教員の出欠確認

よくドラマで見かけた「出席とるぞ〜〜。席に着け〜〜。」ってやつ、自分は経験したことがありません。
ドラマでは、出席簿を手にした担任が、生徒の氏名を読み上げ、生徒は「はい」とか「は〜〜〜〜い」とか「うすっ」とか返事をし、返事がないと担任が「○○は欠席か?」といいながら、出席簿になにやら記入するという。
自分が児童生徒だったときも、教員になってからも、こんな光景は経験していません。
あ、大学ではこういうのが好きな先生いたけど、最初の1〜2回だけで、以降は出席票(自分で氏名記入して提出)だったっけ(多分、全員の名前読み上げるのが面倒になったんではないだろうか)。

小学校、中学校、高校では、自分の定位置・・・自分の席がありますので、朝の出席確認は、「空席があるかどうか」で足ります。
だからか、私のいる地区では、「出席簿を手に出席確認」はありません。

代わりにあるのが「健康観察」。
担任か、児童生徒の係や日直が行います。
やっていることはドラマで見かけた出席確認と同じですが、氏名の読み上げと記録は児童生徒が行うので、担任はじっくりと一人一人の確認ができます。
出席の確認ではなく、健康状態の確認なので、顔色や表情、様子を観察できます。
この健康観察の段階が、児童生徒を「出席確認」する、最後の砦となります。

学校は、登校してきた児童生徒を「学校敷地内に入った」段階で「出席」と認識し、下校で学校敷地内を出るまでの間、全面的な責任を負います。
児童生徒が家を出てから学校敷地内に入るまでの間と、学校を出て家の敷地に入るまでの間、所謂「登下校中」の責任所在は、正直グレー領域です。
学校の責任領域というように、全面的に学校が責任を認めるのならば、全児童生徒一人一人の登下校に、学校職員あるいは行政職員がつきっきりになる他なくなり、事実上不可能です。
かといって、安全確保義務を放棄できないのも、親の立場になればよく分かりますので、結局グレーです。
通学路の設定や、定期的な安全管理、管理職や係職員による学校近くの危険ポイントでの見守り程度が、学校が日常的にできる限界です。

さて、近年は連れ去り事件が多発、凶悪化していて、小学校では児童の自由登下校は不可能となりました。
自分が小学生の頃は、登校は通学班でしたが、下校は自由下校(一人で下校可能)でした。
が、ここ10年以上は、登下校全て通学班で行います。

児童の出欠確認第一段階は、この通学班となります。
通学班は、「朝、7時△△分までに、ここに集合」と決まっていて、集合場所で全員が集まったら、通学班長(最年長児童)の引率で登校します。
欠席する児童の親は、この通学班長に連絡を入れないと、この通学班は登校できません。
児童が欠席することは、通学班長が把握します。
通学班長は、学校児童玄関で立哨(!)している管理職(大抵、教頭)に、「○年○○さんは欠席です」と報告し、立哨管理職はそれを記録します(欠席確認補助)。

一方、この時間帯の職員室には、「職員室当番」の職員が常駐しています。
主任務は「欠席の電話」対応です。
欠席する児童の親による欠席電話、これが「欠席確認主力」です。
職員室当番は、その朝受けた欠席連絡の内容を、職員室にある専用の欠席ボードに書き込みます。
あ、上司に報告はしませんよ?
職員室当番の勤務終了時刻は7:50ですが、担任は遅くとも7:55には教室にいる必要があり、報告の時間なんてありませんから。

児童の安全確認および通学班長の欠席報告を受けた管理職は、7:50前後に職員室に戻り、欠席ボードを確認します。
報告とボードの情報が一致すれば、ひとまず朝の正常スタート。
しかし、希に、一致しないことがあります。
児童が欠席するとき、親は2つの連絡義務が発生します。
通学班長ルートと学校ルートです。
この二つのルートのステータス(連絡の有無)には、次の4通りが存在します。
1)「対通学班長:○、対学校:○」
2)「対通学班長:×、対学校:○」
3)「対通学班長:○、対学校:×」
4)「対通学班長:×、対学校:×」

