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微熱に浮かされた日々

この記事はエイプリル・ゴースト(以下A)とジューン(以下J:Aのメンター的存在だが、多くは謎に包まれている人物)との対話形式でお送りします。

J :随分久しぶりな気がするけど、どうしてたの?
A:鼻血出してました、比喩的に(笑)。
J :えっ? 何それ…(笑)…色ボケしてたってこと?
A:ちがいますよ、何言ってるんですか(笑)。アレです、新たにハマれるものを探しているうちに、途方もない所に迷い込んじゃって…。
J :途方もないって…? Aちゃんの守備範囲からかけ離れたところで何やかんや探してたの?
A:そうですね。だいぶかけ離れてましたね。以前なら自分の生活に取り入れなかったもの、むしろ拒んできた類のものを試してみたりとか。
J :ほぅ、新規開拓ってやつか。それでハマれるもの見つけられたんなら良かったじゃない。
A:見つけられた…気がしてたんですけどねぇ……
J: なに、ちがったの? それとも飽きたの?
A:飽きたっていうのとはちがうんですけど、でも少し興味が薄れてきているっていうのはありますかね。色んな所に触手を伸ばし過ぎたから、ひとつひとつの濃度は当然薄いわけで。ローテーションで今日はこれ、明日はあれっていうふうに分け隔てができればいいんでしょうけど、そう上手い具合にはいかない…。だからとっ散らかってしまって、もう何が何だかのカオス状態で…。その先に収束されるべきものもないし、自分が何をやっているのかわからなくなったんですよね。
J :今の話だと一度期に複数のものにハマっていたような感じだけど。
A:そうですね。多めに仕入れて後から選別していくっていう手法をとっていたんですけど、ある時点でふと、「これら全部残す必要ないものでは? っていうかこの先残したいと思えるものがないな」って思っちゃったんです。
J :それはあまりにも直感的すぎるというか、早計すぎない? そもそもそんなに早く冷めてしまうものに対して「ハマってる」なんて言い方はできないんじゃ…?
A:Jさんはハマると長い方ですか?
J :そうねぇ。割と長い期間ひとつのことに夢中になってるかな。マルチタスクできるほど器用じゃないし(笑)。
A:いい感じだと思っていた対象とそこから派生するものが長きにわたって愛せるものかどうかなんて、早々に分かるものではないとは解ってるんですけど(苦笑)。今回のはなんというか、私を形成してきた好きなものたちと全然接触しないなということに気づいて…
J :要するに琴線に触れなかったってことか。
A:そうです。掘り進めても、あれ? ってなっちゃうことが多くて。新規開拓してるんだからそりゃそうだろと自分を説き伏せて、またトライするんですけど、その度になんかちがうゾっていう障壁が立ちはだかって。その壁を乗り越えれば何かがあるとは思えなくなっちゃったんです。
J :そうか…。Aちゃんのことだからてっきりすぐに飽きて、冷めてしまったんだろうなと思ってたけど。
A:毎度冷める予感はあるんですよ。いや、その熱狂がいつか下火になることを恐れているからこそ…のニヒリズムですね。いろいろと諦めつかないから、そういう冷淡さで一蹴してしまおうみたいな。
J :そういや、Aちゃんがカッとなるところ見たことないな、長い付き合いだけど。
A:カッとなったらどうなるんでしょうね。「こちとら鼻血出てるんですけど⁈ 比喩的に!」って怒鳴り散らすかな(笑)。
J :その、表立って吐き出さずに、自分の中だけで鎮火してしまえるもんなの?
A:どうなんでしょう? 今となっては吐き出す方法がわからないです。あまり良くないとは思うんですけど、抑えることに慣れていますから。
J :じゃあ言いたいことも言わないでいることが多いんだ?
A:自分の発言に関してはそれこそニヒリズムが発動しますね。これを言って何になるんだ? って。でもそういう人の割合って少なくない気がしますけど。言いたいことを言えない場面なんて日常茶飯事なのでは? ……あ…、
J :あ? なに? 怒りが込み上げてきたら、おれが受けるから。
A:いやそれはダメですよ。傷つく必要のない人が傷つく必要ないですから。
J :いやわかんないよ? Aちゃんの攻撃でおれが傷つくかなんてわかんないじゃん。元はおれに向けられたものじゃないなら、無傷の可能性が高い…よね?
A:それじゃなんだか私が的外れな攻撃してるみたいでダサいじゃないですか(笑)。
J :何だよ、ダサいって。同じ戦法でみんなを倒せると思ってるわけ?
A:いえ、そうじゃないですけど。でもJさんが少しでも傷つく可能性があるならやめといた方がいいと思うし。
J :考えすぎだって(笑)。…あ、でもおれにダメージを与えられるほどの攻撃力をAちゃんは持ってないと見限ってる部分もあるな。
A:でしょ?
J :Aちゃんのことはおれが一番よく知ってるつもりなんだけど、それも傲慢かもしれないな。Aちゃんの「怒」の部分を見たことがないんだし。
A:でしょ。
J :だから余計に見てみたいってのもあるし…。
A:そんなに私の攻撃に期待を高めないでくださいっ! Jさんには攻撃しませんから! 
J :なんだ、せっかくのチャンスだったのに。
A:あ…、言いたいこと思い出しました。
J :え? なになに?
A:自分の言いたいこととか怒りみたいなものは、別の形で表出できてますってこと。
J :へぇ、どんなふうに?
A:それはまた別の時に。

