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再会 ~愛してるよ~

勝手に日時を決めて、手紙を書いたものの、当日まで不安な気持ちで過ごした。
 海空先生は来てくれるだろうか・・・
 来てくれても、怒っているかもしれないよね・・・
 いや、怒っていて来てくれないかもしれない・・・

気がつけば、4月25日になっていた。
親には
『塾の先生が、クラスのみんなを呼んで、
 高校合格お祝いしてくれるって』

と、また嘘をついて出掛けた。
本当の事を伝えたら、頭のかたすぎる親が塾に伝えてしまって、海空先生に迷惑をかけてしまうから。
もうこれ以上、迷惑はかけられないという気持ちからの嘘だった。

指定した待ち合わせ時間の15分前に▲▲駅のロータリーに着いた。
お日様はポカポカで、心地よい海風を感じることが出来た。
ロータリーに入ってくる車を見つめては、【海空先生じゃないや】と呟く。
私は暗くなるまで待ち続けるつもりだった。

すると伝えた待ち合わせ時間とほぼ同じくらいの時間に、あの黒いハッチバックタイプの車が目の前に滑り込んできた。
助手席側の窓が開き
「稀琳、ひさしぶりだね。
 乗りなよ!」

って、笑顔の海空先生が運転席でハンドルを握っていた。
私は嬉しすぎて、泣きそうな表情になりながら
「先生、いろいろゴメンナサイ。
 それに来てくれて、本当にありがとう!」

と言うのが精一杯だった。
海空先生はニコッとして
「車の中で話は聞くから、早く乗りなよ!」
と手招きしてくれた。

海空先生の車の助手席に乗り込んだところで、
「高校合格おめでとう。
 俺が言ったとおり、頑張って合格して高校生になれたんだな。
 講師として嬉しかったよ。」

海空先生が、いつの日と同じく、頭をポンポンしてくれた。
少し“子ども扱い”されている気がしたが、嬉しくて仕方なかった。
「でもね、あんなに希望してた部活は諦めたの。
 中学の時みたいに合唱もやりたくて、同好会を作ったけど、
 まだまだ人が足りなくて、ボイストレーニングみたいなことをしてるの。」
「やっぱり心臓に負担がかかっちゃうのか?」
「ウン・・・
 3月末に高熱が下がらなくて、点滴してもらってたんだ。
 心内膜炎ってやつになってないか、近いうちに検査するって。
 場合によっては手術になるかもしれないんだって。
 今まで手術なんて言われたことないんだけどね。」
「じゃあ、激しい運動とかは
 控えめにしろとかって言われてるの?」
「あ、適度な運動は大丈夫だって言われて、
 体育の授業とかはみんなと一緒に受けてるよ!」
「稀琳はいつも元気いっぱいでさ、
 心臓に病気を持っている人には見えないのになぁ~」

信号待ちをしていたら、抱き寄せられた。
ビックリして海空先生の表情を見ようとしたら、キスされた。
まだ14時前で、外はメッチャ明るいし、対向車もいたから恥ずかしかった。
唇が離れた時にちょうど信号が変わり、車は走り出した。
運転しながら、海空先生は左手で私の右手を握りしめながら
「稀琳は特別な存在だよ。
 今でも、早く大人になりたいと思ってる?」
って、聞いてきた。
真剣な眼差しの海空先生を見つめてから、私は恥ずかしいのと嬉しい気持ちで答えた。
「今もずっと海空先生のことを愛してる。
 先生に大人にしてもらえるのなら・・・」

少しの沈黙のあと
「稀琳のこと、大事にするから。」
海空先生は、私の右手をギュッと握ってくれた。
そのまま30分弱走り、黒い車は高速道路のインターチェンジ近くのホテルへ入っていった。

これは1993年4月25日のエピソードの一部。

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