見出し画像

「運」の構造化

先日、Xでも紹介しましたが、ドン・キホーテの創業者である安田隆夫氏の著書『運』が、運というものについて多角的に掘り下げており、非常に興味深い内容です。

著者は、運を「複雑系科学」と捉えています。
つまり、運というものは非常に複雑で掴みどころがないものの、スピリチュアルなものではなく、ある程度科学的に解釈できるという立場です

この本では、著者の豊富な経験に基づいて、運を高めるための思考法や実践的な知恵がふんだんに詰まっています。

何事も構造化したくなるのが、私の癖で、本書の内容を私なりに構造化して図解したものが以下の図です(字が汚くて申し訳ありません)。
この図解の内容も含め、本書のポイントを解説していきます。


運の構造化

まず、著者は運を「個運」と「集団運」の2つに分けています。本の前半では個運をどのように高めるか、後半では集団運をどのように高めるかについて論じています。

「個運」を高めるために必要なこと

個運とは、自分自身の運のことです。著者は、まず個運を高めることが最優先であると説きます。運は「大数の法則」によって捉えることができるとし、多くのチャレンジやトライをすれば成功も失敗もあるが、結果的にはその平均が確率的な値に収束すると言います

運とは、この確率的な平均値に近いものであり、長い目で見れば試行錯誤を繰り返すことで運が良くなるという考え方です。

図の中で赤い縦線を引いていますが、これはある人の運、すなわち確率的平均値を示しています。ベルカーブは、多くの試行の成功・失敗の分布を表しています。

この考え方が示唆するのは、成功は多くの試行錯誤によってのみ掴めるということです。著者自身、ドン・キホーテを創業する前から、そして創業後も、多くの挑戦と失敗を経験しています。それゆえ、この運の考え方には説得力があります。

この「運は確率的平均値に収束する」という前提に立った時、重要になるのは「確率的平均値をどうやって高めるか?」という点です。

著者が挙げる2つのポイントは以下の通りです。

ステークホルダーのためになることをする

著者は「主語の転換」、すなわち「相手の立場に立つこと」が極めて重要だと説いています。
具体的には、顧客至上主義を掲げ、顧客の立場に立った商売をする、競合が嫌がることを徹底する、部下のモチベーションを高めるために上司として何ができるかを考えるといった実践が挙げられます。これにより、顧客や部下といったステークホルダーに価値を提供し、結果的に自分の成功確率、すなわち運を高めることができるのです。

運を落とす要素を排除する

同時に、運を下げる行動を避けることも重要だと説いています。
具体的には、「戦わない(行動しない)」「他責にする」「人を見極めるのが早すぎる」「人間関係の距離感を誤る」「嫉妬を買う」「独裁的になる」といった行動が挙げられています。これらの行動を避けることが、確率的平均値をマイナスに引き寄せないための重要な要素です。

まとめると、「多くの試行錯誤を重ねる」「ステークホルダーのためになることをする」「運を下げる行動をしない」という3つのポイントが、個運を高めるために重要だと著者は述べているわけです。

「集団運」を高めるために必要なこと

次に、集団運についてです。
集団運とは、図に示したように「集団の構成員一人ひとりの確率的平均値がプラスの状態」と言えます。つまり、個運が強い人たちが相乗効果を生み出し、運を高め合うことで、組織全体のパフォーマンスが向上します。

著者は特に「権限移譲」の重要性を強調しています。ドン・キホーテが急成長を遂げた背景には、権限移譲が大きな役割を果たしたと言います。社員一人ひとりに権限を委譲することで、創意工夫が生まれ、小売業の現場において強い店舗が育ちました。結果として、顧客に愛され、競合に勝つことで、成功体験がさらに集団運を高めるというメカニズムが働いたのです。

権限移譲は、経営や人材育成の文脈でしばしば語られますが、「運」という観点でその重要性が強調される点が非常にユニークです。

集団運が個運を高めるメカニズム

図に矢印で示したように、集団運が高まると、それが構成員一人ひとりの個運をさらに高めるというメカニズムが働きます。これは本書には明確に書かれていませんが、スポーツのチームなどでもよく見られる現象であり、この因果関係は正しいと考えられます。

つまり、個運が高まることで集団運が高まり、集団運が再び個運を高めるという好循環が生まれる組織は非常に強いといえます。ドン・キホーテもそうですが、持続的な成長を遂げる企業には、このような好循環が少なからず存在しているのでしょう。

余談ですが、松下幸之助は採用面接で必ず「君は運が良いか?」と質問し、「はい」と答えた人を採用していたそうです。個運の高い人材が集まることで、松下電機という集団の集団運を高めることを意識していたのかもしれません。

以上が、安田隆夫氏の著書『運』をベースにした内容の解説と、私なりの解釈を交えた「運の構造化」です。読者の皆様は、運という一見つかみどころのないものをどのように感じられたでしょうか?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?