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シードル日記|ドライ・ミディアム・スイートを超えろ

正直言って、シードルをめちゃくちゃ飲んでいる方だと思う。
週に2〜3回は新しいシードルを試し飲みするし、定期的にティスティング会を開催している。7〜8銘柄を揃えるなど、世界中のシードルやサイダーの特徴を学ぶ機会を毎月は設けている。それくらいにはシードルというお酒が好きだ。
日本のシードル飲料はここ数年で急激に成長しているお酒のカテゴリーだ。
少し前までは「甘ったるい女の子のお酒」と言う不相応なレッテルを甘んじて受けていたが(そう言うイメージを最初に植え付けた人たちは、例えばイギリス産の超ドライでワイルドなサイダー達等を知らなかったのだろう)最近は国産シードルのメーカーや飲食店、インポーターをはじめとする沢山のシードルを愛する方々の努力により徐々にそういう偏ったイメージが払拭されつつあると感じる。

様々なシードルの商品説明を見比べる中で、最近残念に思っていることがある。

「ドライ・ミディアム・スイート」の言葉だけで説明が片付けられているシードルがあるなあ、と。
シードルの味わいを表現する上で、本当にドライ・ミディアム・スイート軸だけでいいのか?
例えば海外のカテゴリーを見てみると、ドライ・ミディアム・スイートの軸以外にもモダン・トラディショナル・ヘリテージはじめ細かいカテゴリーがある。それぞれの説明は割愛するが、品種の種類や原料、製法などで細かく分かれているのだ。

このように、シードルカテゴリーは多岐にわたる。
それぞれのカテゴリーの中でドライ・ミディアム・スイートなどに分かれているのだ。

誤解のないように言うが、国産シードルを評価するために海外のカテゴリーをそのまま輸入して国産シードルに当てはめるべきだとは思わない。条件が違いすぎるのだ。海外のシードルに使用されるリンゴの品種は、日本で育つりんご品種と全く異なるため(日本では生食用のりんごをシードル醸造に使うことが圧倒的に多いが、海外ではシードル用の品種で作られる事が多い)、出来上がるシードル及びそのカテゴリーも全く異なるのだ。だから国産シードルの分類は国産シードルの特徴に即して作られるべきだ。
しかし、ドライ・ミディアム・スイートだけでは表現できないことがあるのもまた事実なのだ。

日本でシードルを売っている方々は(国産も輸入物も)、今こそシードルの表現方法を今一度精査し、その甘さ基準だけでシードルを表現する事は止めてほしいと思う。
そうする事でもっとシードルの魅力が伝わるはずだ。

以下考察。

確かに、ドライ・ミディアム・スイート(甘口や辛口など)という表現方法は、そのお酒をよく知らない消費者にとっては、とても分かりやすい事は事実だ。
日本酒を例に取りたい。例えば小料理屋で、あまり日本酒を飲んだことがない人でも銘柄選びの際に「辛口のもので見繕ってください」とか「ちょっと甘いやつで」と言えば、なんとなく選べたりする。
しかし売り手の説明に甘口や辛口と言う住み分けしか持っていなければ、日本酒(に限らずどのお酒も)がもたらす酒飲みの喜びの全てを楽しむ事はできないだろう。「辛口」と言ったところで辛口の日本酒なんて沢山あるし、その中から自分が一番飲んで見たい銘柄を選ぶ判断材料がないからだ。
しかもお酒というのは、「辛口で口ざわりがいい」とか「甘口で飲みやすい」から美味しいと言う楽しみ方だけではないはずだ。作り手のこだわりが感じられ、それが理解できるから一層面白くなる側面もあるはずなのだ。「この銘柄は蔵元さんが自社栽培で米から造っている」とかそう言う話を聞くスイートやドライ(甘口や辛口も同じく)と言うのはお酒が「どういう味に仕上がったか」という結果でしかないが「どう言うプロセスとこだわりでその味に仕上がったのか」と言うストーリーがわかるからこそ、実際の味以上に美味しいのだ。

シードルに話を戻す。

シードルの商品説明で、時々こんな感じのものを見かけないだろうか。

これだけでは「品種がふじ」「スイート」と言う事くらいしか伝わらず、どんなシードルなのかよく分からない。
正直、ドライやスイートと言う言葉に頼りすぎている印象を受けるのだ。

これがもし、ドライ・スイート軸に説明を頼らず、プロセスもしっかり伝える説明だったらどうだろう。

「温暖な気候と太陽の恵み豊かな〇〇地方で、20年続く果樹園で丁寧に育てられたふじりんごを使用したシードル。平均糖度15度以上の果実で造られるスイートタイプです。搾汁方法は昔ながらのハンドプレスで、皮付きのまま手作業で行います。この地方の自然世界遺産である〇〇山のぶなの木から採取された自然酵母を使用し、タンクで1ヶ月かけてゆっくり発酵させます。炭酸充填をせずに瓶内二次発酵を行い、味を落ち着かせるためにさらに1ヶ月寝かせたシードルです。優しいりんごの香りがたち、後を引かないすっきりとした甘さが特徴。単体で食前酒としてやデザートシードル としても美味しいですが、チョコレートケーキやバニラアイスなどのデザートとのペアリングが◎。」

1番目の画像も2番目の画像も同じ架空のシードルについて書いた説明だが、2番目の画像は「どんな味のシードルか詳しく」「どんなプロセス(製法)で作られたか」「誰が作ったか」「いつ飲めばいいのか」「ペアリング」が明確になる。そういったことを丁寧に書いてもらい読みながら飲むことが、消費者としては何よりの楽しみになるのである。

シードルの売り手ばかりを指摘するように始終書いてしまったが、こういう言葉足らずな説明が存在するのはシードルに限ったことではない。ワインで言えば「飲みやすいフルボディワインです」という説明しかないとか、ビールなら「喉越しの良いラガータイプです」とか。そんな一言だけでは説明できないことが多いはずなのに、なんだかなぁと思っているのは決して私だけではないはずなのだ。(多分)

日本にあるシードルは、国産も輸入物も、もはやドライ・ミディアム・スイートと言う表現だけでは収まらないくらい個性豊かなシードルが増えている。シンプルなキーワード頼りの説明でまとめてしまっている売り手の方は、そのシードルが持つ個性を詳しく沢山表現して教えてほしいと1人の消費者として強く思っている。

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