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イチゴを豹変させるもの(三日目

”さかな” を食べたぼくとイチゴは、過剰に酷使した体をたっぷりと休めた後、山道をてくてくと歩いていると、イチゴが急に大きな声で

「り りんご!!あんなところにリンゴが!」

と叫んだかと思った瞬間、杖から勢いよく飛び出して走り出したもんだから、僕は思わずしりもちをついてこけてしまった。

「オノレ!にっくきリンゴめ!今すぐに引きずりおろしてくれるわぁっ!」

顔をいつも以上に真っ赤にしながら、リンゴの木の下にたどり着くと、ぴょんぴょんとリンゴの実をにらみつけながらイチゴはリンゴめがけて飛び跳ねだした。

「はぁ  はぁ  と  届かない… くそっ」

頭から湯気をもうもうと出しながら、ぴょんぴょん飛び跳ねていたイチゴは、いきなりピタリと動きを止めたかと思うとゆっくりとぼくの方を振り返りはじめた。こ…怖い。完全に目がすわっている…。

「トビー!その杖を!早く!ぼやぼやするなぁ!」

と…トビー? トビーってまさかぼくのこと?ミミトビネズミだからトビー?ミミーじゃなく?

頭の上に「?」マークをいっぱい並べながら、毛むくじゃらの右手を頬にあてながら首をかしげ、イチゴの方をじっと見ているとイチゴがますます真っ赤になって、まるで汽車のように頭から「シュー!」って蒸気を上げてぼくに向かってさらに叫びはじめた。

「うぉらぁ!とっととしろって言ってるだろうがぁぁあぁ!」

いつもと180度違うイチゴの口調にぼくのせすじは「シャン」と音を立てて伸びる。少しでも早くイチゴのもとにたどり着くために、数メートルも離れていないのに慌ててイチゴに駆け寄った。

「つ 杖でリンゴをとればいいの?」

「どぅぉらぁ!無駄口叩かずにとっとととらんかいワレぇ!」

コイツ、怒らせたらヤバイヤツだったんだな…。いいヤツだと思ったのは撤回だ。そう思いながら、ぼくは杖でリンゴの実を落とそうと、えいっえいっと掛け声をかけながら一生懸命リンゴに向かって杖を振り続ける。

「おめぇ、魔法が使えるんじゃねぇのかぁ?えぇ?!」

な 何を言ってるんだコイツ…?魔法が使えるの?ぼくが?そんな設定知らないよ。っていうか目が血走っていてコワい。今すぐ逃げれるものなら逃げ出したい…

「い、いや。そんなの知らないよ…」

小さな声でイチゴに言ってみたけど、まったく聞く耳を持っていないようだ。相も変わらず頭から湯気を吹き出しながらリンゴの方ににらみを利かせているイチゴ。あぁ…心の奥底から関わりたくない…。

「っんだぁ?使えねぇなぁ…」

リンゴを見るような厳しい目でぼくをみてくるイチゴをもう直視できなくて、僕は地面や足先とにらめっこする。もう嫌だ…かえりたい。帰る場所なんてわからないけど、今すぐ帰りたい…。はやくどこかに帰りたい…。

「よし!トビー!杖を持ち上げろぉ!俺様を上に乗せてリンゴまで持ち上げるんだぁ!」

お…おれさまですと?これがイチゴの本性か!?ていうか、コイツはほんとうにイチゴなの?よく見たらヘタもついてないし、頭から湯気を出すくらい沸騰してるくせに形状維持してるし…。本物のイチゴだったらぐずぐずになりそうなもんなんだけどな…

「あぁん?俺様の言う事が聞けないって言うのか?!おぉん?」

やべー。こいつはヤベー。モタモタしてるとやられる…。とっとと言う事を聞かないと…

よいしょ

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ぼくは一生懸命イチゴを杖の上に乗せてリンゴにめいいっぱい近付ける。

「よしっ!トビー!いい調子だ!」

腕の筋肉が悲鳴を上げ始めたぼくは、目をぎゅっと固くつぶり全神経を杖をもつ手に集中させる。プルプルも限界だ…

ぬぉぉぉぉぉぉっ


手が砕け散るかとおもったその瞬間、ふっと杖にかかる重力がどこかへ飛んで行ってしまった反動でぼくはまたしてもしりもちをついてしまった。

いてててて… 2回もお尻を打っちゃったよ…。4つに割れてなければいいけど…

ずきずきするお尻を気遣いながら、周りを見渡すと、イチゴが誇らしげにリンゴを両手で頭の上に持ち上げていた。


「ひ… ひとつ聞いてもいいかな?」

「なんでござりまするか?」


あ… 戻った


「リンゴに向かうきみの狂気は、ちょっと異様なものがあったんだけど、リンゴに親でも殺されちゃったの?」

「ふぉっふぉっふぉ。リンゴが親を殺せるわけないじゃないでござりましょうか。ミミトビネズミになって、頭が軽くなったんじゃござーませぬか?」


あ… 戻りきってない


というか、これがコイツの本性なんだな、やっぱり。ヤベー。関わらなくていいのなら、今すぐにでもどこかに逃亡したい…。そんなぼくの気持ちに気が付いていないように、イチゴは話を続けた。

「昔っからですねぇ、『赤い果物なーんだ』と言ったらイチゴに決まっているのに『リンゴ』っておっしゃるおぼっちゃまがいらっしゃったり、『三文字のそのまま食べれるくだものは?』と言ったらイチゴに決まってるのに『リンゴ』なんてちゃんちゃらおかしい事をのたまうおじょうちゃまがいらっしゃたりとね。色々と納得できねぇことが積み重なっていたのでござりまするのですよ」


よくわかんない。


「は   はぁ。そうだったんだね…」

ぼくの答えに納得したのかイチゴは得意げな顔をしながらリンゴにかぶりつきはじめた。

そんなイチゴをながめながらぼくは、一刻も早くこの旅を終わらせるために何をすればいいのか一生懸命考える。そして、イチゴじゃないかもしれないと一瞬思ったコイツはイチゴで正解なのかもしれないと再度思いなおした。


思いなおしたい


切に


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