林檎飯

身内用創作ss置き場です

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最近の記事

間抜けでよかった、かもしれません

「コーンポタージュのコーンを最後まで飲む方法、ご存知ですか」 言い終わる前に、なんとも間抜けな話題を選んでしまったと後悔した。 「これ、回しながら飲むと良い感じなんですよ」 「それ、本当に上手く行きます?」 試したことがある人の言い方だった。 「少なくとも打率は上がります」 「やっぱりそのレベルですよね」 「よく飲むんですか、コーンポタージュ」 「ええ、プチ家出の時に」 「プチ家出」 人差し指でポリ、と頭を掻きながらカフカさんは続けた。 「うちの夕食って空気があま

    • 賢者の柏餅

      「……これはボクが悪かった」 「いえ、私も悪かったわ……」 テーブルに並んだ二パックの柏餅を眺め、ボクらは深くため息をついた。 ☆ ゴールデンウイークも終盤。同居人のいちごクンが買い物に行った後、休み前にクリーニングに出していた白衣を思い出し、取りに行くことにした。(白衣の汚れは中々家庭用洗剤では落ちないのだ。) 白衣を受け取った帰り道、いつもならスルーしてしまう和菓子屋に目が止まった。今日はこどもの日。季節行事を重んじる彼女のため、柏餅を買っていくことにした。 「す

      • Cause lovin' you

        1ヶ月に数回、物凄く喉の調子が良い時が無いだろうか。 例えるならその100倍くらい、もっとかな、その日はそのくらい、声が上手く出るような気がした。 「〜♪〜〜♪」 ハミングで喉の調子を整え、何を歌ってみようかと、頭の中で色々な曲をシュミレートする。覚えたてのJPOP、今度歌う合唱曲、流行りのバラード。 迷った末に私は、かなり古めのラブソングを口ずさんだ。私が産まれる前に大ヒットした曲。パパが車でよくかけてくれた、大好きな曲。いつもなら少し辛い高音も、今日はとても滑らかに出

        • 知らないものだらけ

           焦げ付きにくいフライパンセット。  珪藻土バスマット。  電動お魚釣りゲーム。  何でもあるのに、欲しいものだけが見当たらない。 ☆  衛生用品が足りなくなってきたので、買い出しに行くことになった。本来なら部下にやらせるような仕事だが、彼らは他の「部下にやらせるような仕事」に忙しく、仕方がなく手の空いた私が行くことになった。  まぁ、定例業務は自動ツールにやらせるようにしてるからぶっちゃけ暇だしいいんだけどね。仕事増やされるから絶対上には報告しないけど。  向かったの

        間抜けでよかった、かもしれません

          庶民派ハロウィン

           帰宅して真っ先に出迎えてくれたのは、陶器でできたジャックオランタンの置物だった。 「可愛いじゃないか、これ」 「でしょう」  棚上の判子とボールペンの横にちんまりと飾られたそれは、殺風景な玄関をパッと明るくしてくれていた。お礼代わりにつんと弾くと、彼女は得意気にふふんと笑った。 「100円ショップでラップを買おうとしたら、目が合っちゃって。つい買っちゃったの」 「ははは、それは買い物上手なことで」 「……」 「すまない、褒めたつもりだったんだ」  ボクの言い方は毎度

          庶民派ハロウィン

          マチルダの自己紹介的なss

          (……あれ、これって)  あくびあくびの4限が終わって、ようやくのお昼休み。パンでも買いに行こうと席を立つと、教室の隅にハンカチが落ちていた。「I」のイニシャル刺繍が入った、レースのハンカチ。このクラスでアイから始まる名前の人は、アイリスさんだけだ。拾い上げてぱんぱんと軽く埃を落とすと、香水の甘い香りがした。 (届けてあげなきゃ!)    アイリスさんは、今時珍しいくらいの「正統派お嬢様」って感じのひとだ。綺麗で、堂々としてて、いつもみんなの中心にいる。私生活は謎に包まれ

          マチルダの自己紹介的なss

          8割寄りの、2割

          「おは……ふ、あはははは!アンタ、鏡……あはははは!」 「…笑ってないで助けてくれ、爆発したんだ」  笑い転げるだけの同居人を眺めながら、どうにもならない自分の寝癖をつるりと撫でた。  2人で生活するようになってから数ヶ月経ち、あることに気付いた。  シャンプーの減りが早い。  2人で生活をしているのだから当然と言えば同然だが、2人とも髪が長いため1日につき3×2=6プッシュ消費することになる。どうにかならないかと考えたボクは、シンプルかつ最も合理的な考えに至った。  

          8割寄りの、2割

          ゆめかうつつか

          「綺凛、きーりーん」  お母の声でゆるりと覚醒する。  親戚の家から帰るには、車で3時間。後部座席は揺り籠のような心地良さがあり、いつもすぐに寝てしまっていた。  これは夢だ。恐らく、3歳くらいの時の。 「……」  3時間もあればかなり深くまで寝入ってしまう。知らない人と会った疲れもあり、起きるのが嫌だった私はいつも目を閉じて狸寝入りを決めていた。 「綺凛、おーい……だめか」  何度か目の呼び掛けにも答えない私に根負けしたお母は、いつも私を抱っこしてベッドに寝かせて