1)「対通学班長:○、対学校:○」は、通常状態です。
通学班長報告とボード内容が一致します。
今日も健やかな一日が始まります。

2)「対通学班長:×、対学校:○」は、以前はあり得ませんでした。
通学班長に対して欠席連絡がないと、通学班が登校できないからです。
しかし過去、この点に理解のない親がいて、「なんで通学班なんかに連絡しなければならないのか!」というスタンスで、通学班の児童たちがかわいそうな事態に陥ったことがありました。
その通学班、理解のない親の子が欠席した日、集合時間を5分過ぎてもその子が来ないので、仕方なく班長がその子の家まで確認に行きました(今も昔も、学校へ行く児童は携帯所時不許可)。
その子の家は、集合場所から5分ほどの距離があります(田舎ですから)。
その子の家で「ああ、今日うちの子、欠席」(言い方!)と伝えられた通学班班長、集合場所へ戻るのに5分。
結局集合場所を出発できたのは、正常時刻の15分遅れ。
学校でも当然「○○班、未だ到着せず!」と騒ぎになり、教頭と担任が急遽現場へ駆けつけました。
欠席児童の親、学校へも連絡していなくて、近所の子に「学校で先生に渡して」と「本日欠席(氏名)」と書かれた手紙を渡しただけでした。
手紙を渡された児童は1年生。
集合場所で15分間待たされている最中にも、手紙の内容を推察することはできなかったようで、10分の距離を無為に往復した通学班長の救世主にはなりませんでした。
駆けつけた職員が通学班に出会ったのは、その通学班が15分遅れで出発した頃。
事情を聞いて、通学班には担任が付き添い、教頭が欠席児童の自宅へ。
以下教頭の話。
「(理解のない親、仮名A)Aさんは、『そんな義務はない』との一点張り。『以前の学校(都会からの転校)では、自由登下校で、通学班などの面倒なものはなかった。欠席するときは、近所の子にうちの子、休むね。伝えてね。だけでよかった。近所の子に手紙は渡したから、こちらは義務は果たした。通学班を強制するなら、毎日職員が付き添うのがスジ。なぜ、通学班と学校、2ヵ所に連絡しなければならないのか。常識を持って学校を運営してほしい』とのこと(涙)。」
校長が出動。
説得するも、進展なし。
翌日に地元の民生委員さんに協力要請。
ようやく説得に少々成功したが、Aさんは「通学班長には連絡するが、だったら学校への連絡は不要!」は譲らず。
ここで登場したのが通学班長の親。
この一連の事態(教頭撃沈、校長撃沈、民生委員撃破)を知った通学班長の親、「この学校の決まりが守れないのなら、通学班として受け入れを拒否します。一人で登下校してください。」とAさんに迫ったそう。
「こんな危険な田舎の道を一人で登下校せよとは、何事か!」とAさんの「夫」は激怒。
通学班長の親は、「危険だと思うなら、外国のように、親さんが送迎したら?危険の中、一人で登下校させるか、親が毎日送迎するか、ルールを守って通学班で登下校させるか、三択。」と迫ったそうです。
Aさんの夫は、通学班長と学校の双方へ連絡するのがルールと認識しており、まさか自分の妻Aさんがルールを無視し、教頭、校長、民生委員の3人から説得されてもルール遵守を拒否したという事実を知らず、それを知ってから態度が一変、学校と民生委員双方を訪れ丁寧に謝罪して、今後ルールを遵守すると約束してくださいました。
なぜこんなに詳細に顛末が分かるのか?
この「担任」は私でしたからw
一時は親と学校と地域を巻き込んだ、世界大戦の様相すら呈しましたから、事態が収束して、よかったよかった。
ちなみに、この出来事以降、通学班長に欠席連絡がない限り、定刻になったら通学班は出発してよいことになりました。
通学班長は学校で、「出発時間になっても来ませんでした。」という報告だけします。
学校に連絡が来ていれば、この事態は収束。
学校にも連絡が来ていなかった場合は、担任が家庭へ確認します。
詳細は4)で。

3)「対通学班長:○、対学校:×」は、意図してルールを破ったのではなく、うっかりでよくある事態です。
通学班と学校、両方連絡しなければと分かっていて、通学班には連絡したが、学校へ電話したら「話し中だった」「いくらコールしても出てもらえなかった」場合が大半です。
しばらく待ってから掛けたけど、またしても話し中。
そのうち、欠席した我が子の病状対応で、そのまま学校への連絡を忘れてしまった、そんな場合です。
学校の電話は、最大4回線使用可能ですが、時間帯によっては4回線とも埋まってしまいます。
また、回線が空いていても、対応できる職員がいない(基本的に、7:30-7:55の時間帯に職員室にいられるのは、職員室当番の1名のみ)場合もあります。
当然、通学班からの報告はあっても、学校の欠席ボードには載っていませんので、担任による確認作業になります。
これも、詳細は4)で。
うっかりミスなので、親は恐縮し、学校側もそれ以上親に恐縮させないよう配慮します。
ちなみに。「教員の朝」で書いた「朝から教育相談で長電話してくる親」が非常にとても大変すごくvery困るのは、こういった事情からです。

