ピンクのマーガレット
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やせつさんのnoteから素敵なアイディアをもらって書いてみました。
やせつさんのnoteから読んでもらえるとより、物語に浸れるかもしれません。
普段恋愛系はあんまり書かないので挑戦です。
9/1 の秋は切ない。
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私の暮らす町の近所には、地元の人たちから愛されているお花屋さんがある。しとしと降る雨の日に、私は初めてそのお花屋さんに入った。
店内のお花を眺めていると、男性の店員さんが声をかけてくれた。
『どんなお花をお探しですか?』
『母の誕生日に贈る花束を作ってもらいたくて・・・』
ガラスのショーケースの向こう側では、瑞々しいお花たちが、自分の出番を待ち望むかのように、けれど静かに微笑んでいる。
『この黄色いお花とオレンジのお花入れてもらえますか?』
『はい、少々お待ちくださいね』
少し大きな手で、繊細な指先で、お花はリボンで彩られ、あっという間に花束が完成した。
『ピンクのお花もサービスしときました♪楽しいお誕生日会をお過ごし下さいね』
優しい笑顔と声にドキドキしながら、花束を受け取ると、私は『ありがとうございます』とだけ言ってお店を後にした。
雨の雫が跳ねるように心も跳ねる。
チャイムを鳴らすと、母がひょこっと顔を出し、花束をその場で渡すと喜んでくれた。
花瓶に差しかえたお花は、素敵な香りと彩りで二人の空間を包み込む。
長いこと不仲だった母との会話も自然と弾み、すべてを溶かしてくれる時間へと塗り変わっていった。
それから、私は何かお祝いごとがあると、そのお花屋さんの山本くんに、ブーケを作ってもらうようになった。
『いらっしゃいませ、今日はどんな花束にしますか?』
『今日は、自分用にお部屋に飾る花を探しに来ました・・』
『ゆっくり、ご覧になってくださいね。』
山本くんは背が高いけど、私も標準より少し背が高いから、12センチくらいの違いかな。
隣でお話する時間、私はとても心地よい気分になる。
この前たまたま、電車に乗るとき、向かいの駅のホームにいる山本くんを目にした。山本くんはこちらに気づかぬまま、電車はそのまま通り過ぎていった。
ある日、私はぼんやりと花瓶の花を眺めていたら、山本くんに恋に落ちてしまった自分に気づいた。どうせ叶わない恋とわかっている。私はいつも、叶わない人に恋をしてしまう。
この前お花屋さんの前を通りすぎようとした時、山本くんがとっても可愛らしい人とお話している姿が目に入った。私よりうんと背が低くて華奢で色白の繊細な人だった。お花のように可憐な人だ。
『山本くんはあんな人がタイプなんだろうな。』
私は、一瞬でそんな風に感じてしまった。
心を込めて花束を包んでくれる、そんなところが大好きな山本くんだけど、その日ばかりはなんだか落ちつかずに、心が苦しくなった。
みんなの山本くんだからしょうがないよね。でも、今まで少しずつ、花束を包んでもらう度に、私の山本くんへの想いはまるで花束のように束ねられていったんだ。
『ピンクのマーガレット、かわいいですよね』
ある日ショーケースを眺めていると、山本くんが声をかけてくれた。
『花言葉はたしか・・・』
山本くんが、なんだっけって考えている間に私は、そのお花が気に入って、
『今日はこのお花にします。』と伝えた。
『はい、少々お待ちくださいね』
いつもの優しい笑顔で包んでくれたお花を受け取るとショーケースの向こう側のチョコレート・コスモスが目に入った。それに気づいた山本くんが、
『このお花、チョコレート・コスモスっていうお花で、本当にチョコレートのような香りがするんですよ。』と笑顔で教えてくれた。
『チョコレートの香り・・・ですか。お花なのに珍しいですね。』
香りをかがせてもらうと、甘くも、どこか秋のように切ない気持ちが広がる。
『珍しいですよね。でもこのお花、僕好きなんです』
山本くんの言葉は、ふわふわと宙に浮かんだ。
『今度、同級生が結婚するので、この前ウチの店に来てくれて、ブーケにしたんです。』
一瞬、目を伏せて笑う山本くんに、いつかの親しげにあの人と話す山本くんがふとよぎる。
私はピンクのマーガレットを受けとるとお店を後にした。
店員さんとお客さん。近いようで遠い存在。
私はふと家に帰ってピンクのマーガレットの花言葉が気になって調べてみた。
『真実の愛・・・』
私はその瞬間、大粒の涙が溢れてピンクのマーガレットを涙色に染めてしまった。
ちょうど同じ頃、お店では山本くんが一人ポツリと呟く。
『真実の愛、か。』
○ましろさんの「ヒペリカム」へ続く‥
https://note.com/mashiro_world/n/n99f1e3310dd6
こちらも素敵な作品です💐
(リレー作品に自然となったこと、素敵なこと‥)
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