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李宰相への牽制

 6月1日、中国紀検観察雑誌が『洗練された利己主義を捨てよ』(摒棄精緻的利己主義)と題した記事を掲載した。同誌は党員と公務員の風紀委員たる中央紀律検査委員会と国家監察委員会の直属だ。

 記事は、「洗練された利己主義とは、抜群に真に迫った演技と、堂々とした理由を利用し、念入りに飾り、巧妙に利己的で貪欲な本性を隠す」との定義から始まる。

 その代表例として、秦王朝の宰相だった李斯と、唐王朝の宰相だった李林甫を挙げる。

 李斯については「利益を追求し、自信を美化することに長けている」「卓越した政治的才能が隠したのは、利己的で貪欲な本性だった」、李林甫は「唐王朝が衰退することと、彼の洗練された利己主義は切っても切り離せない」「権力への執着と女じみた狡猾さから、腹に一物持っていると指摘されている」と猛烈に批判。特に歴史的評価から逸脱したものではない。

 歴史上の事象や人物を非難しながら、実際に非難したいのは別の事象や人物である指桑罵槐というやり方は、文化大革命期に行われた『批林批孔』が有名だ。

 失脚したばかりの林彪と孔子を並んで批判しているが、実際に批判したいのは現役総理の周恩来だったというものだ。中国らしい奥ゆかしいやり方である。

 今回は李姓の宰相が対象なので、本当の対象は李克強ということになる。

 記事の後半では、「学者型」で「名門校卒業」の一部幹部は、若くから重用されてしまい、さらに出世を望むようになると、財産を築き、私利を貪ると指摘。

 習近平が総書記になった第18回党大会以降、失脚した幹部の結末は洗練された利己主義だったと結んでいる。一部幹部との体裁ではあるが、この流れで李克強に矛先が向いていないと考える方が無理がある。

 李克強はこのところ経済政策に関する発言を繰り返しており、露出が増している。李克強自体はそこまで脅威ではないのかもしれないが、ゼロコロナ政策で経済が死にそうになっていて、立て直しを進めようとしている李克強を支持する集団が形成されることを危惧しているのかもしれない。

 掲載されたのが中国紀検観察雑誌という、メディアの中では傍流であること、ネットで話題になるとあっさり削除したことを考えると、習近平は以前ほど一強ではないのかもしれない。

==参考消息==
「北洋海軍は最強。いや腐敗していた」党中央と中紀委の代理戦争か(2014年03月29日)
桃園の誓いは失敗グループ(2016年03月03日)
http://www.toyo-sec.co.jp/china/column/yawn/pdf/r_702.pdf


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