2019年ノーベル物理学賞予想

今回は、10月8日に発表されるノーベル物理学賞の予想をしてみよう。ノーベル賞の予想は正直言って難しい。自分が馴染みのある分野や有名な分野に偏りがちだし、すべての研究を網羅できているわけでもないからだ。でも、これは年に1回のお祭りだと思って、浅い知識を動員し、がんばって予想してみる。

まずは、ここ最近の物理学賞の受賞理由を振り返ってみよう。

 2007年 巨大磁気抵抗の発見
 2008年 自発的対称性の破れ、CP対象性の破れ
 2009年 光ファイバー内光伝達、CCD素子
 2010年 グラフェン
 2011年 宇宙の加速膨張
 2012年 量子系の計測、制御(量子コンピュータを実現するための技術の実証)
 2013年 ヒッグス機構(ヒッグス粒子)
 2014年 青色発光ダイオード
 2015年 ニュートリノ振動
 2016年 トポロジカル相とトポロジカル相相転移
 2017年 重力波検出(LIGO)
 2018年 光ピンセット、超高出力・超短パルスレーザー

これを見て気づいた方もいるかもしれないが、物理学賞は物性分野とそれ以外の分野が交互に受賞している。ということで、今年は物性以外の分野、つまり、宇宙や素粒子などの分野での受賞の可能性が高い。でも、当てずっぽうには選べないので、物理学賞の場合は、クラリベイト・アナリティクスが発表している引用栄誉賞(少し前まではトムソン・ロイターだったが)の受賞者の中から可能性が高そうな人を選んでみることにする。

すると、2013年におもしろそうな受賞者を発見した。「系外惑星(太陽系外にある惑星)の発見」というトピックスに対して、スイスのミシェル・マイヨール博士、ディディエ・ケロー博士、アメリカのジェフリー・マーシー博士が引用栄誉賞を受賞している。マイヨール博士とケロー博士は1995年に世界で初めて系外惑星の観測に成功し、ペガスス座51番星bを発見した。マーシー博士は初期の系外惑星観測に貢献し、たくさんの系外惑星を発見している。

系外惑星は今や3000個以上発見されており、地球に似ているものもたくさんあることが知られるようになり、学問分野としても盛り上がってきているので、ここら辺で受賞があってもいいと思う。ただし、受賞するとしたら、マイヨール博士とケロー博士の2人となるだろう。マーシー博士は、2015年にセクハラ問題が発覚しているので、受賞となると国際的に反発を招くと予想されるからだ。そして、3人目がいるとすれば、近年、系外惑星の研究を飛躍的に推し進めたケプラー宇宙望遠鏡の関係者に贈られるのではないだろうか。

個人的には今年はダークマター関連の研究に物理学賞が贈られてもいいのではないかと思っている。たくさんの銀河を観測して、ダークマター仮説を生みだすきっかけをつくったアメリカのベラ・ルービン博士は惜しくも2016年にお亡くなりになっているので、この分野で受賞するとすれば、重力レンズ効果を利用してダークマターのある場所を調べるというアイデアを出したデイビッド・ベネット博士かなと思う。ダークマターは、まだその正体がわかっていないところが、弱い部分ではあるので、正体がわかってから受賞するのではという弱気な予想もできるが、間接的に存在し、宇宙の構造にも大きな影響を与えてきたということもわかってきているのだから、このタイミングでもいいのではないかな。

そして、もう1つ挙げるとすれば、宇宙マイクロ波背景放射観測衛星(CMB)のWMAPのグループ。CMBは、2006年にCOBEのグループが受賞している。WMAPはその後継にあたるグループで、この観測から宇宙の年齢や組成が計算できるようになった。宇宙の年齢や組成は、その後、ヨーロッパのプランク衛星の観測で修正されたが、WMAPの観測は大きなインパクトがあったはずだ。実はWMAPに関わった3人の研究者が、2010年の引用栄誉賞を受賞している。アメリカのチャールズ・ベネット博士、ライマン・ページ博士、デイビッド・スパーゲル博士だ。WMAP観測が受賞すれば、この3人に物理学賞が贈られることになるのではないか。

かなり偏っているけれども、今年の物理学賞の予想はこれでいってみたい。どういう結果になるか楽しみだ。


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