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お母さんのはなし。


「どれがいい?好きなの選んで」

そう言って、家に着く前に必ず駅前のケーキ屋さんでケーキを買ってくれる。
2人で食べるのに、女子会開けそうなくらいの量を。

「昼間だけどビール飲んじゃおう!いっぱい買ってあるから」
そう言って、私の缶ビールがまだ半分くらい残っているあたりで、もう次のビールを冷蔵庫に取りに行ってくれる。

「おかわりあるわよ。あ、シチュー冷めちゃった?温め直そうか?サラダ、ドレッシング違う味のもあるよ。出そうか?」
そう言って、赤いル・クルーゼのお鍋からビーフシチューをたっぷりよそってくれる。
至れり尽くせりのお昼ご飯。

「コーヒーと紅茶、どっちが良い?ミルクいる?お砂糖は?」
そう言って、さっき買ってくれたケーキ達を全部お皿に並べてくれる。
ケーキバイキングみたいで嬉しい。

「庭につくしが生えたの!東京じゃ、つくしなんて見れないでしょ?」
そう言って、コロコロ笑いながら、つくし現場まで案内してくれる。
生でつくしを見るなんて、小学生の時以来かも。
なんとも可愛いらしくて、写真を撮った。

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「またいつでも遊びにいらっしゃい」
そう言って駅の改札口で、ブンブン手を振ってくれる。私も全力で手を振る。
お母さん、相変わらずやさしいなぁ。

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年に一度、私は湘南新宿ラインに乗って、
元カレのお母さんに会いに行く。

彼と別れたのは20代前半。
今から15年以上前だ。
付き合っていた頃も、彼の実家によく遊びに行っていた。
当時はまだ湘南新宿ラインなんて無かった。
お金も無かった。
交通費の出費もなかなかのダメージだった私に、「これ使って遊びにきて」と、オレンジカードをくれたり、私が泊まりに来た時用にと、可愛いパジャマを買っておいてくれたり、昔からお母さんさんのやさしさはMAXだった。

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別れて何年も経った頃、
元カレのお父さんが癌を患っていることを知った。
あの頃私は、お母さんと同じくらい、お父さんにも良くしてもらっていた。
一緒にお酒を飲んだり、花火を観に行ったり。
花火大会の時は、仕事で開始時間ギリギリにしか会場へ行けない彼と私の為に、早い時間から場所取りをしてくれていて、すごいベストポジションから、人生最高の花火を見せてくれた。
Facebookで友達にもなった。
私の投稿には必ずいいね!してくれて、コメントをくれることもあった。

彼氏の両親に、こんなふうに接してもらうのは、初めてだった。

「お父さんのお見舞いに行きたい」
そう元カレに連絡をしたら、
通院をしながら今は自宅で過ごしているというので、何年か振りに、元カレと一緒に元カレの実家へ元カレのお父さんに会いに行った。
もう湘南新宿ラインは開通していたし、
私は、昔お母さんからもらったオレンジカードくらいの金額を、自力でパスモにチャージ出来るようにもなっていた。

久しぶりに会ったお父さんは、顔色も良くて、あの頃と変わらない声で私の名前を呼び、迎えてくれた。
一緒にご飯を食べて、近況を話したり、お父さんの入院していた時エピソードを聞いたりした。
ギャル男風の茶髪のカツラをかぶった写真も見せてくれた。
帰り際に、紙袋いっぱいのおみやげを持たせてくれたお母さんのやさしさも、MAXのままだった。

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一年後。
お父さんのお葬式の帰り、
お母さん、彼、彼の兄家族で食事をするという席に、お母さんのご厚意で同席させてもらった。

彼と付き合っていた頃に産まれたばかりだったお兄さんの子供が、めちゃくちゃガタイの良い中学生になっていて、もう少しで本当に目ん玉飛び出そうなくらい驚いた。
あの時抱っこした赤ちゃんが、こ、こんな立派な少年に⁉︎
柔道をやっているという彼に、今度は私が軽々とお姫様抱っこしてもらえそうな勢いだった。

昔ラーメンをごちそうしてくれたお兄さんも、私と名前が似ているお兄さんのお嫁さんも、全然変わっていなくて、その場に柔道少年がいなかったら、自分がまだあの頃のままの20代なんじゃないかと錯覚してしまいそうな程だった。

「パパはあなたの大ファンだったから、今日は来てくれて喜んでるよ」
相変わらずやさしさMAXのお母さんにそう言われて、こんな私にもファンがいるとは…と、エビチリを食べながら涙が出た。

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そんなこんなで、以降、お父さんの命日近くになると、湘南新宿ラインに乗ってお線香をあげに行き、元カレのお母さんと2人で、冒頭のシーンを繰り返している。

先日、元カレが結婚したので(私は独身・絶賛婚活中!)、年に一回とはいえ、彼の奥さんからしてみたら、旦那の元カノが旦那の実家に上がり込んで入り浸り、ケーキなんぞをいくつも平らげているというのは如何なものか?なんだか悪いな…と思い、お母さんに聞いてみた。

「いいのよー。私たち、友達なんだから」

なんとも甘酸っぱくてキラキラした、ショートケーキのいちごのような答えが返ってきた。

お母さんのやさしさ健在。
衰え知らず。

お父さんとも、
今もFacebook友達のままだ。



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