4)「対通学班長:×、対学校:×」は、「主力親」不在が一番の原因になります。
主力親とは、我が子の欠席に主に対応する親のことで、母親の場合が多いです。
主力親(主に母)が何らかの都合で不在または対応不可能になり、次席親(主に夫、または祖母)が欠席に対応する場合です。
通学班と学校、両方に連絡することを知らない場合や、連絡方法が分からない場合、ひどい場合は「8時前は学校の始業前なので、8時以降に連絡する」という会社の常識での判断など、正常に連絡が来ないことがあるのです。
通学班への連絡は、定刻までに来なくても不都合はなく、学校も担任が家庭連絡で確認しますから、それほど混乱は起きません。
ただ、連絡が付かないこともあります。
通学班へも学校へも連絡がないので、担任が電話してもつながらない(出ない)。
親の携帯へ掛けてもつながらない。
あるいは、家電、携帯、どちらかで話し中。
しかも、いつまで待っても話し中(キャッチは未設定?)。
この場合、8時を過ぎたら、教頭か教務主任が自宅まで行きます。
ここで親に会えれば幸運ですが、すでに親子で病院に行っていることもあります。
その場合どうするか?
親戚や祖父母、近所と「聞き込み」を開始します(刑事か)。
親は用事で外出、子は通学班の待ち合わせ場所まで行く間に事件(連れ去り)に巻き込まれた・・・のではない!とは言い切れないからです。
親か子、どちらかと連絡が付くまで、聞き込み調査します。
親の勤務先にも連絡します。
ところが最近、「携帯があるから、勤務先は記入したくない」という親も出てきています。
「プライバシーだ!」と言われれば、学校もそれ以上求められなくて・・・。
「通学班にも学校にも連絡なし。家電、つながらず。携帯は電源が入っていない。自宅へ行っても鍵がかかって留守、車無し。勤務先の記入無し。近所で聞いても情報なし。」という事例(実例)の時は、教頭、教務主任、養護教諭、非常勤講師を動員した聞き込み活動の成果がなく、午前10時の段階で警察への通報も視野に入っていました。
そんな流れを変えたのが、欠席児童と親しい児童の一言「○○ちゃん、ディズニーへ行くって昨日話していました」。
どうやら、混雑しない平日に、ディズニーへ一家そろって行ったようでした。
しかも学校へ一報無し、携帯(両親とも)電源切り。
友達の話で納得はできても、そこは子どもの話(ディズニーがホラ話、両親は朝仕事で不在、欠席児童は誘拐の可能性もあり)。
教育委員会と校長が協議して、ディズニーへ連絡して、親と連絡が取れないか(アナウンス?)というところまで話が進んでいた矢先、その親から学校へ連絡がありました
「夫に学校への連絡頼んでおいたのに、忘れていたようで。今日は欠席でお願いします。」とのことでした。
この段階で、給食時間になっていました(以上、教頭がまとめた報告書より)。
「欠席連絡がなく、児童が登校していない」という状況は、重大事件の可能性を考慮した、学校にとっては一大事件なのです。

理解しない親はめったにいませんが、理解の浅い親・・・学校では重大事件扱いで大騒動ということが分かっていない親・・・は一定数いて、突然大事件になる可能性は、毎日存在します。

家庭にも事情はあり、連絡がなくても、「困ります!」という対応はできません。
毎事例ごとに「誘拐、連れ去り」の可能性と、初動の遅れの危険性をお話しし、連絡には子どもの命に関わるかもしれない重大な意義があることを理解してもらうよう、お願いしています。

某九州某保育園での「登園バス内閉じ込め死亡事件」、本当に痛ましい事件(事故ではない)でした。
学校職員からすれば、登園バスから降りたかの確認をしなかったこと以上に、「欠席連絡がなくて、園児が来ていない状況に、なぜ誰も気づかないのか」の方が重大なことだと思っています。
無連絡欠席の危険性が認識されていたら、自然と園児の登園確認は、システム化(ルーチン化)されるはずです。
システム化されていなかったということは、無連絡欠席の危険性への認識がなかったということ。
危険性への認識がなかったということは、園児を「安全に責任を持って預かる大切な人間」として認識していたのではないということです。
「一人あたり○○○円になる」商売道具という認識だったのでしょうか。

欠席連絡不備による事件が起きても、職員は「こんなに苦労して、授業にも支障出て。全て親の責任だから、学校が(欠席関係業務)ここまでやらなくてもいいのでは?」と、働き方改革的な意見を口にする職員には、今まで出会ったことがありません。
児童の安全確保のためならば、「いかなる理由があろうとも、安全性が落ちるような省力化はできない」が、この業界(教育業界)の基本だという認識からです。

全ての親が欠席連絡に対して重大な認識を持つこと、学校からの連絡が必ず可能な経路を保ってもらうこと、これが現場が切に望むことです。

夏休み明け初日、宿題が終わってなくて登校してきてね!!
宿題より、みんなの元気な(わんぱくな、おてんばな)顔と報告(自慢話)の方が大事だから。
宿題忘れに対するお説教は、しっかりやるけどねw

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