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重低音からはとぽっぽ


毎日ゆったりとした服ばかり選んで着ているので体もゆったりとしがちなワタシだけど、今日は久しぶりにスーツを着ていた。

THE会議室といった雰囲気の部屋の中には、会議室あるあるな茶色の長机とパイプ椅子が綺麗に並んでいた。机と椅子はたくさん並んでいるけれど、まだこの部屋の中にはワタシしかいない。

最前列の机には紙の資料が積まれていて、その前の椅子の背もたれには薄手の上着が引っ掛けられているので主催者の人は席を外しているのかな。他の荷物は見当たらないので、その他の人達はまだ到着していないみたい。

持ち主の居ない荷物のそばに一人ぽつんと座る勇気はなかったので、部屋の一番後ろの列の端っこに座って時間まで待つことにした。

主催者の人が来たら席を移ろう。なんてことを考えながら、カバンから文庫本を取り出そうかどうしようか悩みながら背筋をいつも以上にシャンと伸ばしながらパイプ椅子に浅く腰掛ける。


しばらくタンスに預けてあったせいもあり、スーツは思っていた以上に窮屈に感じる。肩の部分を横断するように鉄パイプでも入っているんじゃなかろうか?と思うくらいに、肩の可動域が無い。

いつも思うけど、うちのタンスは働き者すぎやしないだろうか?

タンスに預ける期間が長ければ長いほど、服は例外なくどんどん縮んでいく。タンスを買った時についてきた説明書にはそんなことは一言も書いてなかったけど、あのタンスは何らかの力を使って生地を縮める仕事を生業にしているに違いない。(←


そんなことを考えているうちに、どんどんと人が入ってきていつの間にか会議室の席は半分以上埋まってしまっていた。

今さら席を移動するのもなぁ…と移動するのを諦め、今日はこの一番後ろの席を陣取ることにする。

そうこうしているうちに開始時間が迫ってきたけど、主催者はまだ来ないなぁなんて思っていたらどこからともなく音が聞こえてきた。


くるるるるるっ くるっくー


ん?鳥?

くるるる くるっくー

ハト? 会議室にハト???

とてつもなく近い場所にハトがいる。この鳴き声はハトに違いない。

「くるるるっ くるっくー」

声はするけど姿が見えない。周りの人たちは気が付いていないようだ。もしかして自分だけに見えるハトなのか?!

「くるるるるるっ」

普通に考えてそんなことはありえない。どこかにハトがいる。

しかもすぐそばに。


でも、どれだけ探してもハトの姿は見当たらない…


んー

ハトどこよ?


なんてことを思っていると、目の前にふっと掛け布団が現れた。


ゆ … ゆめか …(懲りない


と言う事は、さっきのハトの声は窓の外から聞こえてきたのかー。なんてことを考えているとすぐそばからまたハトの声が聞こえてきた。

「くるるるるっ」


!?

窓の外じゃない。

「くるるるるっ くるっくー」


布団の中?!

「くるるるるっ くるっくー」

布団の中にハト?!まさか?!


「くるるるるる」

掛け布団はピクリとも動かない。何かがおかしい。

「くるるうる~」


そう。正解です。


ハトの鳴き声ではなく、ハトの鳴き声そっくりな音を奏で続けていたのはワタシのお腹。

そんなカワイイ音が出せるなんて、この年になって初めて知りました。

いつもいつも、部屋の隅から隅まで響き渡るものすごい重低音で

「ぐうううううううううう」

っていうのしか聞いたことなかったんだけど。

そんなイイ感じのお腹の音が出せるんだったら、若かりし頃にいろんな場所で出していたあの音はワタシの中の人の嫌がらせだったのか…




(ΦωΦ) 今さらそんなカワイイ音出されても 

ねぇ…



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