短編小説

ご無沙汰してます。齧りかけのリンゴです。

久しぶりに以前書いてたブログを読んでいたら、懐かしい小説を見つけたのでここにも載せようと思います。
(拙い文章ですが悪しからず)

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『来年もまた一緒にもみじ、見ようね』
あの日、彼女と交わした約束。
彼女はここからの景色が好きだった。
春には桜、夏には星、冬には雪、そして秋にはもみじ。
四季によって違って見える町。
そして彼女は秋が一番好きだった。
どうして?と僕が聞くと彼女は言った。
『どの季節にも良い所ってゆーか見所ってゆーのがあると思う。春は生命の始まり。夏は生命が育ち、冬に生命は眠る。そして秋には生命が夏の余韻を残しながら少しずつ散っていく。その散る直前が一番輝いているっように感じるの。』
彼女は夕日に照らされるマリろ静かに見つめていた。
『そう、例えばあれ。』
彼女がある一点を指差した。
そこにはもみじの木が沢山あった。
『もみじって夏にいーーっぱい緑になるのに、秋には紅くなる。どうしてだと思う?』
彼女は僕をちらりと見て言った。
『きっとね、最期にありがとうって言いたいんだと思う。だってその木のその場所につく葉は一年にたった一枚だけなんだよ?落ちてしまったら、もうその葉は死んでしまう。だからせめて落ちる前に、自分を育ててくれた木にお礼として、その木が綺麗って言ってもらえる様に、紅く染まるんだよ』
少し間をおいて彼女は言った。
『だからもみじは輝く―生命は輝くんだよ』
彼女は僕の方を見て笑った。
そして―
あの約束を交わしてから、十回目の秋がきた。
しかし彼女はあの約束の後、一度もここには来ていない。
彼女はこの町からいなくなった。
それでも僕は毎年ここに来ている。
あの時と同じ日、同じ時間、同じ場所に。
彼女の言葉を思い出しながら、彼女がここに来てくれるんじゃないかという淡い期待を持って。
そして今年も、そこに向っている。
長い坂を上り、曲がり角を曲がったところにその場所がある。
普段、人はほとんどいないに等しい。
そして僕が来たときも、人がいることはなかった。
でも今年は違った。
曲がり角を曲がると、そこにはふちの広い帽子をかぶった髪の長い女性が立っていた。
あの時の彼女のように町を、もみじを眺めてた。
僕は少し驚きながらも自然と足を女性の方に進めた。
「ここからの景色は本当に綺麗ですね。」
女性は町を眺めながら言った。
「ここは、初めてですか?」
僕も同じように街を眺めながら言った。
「いいえ。こっちに住んでいた時があったので」
「そうなんですか」
それきり僕と女性は何も言わず、ただただ夕日に染まる町を眺めていた。
「あなたは、なぜもみじが紅く染まると思いますか?」
突然女性が言った。
『もみじって、夏にいーーっぱい緑になるのに、秋には紅くなる。どうしてだと思う?』
記憶の中の彼女も同じように僕に問いかける。
女性は僕をちらりと見て言った。
「きっと、最期にありがとうって言いたいんだと思います。」
『きっとね、最期にありがとうって言いたいんだと思う。』
女性と同じタイミングで記憶の中の彼女が言う。
「だってその木のその場所につく葉は一年にたった一枚だけなんです。落葉してしまったら、もうその葉は死んでしまいます。」
『だってその木のその場所につく葉は一年にたった一枚だけなんだよ?落ちてしまったら、もうその葉は死んでしまう。』
「だからせめて落ちる前に、自分を育ててくれた木にお礼として、その木が綺麗って言ってもらえる様に―」
『「紅く染まる」』
僕は記憶の中の彼女と一緒に女性の言葉の続きを言った。
女性は少し驚いた顔で僕を見た。
でもすぐに静かに微笑んだ。
「・・・今日はここでもみじを一緒に見た大切な人にお礼を言う為に来ました。」
女性は町を見つめながら言った。
「その人には、会えたのですか?」
僕も同じように町を見つめた。
「はい、十年前となんら変わりは無くて、安心しました。」
「それは奇遇ですね。実は僕も今日は会いたかった大切な人に会えたのです。」
「そうなのですか。その方はどんなご様子でした?」
「あなたと同じ様なものです。変わらないというのが、こんなにも嬉しいこととは思いませんでした。」
「そうですね。」
女性は静かに笑って頷いた。
「・・・僕は大切な人がもみじの様に感じました。」
「それはどうしてですか?」
「大切な人は、きっと僕に最期の言葉を言いに来たんだと思います。そしてその姿はとても綺麗でした。」
「もみじの様に?」
「はい。」
僕はほのかに笑って女性を見た。
「・・・それはきっと、まちがいではないと思いますよ」
女性は僕の方を見て言った。
その瞳が一瞬悲しさをおびたように見えた。
「では、私はそろそろお暇させていただきます。お話できて、楽しかったです。ありがとうございました。」
女性はそう言って、小さく会釈した。
「いえ、こちらこそ」
そう言って僕も小さく会釈した。
そして女性は背を向けた。
「またいつでも来て下さい。僕はいつでもここにいます。」
僕は女性―彼女に向って言った。
「はい、ありがとうございます。」
そう言って彼女は振り向き、笑った。
―あの時と同じように。
そして彼女はまた背を向けて行ってしまった。
「ありがとう」
僕は彼女に向けて小さく呟いた。


その後、僕は二度と彼女と会うことはなかった。


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この当時の想像力がまた戻ってきますように……!!!笑

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