逃さないためでもあります。
異業種交流の奉仕団体である回転クラブ(仮称)や百獣クラブ(同)女性にとって最良クラブ(同)のメンバーもクラブの例会情報や、メンバーの動向が記事になることがあるので購読しています。
郷土紙だからこそ載るような地元のアマチュアスポーツ団体や俳句、絵画、書道などの文化関係者も大切な読者のみなさんです。
エリア外では、テレビ局などメディア関係がネタ探しに購読してくれることもあります。
これは、私がいた新聞社だけでなく、郷土紙ならおおむね似たような傾向ではないでしょうか。
【本郷市のFinancial Times】
団体、法人とその関係者、企業経営者など地元をリードする人、予算やお金がある人がおもな読者となりつつある郷土紙ですが、昭和50年代までは、一般家庭でももう少し購読してくれていました。
普及率が悪く、結果的に地域のエスタブリッシュメントがおもな読者になってしまったためことを逆手に取り自虐的に「本郷市のFinancial Times」なんて言っていることもありました。
あまり笑えないジョークです。何よりこの表現は「〇〇県のダルビッシュ」や「〇〇市のメッシ」に似た部分があります。件の選手を見るまでもなく、パチモンはパチモンです。
せめて新聞の紙だけでもサーモンピンクにして気どってみるのもいいかもしれません。
部数増、一般家庭への普及率向上は新聞の存続に関わる重要事項です。販売担当だけでなく記者も営業に余念がありません。
取材依頼をしてきた人(団体)が新聞を購読していない場合は、積極的に購読を呼びかけます。必ずしも応じてもらえるわけではありませんが、多少は成果に通じているみたいです。
【購読料だけでは成り立たない】
発行部数と購読料、働いている人数から計算するとわかりますが、郷土紙は講読料だけでは経営できません。
広告も収益のひとつですが、それでも足りません。
販売、広告に加えて新聞社主催の事業ををやることでなんとか赤字にならないラインに到達できます。
それでも赤字が出るときはあります。
本郷日報(仮称)の場合は、ありがたい支援先があるのでなんとかなっていますが、ギリギリで続けている、経営者が他の事業も営んでいるのでやっていけるという郷土紙は全国にいくつもあります。
Web展開が遅れている郷土紙も少なくありません。ただの記事掲載サイトではなく、シブヤ経済新聞のようなサイトと連携するのもありだと思います。地元の情報を読者や一般市民と双方向発信するブログポータルサイトの運営なども一手です(勝手に言っているだけですが)。
新聞の発行部数、購読者数以上にローカル情報は重宝されています。
紙に印刷するだけが新聞(ニュース)ではないので、より狭い地域でより深い情報が発信できるようにしていきたいです。
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