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【技術読み物】ルースの「ウィンドウ」の話

海中から真上を写した写真を見たことがありますか? Google画像先生で「海中 真上 見上げる」で検索しても見付けることができます。 「真上にぽっかりと丸い穴が開いた様に空が見える」 「穴の外側は鏡の様に海中を映している」 という不思議な画です。
これは水中レンズの効果とかではなく、水と空気の界面が起こす現象です。 それでは、その界面で何が起こっているかを見て行きましょう。
水中から上を見る場合の光の道は図の様になります。青は透過光、赤は反射光です。反射光は同じ角度で反射しますが、透過光は界面で折れ曲がり、斜めの角度が大きい程、曲がり方も大きくなります。

「あれ?このままずっと斜めにして行くとどうなるの?」と思いますね? 図の様に、ある角度に達すると屈折した光は完全に界面と平行になってしまいます。 この角度を「臨界角」といい、この角度より外側では光の行き来はできません。反射光のみが見えることになります。

実は、最初に挙げた海中写真ではこれが起こっているのです。空の見える丸窓を描く角度が臨界角です。 水の場合の臨界角は48.6度です。
臨界角より外側では「全反射」が起こり、完全な鏡面となります。 余談ですが、この性質を利用したのが光ファイバーで、表面に鏡面塗装をしていないのに中で光が反射して進んでいくのは、全反射を利用している訳です。

さて、臨界角の内側ではどの様になるのでしょうか? 実は「反射→透過」と段々変化するのではなく、図の様に急激に透過光の割合が増えます。海中写真で、丸く切り抜いた様に空が見えるのはこの為です。

そろそろ見当が付いた方もいらっしゃると思いますが、「ルースのウィンドウ」はこれと同じ原理です。 「斜めの角度」がある値を超えると、急激に素通しになってしまうのです。
単純化してクラウン側を省略すると、ファセットカットの石はこんな形になっています。真っ直ぐ上に延びた長い線は視線、右斜めに伸びた短い線はパビリオン面の垂直線です。

ぐるりと回転させて、パビリオン面を水平にしてみると、先の水の例と同じになっているのが分かるでしょう。

つまり、パビリオン側の面の角度が臨界角以上になっていないと、ウィンドウとなって向こう側が見えてしまう、ということなのです。

さてここで、みんな大好き三角関数の時間です。 sin(臨界角)=1/屈折率 という関係があります。これを書き換えると 臨界角=arcsin(1/屈折率) となります。
この式を用いると、宝石の臨界角は ダイヤモンド 24.4度 ガーネット 33.7度 水晶 40.2度 等となり、屈折率が低い程、斜めの度合いを強くしないとならない、ということが分かります。
いわゆる色石は高さがあるものが多いですが、高さが必要なのではなく角度が必要なのです。
パビリオン側がステップカットの様になっている場合、中心に近い側の面ほど角度が小さくなります。そのとき、角度がその石の臨界角を割り込んでしまうと、そこはウィンドウとなって向こう側が見えることになる訳です。
余談ですが。双眼鏡に使われるポロプリズム、一眼レフカメラに使われるペンタプリズム等は、この全反射を実に上手く使った光学設計です。

さて、話を戻して、そんなにくっきりと角度で分かれるものなのか? と疑問を持たれる方も多いと思いますので、ちょっと試してみましょう。 こんな形を作ってみます。水晶の屈折率は1.55で、臨界角は40度ですから、2段目と3段目のファセットの間に臨界角が存在することになります。

透け具合が分かる様に、背景にチェック柄を入れて試したものがこの画像です。見事に2段目と3段目の間で見え方が変わっています。臨界角を割り込んでしまっている下2段のファセットでは、向こう側が見えてしまっています。まさにこれが「ウィンドウ」の正体です。

少し斜めにすると、見え方も変わります。透けていなかったファセットが透け、透けていたファセットが透けなくなっています。

これらの画像はあくまでもシミュレーションですけれども、リアルに見せる為の光学計算をしている為、再現性は高いです。

という訳で「ルースのウィンドウの話」、参考になりましたでしょうか? これに限らず、再現性のある現象はきちんと説明が付くことが大概である、という点でも参考にして頂ければ何よりです。
そして是非とも「三角関数なんてどこに使うんだ!」という件についても、実は見えないだけで色々なところに登場するのだ、ということを知ってください(笑)

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