【AR Talk】ARの真価を模索し続ける服部氏が語る現状のARの課題と解決の糸口
ARの技術やトレンド、未来について語り合う対談記事シリーズ「AR Talk」!
第二回はサイバーエージェント社内の技術調査・価値創出プロジェクト、「ARギルド」のリーダーを務めておられる服部さんにお話をお聞きしました。
今も多くのARデベロッパーが模索し、苦悩する「本当に有用なARアプリとはなんなのか?」という問いを解くために様々なARのアウトプットを出されている服部さんにアウトプットを出していく中での気づきや考えをディスカッションさせていただきました。
AR開発サイドプロジェクト「ARギルド」について
ARおじさん:まずは自己紹介からお願いします!ARに興味持った経緯なども入れてもらえると嬉しいです!
服部さん:了解ですー!少し緊張してますがw
AbemaTV所属の服部 智(ハットリサトシ)です。
2017年2月よりAbemaTVのiOSアプリ開発チームに所属し、Swiftでガシガシ開発してます。iPhone3GSの頃からiOSでのアプリ開発をしています。2018年前半からサイバーエージェント社内の技術調査・価値創出プロジェクトであるギルド制度にてARギルドのリーダーとなり、本業と並行して日々調査やプロトタイプ作成進めています。
ARに興味を持った経緯としては、ARToolKitや初音ミクを現実に召喚するデモ動画を見て「うおお、凄いな」と感じたのが初期の頃の思い出です。その後、iOSで動作するAR系のライブラリを色々と動かして試したりしました。MetaioやSony製ライブラリやQoncept製ライブラリなどなど。
ARおじさん:ありがとうございます!結構色々なARライブラリを触られてるんですね。ARToolKitだと結構モバイルARの早い段階からご興味もたれてたんですね。
ARをどのように自社のメディア事業に活用できるかを探求
ARおじさん:服部さんがリーダーを務めておられるARギルドについてもう少し詳しくお聞きしたいのですが、具体的にはどういった活動をされているのでしょうか?
服部さん:はい!サイバーエージェントのメディア事業としてAR技術利用の先鞭をつけるべく動いています。
本業とは別途で時間枠と予算を確保されており、10人弱のエンジニアが活動しています。
普段はSlackでAR活用の事例や考察を共有し議論しています。毎週のもくもく作業時間と毎月2回定例ミーティングを行いプロトタイプ作成の進捗を共有しています。
6月にはソニーでVR/AR事業を推進している、コンテンツ開発課 統括課長の戸村さんとお会いしました。
SXSW 2018で"音響回廊 オデッセイ"等のディレクションをした方です。VR系展示コンテンツ作成の進め方、クオリティの上げ方、アーティストとの連携の話など有り難い話が聞けました。
また、ARグラスデバイスを購入し検証を進めようとしています。
ARおじさん:かなり本格的なコミュニティですね!かなりARの知見がたまりそうだし、自分も参加したい笑
外部の方と意見交換するのは本当に大事ですよね!特に今は日本でのARの知見ってウェブ上などにもあまり無いので、自分が対談を始めたきっかけもそこにあったりします。
服部さん:ARおじさんのブログとTwitterはかなりの頻度で参照させて頂いております m(_ _)m
ARおじさん:それは嬉しい限りです!
「それはARである必要があるのか?」に応えることが難しい
ARおじさん:メディア事業としてAR技術利用を考えておられるということでしたが、ARギルドで作っているプロトタイプもメディア系のものが多いのでしょうか?
服部さん:ギルドのミッションとして掲げられているので、メディア系の物が中心です。
まだまだギルド内のプロトタイプのプロトタイプ的な段階でビジネスサイドとの関連は全くありませんが、具体的にはAbemaTVのAR活用の試作案であったり、マッチングアプリでの表示/操作でのAR活用、既存IPを使用しての簡易的なARゲームなどです。
ARおじさん:おお、面白そう!具体的にどんな作品なのかなどを代表作などでご紹介してもらえたりします?
服部さん:例えば「AbemaTVのAR活用の試作案」は"壁もしくは机に放送画面をARオブジェクトとして表示し、その外にチャンネルリストやコメントリストを配置する"表示系デモです。
大きめの机に画面と諸コントロール群を配置すると新鮮で、便利に使えたり立体的な表現ができるかも!という印象を持っています。
ただ、やはり課題も見えてきて「ARである必要はあるのか?」「それを皆は本当に使いたがるのか?」という問いは常に頭に置いています。
そして...まだまだ超えられていないですね。
ARおじさん:なるほど、「ディスプレイの枠に制限されない」というのARのメリットの一つですし、便利になりそうですね。
確かに現状だとスマホを通したARしか一般消費者向けには提供できないですし、理想とのAR体験との乖離はARアプリデベロッパーの悩みのタネになりそうですね。。。
上記挙げられている二点はARアプリを作る上でかなり重要な視点だと思っていて、ARだと「おお!」と思わず驚いてしまうようなコンテンツをつくりがちですが、果たしてそれがユーザーに使われ続けるかというとそうで無いものの方が多いですよね。
幾多のプロトタイピングを通して見えてきた「ARの真価」の7つの糸口
ARおじさん:いくつかのプロトタイプ作品を通して、「ARである必要があるもの」や「みんなが使いたがるAR」などの解はARギルドの中、もしくは服部さん個人の考えとして見出せつつあったりしますか?
