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おはなし

 あるところにエイプリルという少女がいました。エイプリルは男の子まさりの活発な女の子で、幼馴染のイアンといつも戦いごっこをして遊んでいました。
「ほらっ!イアン、剣士になりたいなら守ってばかりじゃダメだよ」
「ちくしょう……。ボクだっていつかはエイプリルより強くなってみせる。えいっ!」
 エイプリルもイアンもこの春から学校で西の言葉を習いはじめる年になりました。二人ともずっと一つの村で育ってきたので、村の言葉以外をはなしたことがありません。でもエイプリルはおじいちゃんに読んでもらったお話の中に出てくる西の国にひそかに憧れていました。だから早く西の言葉をはなせるようになりたいと思っていました。
「あぁ、西の言葉をしゃべれるようになったら、もっといろんなお話を読めるようになるかしら。いいえ、西の国を旅することもできるわ。そしてもっとたくさんの人たちとたくさんのことをはなすの」
エイプリルは学校に行くのが楽しみで仕方ありませんでした。

 ある日の学校の帰り道、エイプリルはイアンのすがたを見て声をかけました。「西の言葉を覚えるの楽しいね、イアン?」
するとイアンはもじもじして「ボクは……、まだうまく発音ができないんだ。先生にもっと練習しなさいって言われたよ」と答えました。へぇ、そうなのか。エイプリルはイアンの話し方を変だと思ったことがなかったので、イアンがなぜ恥ずかしがっているのかわかりませんでした。そこへ年長のギャリーとダフィーがやってきてヒヤかすように言いました。
「やい、イアン。お前の訛りはひどすぎて、西の言葉どころか、何の言葉をはなしているのかわからないんだってな」「そーだ田舎者!」
イアンは顔を真っ赤にして、道端に立ち止まってしまいました。イアンは蚊の鳴くような声で言いました。
「ボ、ボクのアクセントはおかしくない……。お母さんも、そのままでいいよって言ってくれた……」
「なんだって?聞こえないなぁ。声が小さいからかな、それとも訛りがひどいからか?」
 ギャリーとダフィーがくり返し「やーい、やーい、恥ずかしいよなぁ」「お前に西の言葉は似合わないぞ」などとイアンをいじめるので、エイプリルは「やめなさいよ!」と言ってダフィーの腕を思いきり引っぱりました。ダフィーは「うるせぇ!」とエイプリルを突き飛ばしました。「お前、女の子にかばってもらって、弱虫だな」とギャリーが言いました。
 イアンは倒れたエイプリルを助けたかったけれど、年長2人にはさまれて動けません。そして、自分がしゃべるとまたからかわれると思うと、怖くて言葉が出てきません。
 エイプリルはカバンから物差しを取り出して、いじめっ子の背中を叩こうとしました。その時、
「待つんだ!」
声が響いて、エイプリルは手を止めました。ふり返るとそこには村の若い文士、ルーグが立っていました。
 ルーグはギャリーとダフィーのところへすたすたと歩いていき、2人に向かって言いました。
「君たちが今していることは、誰かを笑顔にできると思うかい?」
するとギャリーとダフィーはルーグをにらみながら、走り去って行きました。
「すごい、すごいね!叩かずに2人を追い払うなんて!」
エイプリルもイアンもきらきらした目でルーグを見上げていました。

その日からルーグはエイプリルとイアンのヒーローになりました。

おしまい

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