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イチゴとぼくのさかな釣り(二日目

「さかな食べたいと思いませんか?」

そこそこ高い崖の上で休憩していると、イチゴがぼくに話しかけてきた。コイツはいったい何を言っているんだろう?ぼくは眉間にしわを寄せ、隣に足を投げ出して座っているイチゴの方に顔を向けこう答えた。

「”さ” も ”な” も食べれるわけないじゃないか」

「いやいや、アナタこそ何をおっしゃってるんですか?!」

イチゴは「ぎょっ」っという効果音がぴったりくる表情で、僕の方に勢いよく顔を向けた。

「だって、”さ” か ”な” どっちが食べたいかなんて、聞かれたって答えようがないじゃないか。”さ” も ”な” もただの言葉なんだから、どっちを選んだとしても食べられないんだし。まぁ、”さ” よりも ”な” の方が若干美味しそうではあるけどさ…」

まだ難しそうな顔をして答えるぼくをみたイチゴは、両手を肩の高さにもちあげて両目を閉じ

「やれやれ」

と言いながら首を左右にゆっくりと振った。

(首 … ?)

「意味わかんないことを言っときながら、人をバカにするのはよくないとおもうよ」

一度緩んだ眉間のしわをぎゅっと寄せながら、ぼくは腕組みをしながらイチゴをたしなめる。

「あぁ、それはそうでした。申しわけない」

人を馬鹿にするくせに、コイツ、めちゃくちゃ素直に謝るんだよね。ここにたどり着くまで一緒に過ごしてきたけど、いいヤツなんだか悪いヤツなんだかよくわかんないや。でも、たぶんいいヤツなんだとぼくは勝手に思ってる。

「で、”さ” と ”な”、イチゴはどっちが好きなの?」 

「え、えーとですね。”さ” と ”な” ではなく ”さかな”という生き物が海や川なんか水がある場所に住んでおりましての。そいつを捕まえて焼いて食べるととっても美味しいんですよ」

「へぇー。そんな食べ物があるんだね」

「そうですね。ミミトビネズミは昆虫が主食ですから、”さかな” に興味がないから知らなくて当然かもしれませぬな」

イチゴが美味しいという ”さかな” はぼくにとっても美味しいものに違いない。一度食べてみたいかもしれない。

「へぇー。ぼくも ”さかな” 食べてみたい。そこの海にもいる?」

「そうでございまするな。そこの海には大きな ”さかな” がいるとおもいまするぞ。ひとつ、”さかなつり” でもしてみましょうか」

「”さかなつり” ?!」

なんだか楽しそうな響きな ”さかなつり” にぼくは興味深々で目をキラキラさせてイチゴの顔を覗き込む。

「どうやってやるの?!」

「一般的には、木の枝に紐を括り付けて、その先に抜けないように曲げた針を括り付け、餌となるものも一緒に取り付けて海の中に投げ込む感じですね」

「え?そんなに簡単なの?!」

「簡単と言えば簡単ですが、”さかな” が餌に食いついた手ごたえを感じたらすぐに引き上げないと ”さかな” はまたどこかへ行ってしまうので、意外と奥が深いんでございますのよ」

「”手ごたえ”って、誰かがどこからかこっそり教えてくれるの?」

「??」

「???」

「????」

「だって、全部投げちゃうんでしょ?手ごたえを感じる場所なんてないじゃない」

「あぁ、そうきましたね。来るような気がしてたんですがぬ。いやいや、枝は投げちゃだめです。枝はしっかりと握りしめたまま、餌と針を投げ込むんでございまするよ」

「なるほど。それだったら『手ごたえ』があるね。うんうん。じゃぁ、材料を探して、さっそく ”さかなつり” しようよ!でも、”さかな” の餌って何をつけたらいいのかな?」

見たこともない ”さかな” の姿を想像しながら、イチゴに聞いてみる。

「今回は、ちょうど ”杖” があるので、これを使ってみようかと思ってるのでございまするよ。で、餌に関してはちょっとわたしに考えがあるので任せてもらえませぬですか?」

”さかなつり” の知識も何もないぼくにとって一番いい方法は、ここにいるイチゴにすべて任せることだと思ったぼくは、

「全部まかせるよ!」

と元気よく答えた。答えた数分後には後悔することになるんだけど…



「はいっ!しっかりとそこにいる ”さかな” を捕まえて放しちゃいけませんぜよ!」

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”さかなつり” ってこんなにからだを張る作業って、アイツひとことも言ってなかったよな…


おもってたんと違う



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