黒いちでカルメ焼きを食べる話

「こんな所でどうしたの」
「失敬な。台所だぞ」

確かに、当番でもないのに自分から料理をするのは珍しい…いや、初めてかもしれない……が、流石に今の一言は失礼なのではないだろうか。

「カルメ焼きを作ろうかと思ってな」
「へえ、家で作れるの?」
「本当はガスバーナーの方が慣れているのだがね。何せ初めて作れるようになった料理だ」
「…カルメ焼きは料理に含まれるのかしら…」

ざらめと水をお玉に入れ、火にかけるとワイルドに温度計でかき混ぜる。125度になったら火からおろし、重曹を付けた割り箸を叩き込むように混ぜる。暫く混ぜてから割り箸を引き抜くと、餅のようにぷくっと膨らんだ。成功だ。
隣で見ていた彼女の目がきらきらしている。

「出来る所は初めて見たわ。こんなにぷくーって膨らむのね!」
「面白いだろう。君も作るか?」
「ええ!」

お玉を軽く炙って出来たカルメ焼きを外し、彼女に渡す。
「大きいの作るわよ!」と意気込んでいた彼女だったが、重曹を入れても上手く膨らまずに、黒焦げのぶすぶすが完成した。

「カルメ焼きはコツがいるんだ」

台所で優位に立てたのは初めてだったので、想定よりも得意気な言い方になってしまった。もう1つ作ってやろうとお玉に手をかけようとするも、彼女はお玉を離さなかった。どうやら成功するまでやるつもりらしい。負けず嫌いなのだ、イチゴくんという人は。

カルメ焼きを食べながら見守り、適宜アドバイスもしてみたが、結果は5連敗。ダークマターを計6つ生成した彼女は、観念したかのようにお玉を手放した。

「悔しい……おさとうのムダだったわ…何がいけなかったのかしら……」
「こればっかりは経験だよ、キミ」

2つ目が完成した。勿論成功だ。
熱いうちに包丁で切り分け、紙で包んで彼女に渡した。

「カルメ焼きは熱いうちが1番美味いんだ」
「……ありがと、イタダキマス」

ジャクジャクとした歯触り。素朴なザラメの味。2人で、美味い美味いと夢中で食べた。原価は数円にも満たないが、何か幸せなものを食べているという満足感があった。

「ご馳走様。美味かった」
「ありがと。洗い物宜しく」

夕食が終わり流し台に行こうとすると、「そういえば」と彼女に呼び止められた。

「さっき鼻歌歌ってたけど、何か良いことあった?」
「鼻歌?」

先程お玉を洗って部屋に戻る途中、無意識に鼻歌を歌っていたらしい。アンタが鼻歌なんて珍しいから、と付け加えられた。
心当たりがないと言うと、彼女は悪戯っぽく笑った。

「アンタ本当は、ずっと誰かにアレ食べさせたかったんじゃない?」
「さあ、どうだったかな」
「ふふん、可愛いとこあるじゃない」

勝手にそう解釈し、今度は彼女が鼻歌を歌いながら部屋に戻って行った。
まぁ今日の所は、そういうことにしておいてやろう。

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