愛が減少する場合の話(思い出すこと・これからのこと)1

思い出すこと

私は彼女が笑ったところを見たことが無かったな、と思った。
いかにもお愛想で、やっている職業柄からくるスマイル以外には、ほんの少しも、本当に可笑しくて笑っている、というところに出くわしたことがなかったのだ。気さくで話好きな人のように見えるのに、意外な気もした。

だから、あなたが笑ったところを見たことが無い、とついそのままを言った。

そうよぉ、友達じゃないから。

と返ってきた言葉に、

そりゃそうだ、そんなに親しくないんだから、こっちだって友達と思ったことなんてない。と心の中で答えて、とりあえず、ふうんという顔をして流した。

友だちじゃない、という言葉は私には味わい深かった。「友達」が大事なお国柄の人が言うんだから、と思って。(単に、嫌われていたんだろう、ともいえる。)


それからしばらくして、急に彼女が高らかに笑いだす機会に出くわした。でも、ちっとも面白くない話をしながらだったし、当の本人さえも可笑しいのかなんなのかわからない笑い方で笑い続けていた。正直言うと、笑っているところを見たくなかったくらいだった。どう反応していいのかよく分からなかった。

あとで、話していた内容を思いかえして思った、きっと、彼女にとっては、笑い飛ばしたいようなことだったんだろう。(いつまでも、ある場所に残っている壁の話をしていた…)
結局、彼女と友達になれたのかどうかはうやむやだった。別に、今思えばそんなこと、どっちでもいいんだけど。

***

私は数年前に、寂しいという気持ちが干上がってしまったみたいで、寂しい時の苦しさは覚えているんだけど、寂しさからそこまで苦しむということが、もう殆どなくなってしまった。それ以外に悩まされる問題はいくらもあるので、ぶっちゃけ有難いことだと思っている。
傍らに、寂しい苦しいと唸っている友達がいたとしても、「寂しいという気持ちは、とても人間的だね」なんてうかつに言ってしまいそうなくらいである。なんでそう寂しくなくなったのだろう。あんまりいいことでもないのだろうけど、苦しくないのは、実際ひとつでも嫌なことが減ってありがたい、そんな気がする今日この頃ー、でしかない。

私はいつまで寂しいだのなんだのって思っていたんだっけ。2018年の私はそういえば寂しさが無くなってきていて、時々、もう寂しくて寂しくてアカーンという状態になってしまった友人の暇つぶしに付き合っていた。その時まるで、過去の自分を慰めているみたいな気がした。私はうってつけの部署に配属された…様な感じ。必要があってその友のため派遣されてきた看護人のような、奇妙なはまり感があった。

寂しくて寂しくて。
誰でもいいから。
話しがしたい。

とか、
そういったことを思わなくなって、結構長い。薄く寂しいと思うときはあるんだけど、それはまるで、がわしかないまんじゅうみたいな重みのない感情で、もしこんなものを売ってしまったら、これはまんじゅうじゃないと怒られそうな、とにかく寂しさとしては大事な部分が欠けてしまっている。
もしかすると寂しいと感じないことのほうが、よほど寂しいのかもしれないが、そういう文学的解釈もいい加減面倒くさいだけだったりする。いやほんと勘弁してくれというか…

思う。寂しいというのは、誰かを結構、まっすぐな想いで好きでないと、湧いてこない感情なんじゃないか、と。好きもいろいろ、あるんでしょうが。それかせめて、自分をまっすぐ好きなのだろうか。つまり人間を好きってことか。

***

これからのこと

寂しさという感情が、またなにかで戻ってこないとも限らないが、振り返っても、寂しさは邪魔になることばかりだったから、今は都合がいいとしか言えない。

冒頭書いた昔の会話は、(減少しつつあったとはいえ)まだまだ寂しい気持ちが存在していた頃の話だ。私はそもそも、あんまり感情豊かな人間ではなかったのかもしれない。子どもの頃なども、ぼぉーっとしていて、人情のわからないところがあったような気がする。ただそれはそれでいいんじゃないとも思う。(だって、否定したらかわいそうである。)

いろいろを思い出すと、人が友達なのかどうかを決めるのは、それなりに会っているからでも、長く関わったからでも、特別ひどい喧嘩をしなかったからでもなく、ただ現在もその相手へのシンパシーとか、信頼、または何かしらの好ましい感情が生きているのか、どうかだけという気がする。生きていれば繋がりがあるのであり、枯れていればそれは途切れてしまっている。今も考えると、点滅する感情を追って拾い集め また、できるなら、再度繋げたい人間関係が案外と、あると思ったりする。
そしてそれが案外、物事をうまくいかせる、鍵なのかもしれない。頼りなくて、自分でも半分あきらめているような、空想みたいなものでかまわない、ダメ元。

また友達と思える人に会いたいから、そういう人と話して、笑いたいから。そっちをもう一つの中心に据えて動いていってみよう。書いていて思った。

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