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「Small Gift Big Smile」歌詞の考察

ハーモニーランドで行われている「パレードパラレル」
「Small Gift Big Smile」はその最後に流れる曲です。
サンリオの企業理念には「ほんの小さな贈り物が大きな友情を育てます」とあります。
贈り物が大きな友情を育てるというのはありえるのでしょうか?
そもそも贈り物ってなんなのでしょう?
ただ商品を売りたいだけじゃないの?

「贈り物」の本質に触れながら「Small Gift Big Smile」の歌詞の意味に迫っていきたいと思います。


あらすじ

まずはじめに贈り物の効果と価値について述べる。
長いので、歌詞の考察だけ知りたい人は、贈り物のまとめから読んでもらってかまわない。

次に「Small Gift Big Smile」の歌詞の考察に入る。レヴィ=ストロースの考える贈り物の考えから、この歌詞を解釈してみる。


贈り物の心理的効果

贈り物の本質とは?
民俗学者であるレヴィ・ストロースはこう言う。

贈与という行為が、「持てる者が持てない者へ、代償を求めずになにかを与える」。こういった愛他的な動機に基づくものではなく、与えることによって、相手に心理的な負い目を感じさせ、返礼義務を発生させることを目指している。

×「持っている人が持っていない人へ、見返りを求めずになにかをあげる」
〇「相手になにかをあげることで、「お返しをしないと!」という気持ちを持たせる」

そして、たとえ贈り物へのお返しを行っても、お返しをしないと!という気持ちは残る。なぜなら、お返しというのは必ず多い。もらった物より多く返すので、多くもらった分の「お返しをしないと!」という気持ちが生まれる。贈り物をしたときには一時的にこの「お返しをしないと!」という気持ちは晴れるが、お返しのお返しをもらってしまうと、またこの「お返しをしないと!」という気持ちにさせられる。贈り物は相手に「お返しをしないと!」という負い目を負わせることで、一時的に立場が上になる。

贈ることで相手に「お返しをしないと!」という負い目を負わせ、そのお返しもまた「お返しをしないと!」という負い目を負わせる。
贈り物の本質とは、贈り物によってお互いの関係性を崩し、お互いの関係性がリセットされるまで、贈り物が行き来することにある。

実際に、返報性の原理法則と言って、人から何かしらの施しを受けたとき、「お返しをしなくては申し訳ない」というような気持ちになるという心理作用があることが知られている。
贈り物は交易を起動するスイッチになる。


贈り物の価値

贈り物の価値とは何か?

贈り物は内在する有用性によって価値を持つわけではない。つまり、贈り物にはそれ自体に価値はない。交換されてはじめて贈り物は価値をもつ。「経済的価値」が「もの」のうちに自存するのではなく、「交易が維持された」という事実がもたらす事後的な効果である。

レヴィ=ストロースによれば、交換システムは財貨サーヴィスの交換(経済活動)、メッセージの交換(言語活動)、そして女の交換(親族システム)の三つの水準で展開している。いずれの場合も、最初の贈与によって「与えた者」が財貨を失い、「受け取った者」が反対給付の義務を負う。そうやって無限に不均衡が再生産される。

メッセージの交換について考えてみよう。「語られたこと」の意味が、「語ること」に先だって自存することはありえない。

例えばプロポーズはどうだろう?プロポーズの言葉はそれ自体に価値はない。プロポーズの言葉とは、それを伝え、受け取って初めて価値を持つ。伝えるより前に、そのプロポーズの言葉は価値を持たない。ただの心のもやもや、あるいは1人で発してたらそれはただの空気の振動である。
プロポーズの言葉という贈り物をすれば、相手はその返事をしなければいけないという心理的圧力を感じ、返事をする。その返事の内容によって2者間の関係に変化が生まれる。この2者間の関係の変化が起きたからこそ、贈り物には価値があったと事後的に決定される。

贈り物の価値とは最初から決まっている物ではなく、交換されて価値が生まれる。

つまり、贈り物の本義は、価値のあるものを交換することにあるのではなく、贈り物の交換を成立させることによって「ここには交換をする二人の人間が向き合って共存している」という事実を確認し合うことに価値が生まれる。



贈り物のまとめ

贈り物は、相手にお返しをしないと!という心理的な圧力を与え、それによって交換がはじまる。
贈り物の価値は交換されてはじめて決まる。



「Small Gift Big Smile」歌詞の考察

さて歌詞の考察に入っていきます。

「Small Gift Big Smile」(以下SGBS)歌詞の1番と2番から引用です。

小さな贈り物 あなたのもとに
勇気を出して 届けよう
高価なものじゃなくていい ささやかなもので構わない
自分信じて贈れば きっと笑顔がこぼれる
幸せの時が動き出す 君はもうひとりじゃない (明日へ)

小さな贈り物 思いを込めて
怖がらないで 届けよう
高価なものじゃなくていい ありふれたもので構わない
素直な気持ち贈れば きっと笑顔が弾ける
幸せの歌が聞こえ出す 君はもう孤独じゃない(明日へ)

1番2番ともにAメロでは、勇気を出して贈り物をしましょうという内容です。
Bメロでは、「幸せの時が動き出す」「君はもう孤独じゃない」と、贈り物をした結果が書かれています。
要約すると、勇気を出して贈り物をすると、時が動き出し、孤独でなくなる。

ここで贈り物のまとめの内容を振り返って、贈り物について思い出してみる。
贈り物には、贈り物をすることで交易が起動し、両者間に不均衡が生まれ、お返しが行われるという効果がありました。
そして、贈り物は交換してこそ価値が決まる。

私の考察はこうです。

贈り物をするとお返しをしなければいけない。
つまり、贈り物は、贈る相手との止まってしまっていた時間を動かす効果がある。
これはバレンタインでチョコを贈ることで関係性が変化するというよりは、はがきをイメージしてほうがわかりやすい。
学校を卒業して何年も会っていない友達は忙しい生活の中でどうしても忘れてしまう。いつしか無関係な人間になってしまう。しかし、はがきという贈り物を交換することで、思い出したり現状を知ったりする。
つまり、贈り物で止まっていた人間関係が動き出す。

贈り物は贈ってはじめて価値が決まる。
つまり、贈り物は自分にとってささやかな物でかまわない。
相手がお返しをしなければという心理的圧力を感じ、そこに交換が生まれることで価値が生まれる。
贈らないことには贈り物の価値は決まらない。
交換をする二人の人間が共存しているという事実を確認し合うことに価値がある。
そこに孤独な人は居なくなる。


「Small Gift Big Smile」歌詞の考察のまとめ

おさらいしてみる。

贈り物は、相手にお返しをしないと!という心理的な圧力を与え、それによって交換がはじまる効果があり、贈り物の価値は交換されてはじめて決まる。

贈り物をすれば、無関係な人間との交換によって止まっていた時間が動き出し、孤独がなくなる。

まさに、贈り物それ自体に価値があるのではなく、贈り物をするという行為で価値が生まれるというレヴィ=ストロースの考えを引き継いでいるのではないだろうか?

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