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1/6:ふくぶくろ


 岳としぐれが暮らすマンションのすぐ近くにある商店街は活気がある。季節ごとのイベントもあるし、なにより、買い物客が多い。
 郊外出身の岳には、車で乗り付けて買い物をする大規模なショッピングモールのほうが馴染みがある。が、下町らしさの残る都心部というものの良さはわかる。
 日課の散歩で歩く商店街は迎春ムードが濃い。昔ながらの商慣行が残る地域であるから、年明け五日くらいまでは休みで、新年初売りを迎えるのが六日、七日あたりになるのだ。とはいえ大規模視閲とは違って、初売りといっても、ほとんどの店は松飾がある程度のものだ。それもまたいい。
「たくさんひとがいます。なんでしょう?」
 機嫌良く歩いていたしぐれが言って、繋いでいた手をひっぱった。
「安いのかもな。初売りだし」
「はつうり」
 しぐれは口を丸くして言って、魚屋の方へ歩き出した。阻止するのは簡単なことだが、散歩だ。行きたい方に行かせてやっても何の問題もない。

「おさかな屋さんはお買い得の日ですか?」

 しぐれは迷いもなく、近くにいた買い物客のひとりに声をかけた。魚屋の行列は結構長くなっている。
「お買い得ではないけど、福袋があるんだよ」
 年季の入った主婦らしい客は軽く腰を屈めて、しぐれに答えてくれた。目を細め、「賢いぼうやねえ、いくつ? しっかりしてるのねえ」としみじみ感想付きだった。
 しぐれは左手の親指と人差し指を立てて、にさいです、と応えた。ぱっと笑ったのはサービスだろう。
「おしえてくれてありがとうございました」
 しぐれは丁寧に言ってから、岳を見上げた。買い物客の主婦はぐにゃぐにゃの笑顔になっている。しぐれはかわいいから、仕方がないことだ。
「岳、しぐれもふくぶくろが欲しいです」
 語彙も文法も完璧なしぐれだが、口周りの筋力と舌の長さは二歳児だ。『福袋』は言いにくいらしい。かわいい。だが、平常心。
「……並ぶぞ」
「はい!」
 岳はしぐれを抱き上げて、行列の最後に加わった。

 


(こうかいがおそくなったのですけど 書いた日付で いちがつむいか)

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