0102:ツバキ【短編小説】
ーーーふーっ…。
咥えていた煙草を唇から離し、渦巻く感情を煙にのせて一緒に吐き出す。
私は指先の小さな灯をボーッと眺めた。
彼が父親に連れられて初めて家にやって来た時、私はひと目で恋に落ちた。表には出さなかったけれど、一緒に居た姉も私と同じ気持ちであった事は私にはなんとなく分かっていた。
双子の勘、みたいなものかもしれない。
双子に産まれた私たちは、見た目ではほとんど違いが分からない程瓜二つだった。当たり前と言えば当たり前の事なのだけど、双子とはいえ私と姉はまるっきり別の人間なのだ。見た目は同じに見えても、中身まで同じであるはずがない。
白い肌に、手入れの行き届いた黒い髪。落ち着いたその立ち振る舞いからは品性が感じられ、姉には大和撫子という言葉がよく似合った。
愛嬌だけは一丁前だが、特にこれと言った取り柄のない私は、そんな姉が羨ましくて仕方がなかった。見た目が似ているが故、「自分ではない自分のような存在」に、私は少し固執しすぎていたのかもしれない。
どれだけ頑張っても、姉のようにはなれっこない。
そんな理由でこれまで色んな事を諦めてきたけれど、心惹かれた彼だけは姉にとられたくないと思った。これまで何をしても姉には敵わなかったけれど、私にだって意地がある。
…それなのに。
彼との食事の日、気付けば私は姉のように振る舞う事に全力を注いでいた。そうすれば、欲しいものが何でも手に入るように思えたのかもしれない。
仕草や表情に至るまで、私は理想の大和撫子を演じた。しかし所詮、付け焼き刃は本物には敵わない。
私はそれを自ら証明したにすぎなかった。
姉には勝てないと分かっているからこそ、双子に産まれた事を嘆き、自分は姉と違う人間なのだと散々駄々をこねて生きて来たはずなのに。
結局私は、自ら姉と同じフィールドで闘って負けたのだ。
そう思うと、一段と自分が惨めに思えてならなかった。
ーーーどれくらいそうしていたのかは分からない。
燃え尽きて指先から落ちゆく赤い炎は、私には儚く散っていく一輪の椿のように映った。
***
■ 椿
控えめな優しさ / 謙虚な美徳 / 完璧 / 誇り
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