服部さん:個人的な考えで粒度も様々ですが、いくつか得たものがあります。
- グラス型、コンタクトレンズ型を前提とするのも有り
- センサーデータの重ね合わせは価値がある
- マニュアル電子化 + 現実の物認識 は価値がある
- 現実の物経由でネット上情報への最短アクセスは価値がある
- 映像へのARリアルタイム合成は価値がある- 触覚と音が次のフェイズのキーとなるのではないだろうか
- ARだからといって平面を見つける必要はない
ARおじさん:おお、面白い!挙げていただいた全てについて議論して行きたいですが、分量の問題もあるので幾つかピックアップしてお聞きして行きますね。
今の技術ではなく未来から逆算してARアプリを作ってみる
ARおじさん:「グラス型、コンタクトレンズ型を前提とするのも有り」というのはどういった経緯からこのような考えに至りましたか?
服部さん:まず、スマホやタブレットを構える操作は自然な使い方ではないよね、という感覚はメンバー全体で共有されている状態です。
それでも自然と思える使い方や場面を想定してアイデア出しをしていたのですが「やはりこれはグラス型デバイスじゃないと成り立たない...が、あったら凄く良さそう」という物が多数出てきました。
ARおじさん:これ、すごい分かります!ARkitなどの登場でARアプリケーションの開発はやりやすくなった一方で我々が思い描くARのアプリケーションを作ろうとするとUI/UX的に全然フィットしないものができてしまう。
その結果、今のARアプリデベロッパーは「スマホで可能ななんちゃってARアプリを作って市場に出す」か「今は市場に出せないけど将来のグラス時代を見据えた研究ARデモアプリを作る」のどちらかの選択肢しか取れなくなってしまっているなぁという印象です。
服部さん:ですよね!スマホARで作ったものたちを全て切り捨てるよりも、一旦活かして要素を取り出してみるプロセスに転化していっています。そうしないと行き詰まった、ということもありまして(笑)
未来から逆算して2018年でどこまでその価値を作れるだろうか、と。
ARおじさん:その発想は自分たちもすごく大事だと思っていて、先日弊社で行った合宿でも2040年のグラスが当たり前になった未来をみんなで予測することで自分たちがいまやらなくてはならないことについて向き合う時間を設けたりしました。
ただそういった未来を見据えた上で作れるものって会社の事業にできるようなものじゃないことの方が圧倒的に多いので、その意味でも服部さんたちが取り組まれているARギルドというコミュニティはこれからAR/VRを見据える事業をする上ではとても理にかなった組織の在り方だと思います!
服部さん:MESONの合宿の話はARギルドを運営している私にとって大きな刺激になりました。機会があれば真似させて頂こうと思っています!
ARおじさん:ぜひ挑戦してみてください!
「現実からネット上情報への最短アクセス」はARの一つの価値
ARおじさん:「現実の物経由でネット上情報への最短アクセスは価値がある」というのは僕も考えています。
いくつかTwitter上でもデモしてる人とかもいますけど、自分が印象に残ってるのだとYuma君のゲームパッケージを認識したデモはこれからのウィンドウショッピングを拡張していくイメージがついてよかったですね
服部さん:Yuma君デモ良いですよね!
ARおじさん:めっちゃ若いのにすごいクールなARデモみせてきますよねぇ(笑)
上記のデモは「現実の物経由でネット上情報への最短アクセス」を画像認識で行なっていますが、個人的にはここら辺はGoogle が今提供しているGoogle Lensアプリがそこに向けて着々と準備を進めている印象を受けます。
Googleはインターネット上の情報を最も正確に把握している企業と言えますが、それらの情報と現実世界をつなぎ合わせる精度を高めることでAR時代のWebブラウザを確立しているのではと考えています。
服部さん:なるほど、Google Lensアプリ及びGoogleのその動きは把握していませんでしたが確かに。
GoogleMapsが出た時にはブラウザ上の地図ブラウズが圧倒的に便利になり衝撃を受けましたが、AR時代のWebブラウザとして圧倒的な物が発表される可能性大いにありますね。
触覚を拡張することでARはより価値を持つ
服部さん:触覚に関しては、まずこの動画で「うおお!」と衝撃を受けました。
キツネが手のひらに乗った感覚は本当に生きている動物感があるだろうな!と。
視野角が十分に広がって皆の視線が手元のスマートフォンから現実世界を向くようになった後、現実の物体は触れるのに仮想の物体は触れない、という課題を解決する動きが加速するはずです。
仮想物体においても、間違いを起こしにくいデザインや触感の再発明が行われ、それが洗練されてるアプリケーションが愛用されるであろうと。
ARおじさん:なるほど、これはVR/ARがメインストリームになった時代のUI./UXの一つのヒントになりそうですね!