          ゆめかうつつか

          月城くんと綺凛の絡み妄想 おまけ

          「あれ、ふたつ?」  アイスキャンディをカゴに入れた後にレアチーズケーキを手に取った私に、彼はそう問いかけた。 「…だめ?」 「いや、全然大丈夫だよ。でも、口の中あまあまになっちゃうかなって」 「いいの」  こっちは私用じゃないし。なんて言うのも面倒だったから適当に返事をした。  そういう彼が手に持っていたのは、アイスキャンディとバタービスケットサンド。存外甘党なんだなと思いながら、レジへと向かった。 ☆  藤ノ宮紫月が困ったように、しかしとても嬉しそうにレアチーズ

          月城くんと綺凛の絡み妄想 おまけ

          月城くんと綺凛の絡み妄想

          「おーい、ビール」  甘酢炒めを配膳した直後、叔父たちは真っ赤な顔で呼び止めた。  私、ビールじゃないんだけど。そんな子供っぽいことを思いながら、「はあい」と返事をしてキッチンに向かった。 「……あれ」 「あ!キリンちゃん、ビールもう無いのよォ」 「あ……そうですか」  ちらりと振り返って声をかけてくれた彼女は、重そうにとろろをかき混ぜている。米のこびりついた寿司桶を洗っていたり、玉ねぎを飴色に炒めていたりと、他の女性たちも忙しそうに作業していた。 「ビールもう無いみ

          月城くんと綺凛の絡み妄想

          不可逆

          「電車って、昔すごく怖かったんですよねぇ」  隣町に買い出しの用事があり、荷物持ち要員の後輩を連れて行った日のこと。次の電車まであと10分。世間話が続かず気まずかったらしい彼は、そんな話を照れたようにし始めた。 「轢かれたらひとたまりもないから?」 「そんな怖い話じゃないです! ただ、一瞬ですごく遠くまで行っちゃうの怖くなかったですか?」 「ふぅん……?」 「ほら、小さい頃ってあまり遠くに行けないじゃないですか。だから、どっか行くのも、相手が行っちゃうのも怖くて……僕だけ

          親戚の家でのあれこれ

          「キリンちゃん!大きくなって〜」 「おたくまた昇級したんですって?」 「あ、うちの息子もね……」 「あら!それって……」  着いてすぐに開催される、おばさんマシンガントークからのマウント合戦。 「キリンちゃん、またお姉さんになったんじゃない?カレシでも出来たか〜?」 「だめだよ、変な人に捕まったら!おじちゃんたち許さないからね?」 「だめだめ、俺たちがそんなこと言ったら!行き遅れちゃったらどうするの!」  何も言っていないのに、好き放題に話し始めるおじさんたち。吐き気が

          親戚の家でのあれこれ

          お姉は

           お姉はずっと不器用な人だった。 「着飾ったり化粧したりなんかして、くだらない」 (そのままでも可愛いのに) 「何だ、食い物じゃないのか」 (こんなに良いものを貰えると思わなかった) 「紫月、綺凛は邪魔だから引っ込んでろ」 (こっちは危ないから私に任せておいて)  根は優しい人なのに、口から出る言葉はどれもこれも最悪。これじゃ、相手に真意が伝わらない……友達がいないのも仕方がない。 「ねぇ、お姉」 「ん、」  20cm以上の身長差を鑑みても、微妙に合わない視線。近付く

          紡さんとの絡み的な何か

          「邪魔するぞ!!」  ガラッと勢い良く扉を開けて医務室に入ってきたのは、言葉中将。片足で器用にトントンと部屋に入り、可愛い顔と体躯に似合わずドカリとベッドに座った。 「彼」は担いできた義足を突き出し、偉そうにふんぞり返る。 「……どーも、どしたんですか」 「何もしてないのに壊れた!」 「パソコン壊したおじいさんと同じ言い訳」  溜息をつきながら義足を受け取る。  彼曰く「何もしていないのに壊れた」らしいが、あちこちに改造した跡がある。 「どーこーが"何もしてない"んで

          紡さんとの絡み的な何か

          うちの子軍人ったー設定

          水森 妃凛 (みなもり きりん) 衛生隊長 19歳 一人称:私 二人称:あんた 「自分に自信なきゃ、ツインテなんてしないっつーの」 「はいはい、取り敢えず座って」 「調べれば書いてあることをわざわざ覚える必要あります?それなら電子辞書でも雇ったら?」 容姿端麗、成績優秀、料理や掃除洗濯その他何でもテキパキとこなす。 言動的にナルシシストに思われがちだが、謙遜なく事実を述べているだけに過ぎない。 サボる為の努力を惜しまない質で、日常的な業務や簡単な治療は全て自作のロボッ

          うちの子軍人ったー設定

          あかりをつけましょ

          「信州地方では歳の数だけ雛あられを食べるんだぞ」 「微妙に本当っぽい嘘やめて頂戴」  バレたか、と声を漏らすと彼女は呆れ混じりのため息をついた。 食卓とキッチンの間にあるカウンターには既に食事の用意が出来ており、彼女お手製のちらし寿司には、30%オフで買った大奮発のいくらが輝いている。 「あ、そだ、お雛様飾らなきゃね」  彼女はぱたぱたと部屋に戻り、ちりめん製の、お内裏様とお雛様の二人しかいない一段きりの雛人形を飾った。 「こんな可愛らしい雛人形は初めて見たぞ」 「そ

          あかりをつけましょ