J :なんか今日さ、抽象的な話多くない? 掴みどころないんだけど。
A:なのに最後までお付き合いいただいて(笑)。そんなぼんやりした春霞のような雰囲気にちょうどいい音楽あります。
J :あぁ、やっぱ落としどころはそこなのね。
A:Galaxie500のアルバム『Today』を聴きながら、いつまでも微睡に浸っていたいですね。陶酔できるギター音とか、本当に大好きです。
J :確かにこれは浮遊感すごいね。
A:1988年リリースのデビューアルバムなんです。私は2010年に再発盤を買ったんです。知ってか知らずかCDショップで物色してたらGalaxie500のアルバム3枚『Today』『On Fire』『This is Our Music』のそれぞれが2枚組になっていたんですよ。1枚目はオリジナルアルバム、2枚目はカバー曲とかラジオ番組の音源とかライブでの演奏を収録したもので、ドミノレコードからリリースされた輸入盤でした。しかも安かった気がする。
J :『On Fire』のクレジット見てたらボートラに「Ceremony」って曲が入ってるんだけど、これってJoy Divisionのカバーだよね?
A:そうなんです。さらに『On Fire』の2枚目はジョン・ピール・セッションで、そこではヤング・マーブル・ジャイアンツの「Final Day」も演奏してますし。
J :ホントだ。
A:あと、注目すべきは3組のアルバム全てにジョナサン・リッチマンの「Don't Let Our Youth Go To Waste」のカバーが入ってることですね。Galaxie500のメンバーはジョナサン・リッチマンのこの曲が好きだったんだろうなということが伺える。
J :ジョナサン・リッチマンは…ごめん初耳だわ。
A:私もGalaxie500を通して初めて聴きました。なかなかクセになる曲ですよ。何よりタイトルがいいじゃないですか。
J :若さを無駄にするなかれってな。確かにそれだけで泣けるかも。
A:『On Fire』に入ってる「Blue Thunder」がGalaxie500の代表曲とされているかもしれないですけど、私は1作目のアルバムに入ってる曲の方が好みだったりする。「Flowers」と「Pictures」の幻想的な感じから3曲目「Parking Lot」の軽快さへのつながり、そしてその後に「Don't Let Our~」ですよ。そのほかにも「Oblivious」とか「Instrumental」(これはタイトルじゃないと思うけど)とか、素敵な曲が目白押しです。

Galaxie500/Today





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