ARの体験をよりリアルにするために、視覚ではカバーしきれない部分を補う分野が次は音と触覚であると。
服部さん:そうですね。視覚の部分でまだ進化は続いていくはずなのでちょっと先かもですが、このあたりをがっちり実装できれば素晴らしい体験になりそうだとワクワクしています。
ARの真価の引き出し方はまだ多くの開発者が見つけられていない
ARおじさん:上記に挙げられた、これまでに得られた知見を踏まえて、これから服部さんが作ろうとしているものについて可能な範囲で教えていただけたりしますか?
服部さん:映像 x ARの具体的なソリューションとして、放送映像を解析しAR的演出を付加する機能やマッチングアプリで利用し情報量を増やす表現などを調査・実装しています。
また実物大の3D人物モデルを同じ空間にARで表示しマッチングに役立てる実験的なアプリを計画しています。
ですが正直なところ、この段階でもがいている最中です。
サイドプロジェクト故に時間確保が難しい点や締切ドリブンになりがちな事を上手く乗り越えて、しっかり実現していきたいと思っております。
ARおじさん:めっちゃ面白そうですね~!僕も参加したい(笑)
もがいてる部分としてはどういった点が一番苦戦されてますか?
服部さん:一番もがいているのは「本当にこれは便利なのか」「これを使い続ける人はどれだけいるのか」「自分はこれを毎日使いたいと思うか」
という問いに打ち勝つ確信や予感がまだ得られていないことです。
ARおじさん:これは今AR/VRに関わるデベロッパー全ての人に共通する課題かなと思います。
だからこそ、以前AR飲み会も開催しましたけど、ARに関わる人が会社や立場など関係なく情報共有していきながらみんなで「どんなARアプリが本当に役に立つのか」を一緒に考えて行くのは大事かなと思ってます
そういう意味でもARギルドも良いコミュニティですよね
服部さん:またサイドプロジェクトが故に時間確保が難しく、下手をしたら目立ったアウトプットが出来ないまま3ヶ月〜半年経つ可能性もあります。
これからのAR開発にはデザイナーの力が求められる
服部さん:ギルドはエンジニア中心とした動きですが、企画段階からビジネスサイドを積極的に巻き込む必要があると強く感じています。
ARおじさん:ですねですね!後個人的にはデザイナーの方ももっと入って来てほしいです。
ARってあんまりUI/UXで解を出してるとこってUSとか海外でも少ないので、そこらへんを模索したい
GraffityのデザイナーのrisaさんがpemojiというARアプリを作る上で得たデザイン的な知見とかすごい大事だなって思います
服部さん:それ僕も同意で、もうすべてのスタートアップや新規プロダクト開発に"文脈を理解できる"デザイナが必須だと考えているくらいです。
AR開発のデザイン知見良いですね!読んでいて楽しい。
アウトプットを出し続けることを目指すARギルドのこれから
ARおじさん:そろそろ分量もいっぱいになってきたのでここら辺で締められればと思うのですが、最後に服部さんの方から今後ARギルドの活動などを通して、ARにどう関わっていきたいかや、読者の方へメッセージなどあればお願いしたいです!
服部さん:ARギルドを中心に今後も精力的にARを利用したサービスの検証/実装を続けていきます。
アウトプットをより表に出しつつ、皆を良い形で巻き込めていけたらと思っています。
10月、11月には社内外で発表する機会があるのでそこが一旦のマイルストーンです。界隈をザワつかせる物を出していきたいです。
今後ともよろしくお願いします!
ARおじさん:えええ!そんな発表があるんですか!それ僕も是非発表聞きにいかせてください!(笑)
対談にお付き合いいただき、ありがとうございましたー!
服部さん:こちらこそありがとうございました!!
まとめ
今回は「ARギルド」のリーダーを務めておられる服部さんにARプロトタイプのアウトプットを継続的に出していくことで徐々にわかってきたARの真価についてお聞きしました。
多くのARアプリ開発者も感じている通り、ARアプリ開発のセオリーはまだどこも見つけ出せておらず、ハードウェアの制約も大きいことからWebや通常のスマホアプリに比べるとまだまだキラーアプリケーションを作ることは難しい状況です。
だからこそサイドプロジェクトとして継続的にARアプリを作り続け、フィードバックをもらいながら研究するARギルドのような組織はARデベロッパーにとってとても重要な存在だなと感じました。
弊社MESONも社内でデモプロジェクトとしてAR/VRアプリを作成しながら、継続的にTwitterや会社ブログで発信しています。MESONのメンバーと一緒にAR/VRアプリを開発したいと思った方や企業様はぜひ弊社HPか私のTwitterからご連絡ください。
筆者紹介
ARおじさん
株式会社MESON COOのARおじさん。開発から事業作りまでやる何でも屋さんです。
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