見出し画像

吉林市は戦時体制

 吉林省委は吉林市の県級市(県と同等)である舒蘭市委書記の李鵬飛を解任し、市副市長の張静輝を兼任させると発表した。張は現在同じく吉林市の県級市である磐石市委書記を兼任しているが、こちらは代理が立てられるだろう。

 適任者がいないか、緊急事態であることをアピールするために、上級自治体の副市長が兼任することはないわけではない。肺炎対策が遅れた湖北省や武漢市は他地域からトップを持ってきたが、本件は解任翌日の報道で「不言自明」(説明しなくてもわかる)と珍しく解任理由が出されている。確かに説明はいらない。湖北省や武漢市と同じ理由の人事だろう。


 巴音朝魯・吉林省委書記は「常態化のなかで欠点が見つかった」と、吉林市、舒蘭市を厳しく非難しているが、感染拡大の経緯を考えるとちょっとかわいそうな気もする。

 5月7日に舒蘭市で最初の感染例が見つかった。市公安局で制服を洗っている係の女性だ。陸路でロシアから帰国した人と接触した公安が来ていた制服から感染した可能性が示唆されているが、持病を抱えている洗濯おばさんの潜伏期間は通常より長いと考えられており、後者であれば感染源は特定しづらい(呉尊友・中国疾病控制中心流行病學首席専門家)。

 感染が拡大したロシア側は3月27日から、中国は29日から両国間の国際便を運休、大減便したため、ロシアに滞在し帰国を希望していた中国人は、ロシアの国内線でウスリースクやウラジオストクまで飛び、そこから陸路で黒龍江省の東側にある綏芬河など3ヶ所のボーダーから帰国する荒技に出た。このルートでの感染者が続出したため、現在までこのボーダーは閉鎖されている。

 舒蘭市は5月2日に綏芬河などを通じて帰国した市民308人のうち、8人が感染し残りの300人を隔離していると発表している。

 帰国者の受け入れは4月8日から30日までの期間で行われていたが、洗濯おばさんは吉林省から出ておらず、湖北省など重点対象となっている地域から吉林省に戻った人間とも接触していないことが確認されており、制服から来てるんじゃねえのという気がする。

 洗濯おばさんは夫と3人いる姉、3番目姉の夫、その5人と濃厚接触した人、といった具合に広がっていき、中リスク地域認定を受けた翌日の10日には高リスク地域認定となった。感染者は16日の時点で31人にまで広がった。

 3月22日に国務院應對新型冠狀病毒感染肺炎疫情聯防聯控が発表した基準は以下の通りだ。

 低リスク地域:感染者がいないか14日以内に新しい感染者が出ていない
 中リスク地域:(1)14日以内に新しい感染者が出たが、累計感染者数は50人以下、(2)累計の感染者数が50人を越えたが、14日以内にクラスターが発生していない
 高リスク地域:累計感染者数が50人を越え、14日以内にクラスターが発生した

 吉林省全体では感染者数は140人(5月16日午後9時現在)だが、この基準は県以上の自治体ごとに設定されるので、7日まで感染者のいなかった舒蘭市は中リスク地域になるはずなのだが、見落とした前提条件があるのかもしれない。

 黒龍江省は綏芬河など3ヶ所のボーダーからの帰国者が殺到した4月初旬には感染者が続出し、「違法な入国者の手がかり」を通報した場合に最大3000元、違法入国者を捕らえた場合5000元の賞金を出すという、ピーク時の武漢市民に対する扱いを取り、また患者数が完全に市のキャパ越えだったため無人のオフィスを病院として借り切り、そこに感染者を放り込む体制をとった。

 各地から医療用品や医療設備を集め、医療従事者も300人近く配置。また、省内でさらに1000人を投入できるよう集める万全の体制を敷いた。5月6日には綏芬河市の隔離者がゼロになり、17日には黒龍江省全体で最後の感染者が退院した。

 一方、吉林市は今からである。13日からは舒蘭市を封鎖した。吉林駅は営業を停止し、乗客が駅に入らないよう警備を強化。薬局は解熱剤や抗生物質の提供を停止。診察所は発熱した患者を指定の医療機関に向かうよう指示し、映画館やネットカフェ、雀荘など人が集まる娯楽施設は営業停止。社区は閉鎖と、ピーク時の武漢並みの対応となっている。

 17日には市中部の豊満区も「高リスク地域」認定となった。16日に感染者が3人増え、累計感染者が12人となったためだ。しつこいが、どうも先ほどの基準が無視されている気がする。

 吉林市は16日に市衛生健康委員会副主任、舒蘭市衛生健康局局長、公安局党委副書記、疾病予防コントロールセンタ主任、豊満区疾病予防コントロールセンター主任の5人の首を一気に飛ばしている。「戦時体制に突入」(金華・舒蘭市長)と言うくらいなので、状況は結構深刻なのかもしれない。

 なお、11日から黒龍江省を、13日から16日まで吉林省を視察した孫春蘭やお供、現地指導者たちが医療用マスクを装着していることは気にしていた方がいいだろう。

==参考消息==
http://www.xinhuanet.com/renshi/2020-05/16/c_1125992232.htm
https://finance.sina.com.cn/wm/2020-05-09/doc-iirczymk0601357.shtml
https://finance.sina.com.cn/chanjing/gsnews/2020-05-12/doc-iircuyvi2576501.shtml
http://www.xinhuanet.com/politics/2020-04/20/c_1125881743.htm
http://www.xinhuanet.com/politics/2020-05/10/c_1125964259.htm
http://www.gov.cn/xinwen/2020-03/23/content_5494361.htm
https://www.sohu.com/a/394383145_115479
http://www.xinhuanet.com/politics/2020-05/16/c_1125994018.htm
https://www.thepaper.cn/newsDetail_forward_6951401
http://m.news.cctv.com/2020/05/16/ARTIduRsgUFpNskzBBATmRq2200516.shtml
https://www.sohu.com/a/395537810_161795
https://www.sohu.com/a/395632989_260616
http://www.xinhuanet.com/politics/2020-04/15/c_1125859765.htm
https://www.thepaper.cn/newsDetail_forward_7275588
https://www.sohu.com/a/395546171_465270
http://cpc.people.com.cn/n1/2020/0514/c64094-31708091.html
http://www.xinhuanet.com/politics/2020-05/16/c_1125994018.htm
https://mil.news.sina.com.cn/2020-05-16/doc-iircuyvi3448266.shtml
https://www.thepaper.cn/newsDetail_forward_7359786
https://www.thepaper.cn/newsDetail_forward_7409781
http://www.xinhuanet.com/politics/2020-05/16/c_1125994673.htm
https://news.ifeng.com/c/7wPl6quM4jR
https://news.ifeng.com/c/7wNyvMi5md1
https://news.ifeng.com/c/7wOJtd1ClVA
https://news.ifeng.com/c/7wQ7AYdsvZY
https://news.sina.com.cn/c/2020-05-11/doc-iirczymk1040649.shtml
https://www.thepaper.cn/newsDetail_forward_7348827
https://news.ifeng.com/c/7wOIbY7d27E

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?