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John Green「THE ANTHROPOCENE REVIEWED」を読んだ

この本、そして原作となるポッドキャストのファンは日本語ネイティブ圏にどれくらいいるんだろうか。読書メーターで探すと、この本を「読み終わった」に登録しているユーザは2023年7月5日時点で4人しかいないようだ (かくいう自分も読書メーターには登録していないので、実際には読んだ人はもっといるのだろうけど)。

2021年の上半期〜夏頃、緊急事態宣言が再び発令され、ワクチン摂取をいつ受けられるか不透明な状況だった。2023年夏の今からすると既に決定的な過去となった印象はあるけど、あの頃は「今、何が面白いのか」を考えたり答えたりするのに難儀していた印象がある。イベントは延期か中止になり、飲食店は休業か時短営業で、入れた飲食店で人に会ってマスクを外して会話できたとして「自分は既に陽性者で、自分と会ったばかりにこの人を陽性にさせてしまうかもしれない (それをお互いに赦せるくらいの人でなければ会ってはいけないような気がする)」ことを思い、不安に苛まれなければならなかった時期だった。気の持ち様次第だったとはいえ、生活の基本トーンが「面白くない」に方向に振れていたと思う。

そんな折に、Crash Course経由でJohn Greenを知り、小説は未読だったけれどポッドキャスト「THE ANTHROPOCENE REVIEWED」と出会った。

番組は1人語りの形で紡がれるエッセイで、テーマは「テトリス」「ダイエット・ドクターペッパー」「ヴェロキラプトル」などなど具体的なものから、「疫病」「人類の存続可能な時間的限界」のような抽象的なトピックまで多岐に渡り、人類の

  • この地球の姿を変えるほどの知見と力を持っていながら、この地球に起こした変化を十分に制御して収束させるほどの能力は持ち合わせていない

  • 時に愛情深く他者に接しながら、時に愚かなほど冷淡である

ような二面性を浮き彫りにしつつ、パーソナルな体験や経験や思いが綴られていく。

この番組を聴いていて気づけたのは、端的に言って「この世界そのものが途方もなく面白い」ことだ。

ハワイアン・ピザが、カナダのレストランでギリシャ系移民のオーナーが中華料理インスパイアで作ったメニューだった (パイン缶の原産地がハワイだっただけで、ハワイ発祥のメニューではない。ちなみに同様のメニューはオーストラリアで人気らしい)こと。

英語圏やスラブ語圏では「熊」に相当する単語は、かの動物の本当の名前ではない (熊を恐れるあまり人はその名を呼ぶことをタブーとし、符丁だけが残ったらしい)こと。

"Home is not a place, but a moment." であること。

ポッドキャストは書籍化されて2021年に出版され、Amazonで調達することができた。書籍版では巻末に各エピソードの参考文献や補足が記載されており、"Googling Strangers" の回に出てくる少年との対話がポッドキャスト「Heavyweight」で実現していたのを知ることもできた (この番組も日本で聴いている人どれくらいいるのかな。オープニングテーマへの入りとかいいですよね)。

ポッドキャストで概要を知っているエピソードも記載されているとはいえ、洋書を読むのに慣れていない (同じJohn Greenの『PAPER TOWNS』に続き2冊目だった)ので時間はかかった。それでも後書きまで読んで、世界そのものが面白いことを、他ならぬ世界の (とてもとても小さな)一部分である自分が実感していることの奥深さを噛み締めることができた。幸福で得難い読後感が得られた。

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