高い壁とごほうび

クリスマスも、正月も受験勉強ばかりだった私。
初詣に行く余裕もなく、塾もラストスパートと言わんばかりの冬期講習。
冬期講習前の最後のレベル選考試験で、見事に最底辺のクラスになっていた私。
冬期講習直前の常勤講師からの面談で、受験する高校の確認があった。
私立は2校受験予定で、すべり止めの普通科の高校と、すべり止めのすべり止めの英語科のある高校、本命の公立は海の見える高校。
やはり、私立は偏差値から見ても問題ないが、公立は厳しいんじゃないかと言われ続けた。

冬期講習中の授業は、何度か海空先生だった。
以前のように、目が合ってもニコッとしてくれなくなっていた。
勇気を振り絞って、志望校の話をするために授業後に声をかけた。
周囲に他の生徒がいたからか、以前ように話すことが出来た。
「毎度ながら、公立の志望校は厳しいから
 もう少しランクを下げるように言われてるんです。
 私は、やりたい部活があるから、その高校に行きたいんだけど
 海空先生はどう思いますか?」
「稀琳“さん”は、頑張り屋さんだから、
 その高校にどうしても行きたいって気持ちがあれば
 合格できると思いますよ」

前までは呼び捨てだったのに、“稀琳さん”って呼ばれた。
他の生徒は、みんな呼び捨てで呼んでいるのに・・・
私と海空先生の間に、滅茶苦茶高い壁が出来ていると感じた。
「頑張って合格したら、海空先生からご褒美もらいたいです!」
海空先生は、ビックリした表情をしていた。
他の生徒たちも、「えぇ~私もご褒美欲しいなぁ~」なんて言い出す。
海空先生は笑いながら
「じゃあ、合格した人たちのためにチョコレートでも用意しておくよ!」
と言いながら、私の頭をポンポンとして教室を出て行ってしまった。

私の『思春期の暴走』について、謝ることが出来ないままでいた。
受験前にケリをつけたくて、謝りたいと思いつつ時間だけが過ぎ去っていった。

これは1992年末から1993年1月初旬のエピソード。
塾は、公立受験が終わるまで授業がありました。
海空先生に会えなくなる日が、迫ってきていました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?