賢者の柏餅

「……これはボクが悪かった」
「いえ、私も悪かったわ……」

テーブルに並んだ二パックの柏餅を眺め、ボクらは深くため息をついた。



ゴールデンウイークも終盤。同居人のいちごクンが買い物に行った後、休み前にクリーニングに出していた白衣を思い出し、取りに行くことにした。(白衣の汚れは中々家庭用洗剤では落ちないのだ。)
白衣を受け取った帰り道、いつもならスルーしてしまう和菓子屋に目が止まった。今日はこどもの日。季節行事を重んじる彼女のため、柏餅を買っていくことにした。

「すみません、柏餅を二つ。……味噌餡で」
「はいはい、毎度」

和菓子屋のビニール袋を引っ提げ意気揚々とアパートに戻ると、さっき帰ってきたらしい彼女が冷蔵庫に食材を入れ終わった所だった。

「あ、おかえり。ただいま」
「ただいま、おかえり」

今日はお土産があるんだぞ、と袋を掲げると、彼女は「私も」と声を跳ねさせた。

「「……あ」」

テーブルに並んだのは、二パック分の柏餅。仕事ではあれだけ意識している報連相も、プライベートになると互いにこのざまだ。

「まさか、二人とも買ってくるとはね……しかも、どっちも味噌餡なんて」
「ああ、完全に裏目に出たな……」

淹れてもらったお茶を啜りながら、先ずは彼女が買ったスーパーの柏餅を手に取る。葉をめくってピンクの餅を齧ると、甘塩っぱい味噌餡がとろりと溢れた。

「実はボクは、あまり味噌餡は好きでなくてな」
「そうなの?……尚更どうしてこっち買ったのよ」
「いや、キミがもし買ってくるとしたら白い方だと思ったんだ」

いちごクンのことだ、買い物に行ったついでに柏餅を買ってくるかもしれない、という所までは想像出来た。
柏餅でメジャーな方、というと餡子の入った白い方だろう。彼女が白い方、ボクがピンクの方を買ってくれば彩りも良いし、彼女も喜んでくれるかと思ったのだ。

「そうだったのね。……私は、アンタはこっちの方が好きなんじゃないかと思って買ったのよ」
「……!そうだったのか」
「そう。まだまだ知らないこともたくさんあるのね」

スーパー産の柏餅を食べ終わった彼女は、和菓子屋産の柏餅に手を伸ばした。彼女は律儀に「いただきます」と言い直して齧ると、小さな声で「おいし」と零した。

「『賢者の贈り物』みたいだな」
「ああ、あのクリスマスの」

ボクはようやく一つ目の餅を食べ終わり、二つ目の柏餅の葉をめくった。

「……苦手なら良いわよ、私が後で食べるから」
「いや……」

一口齧って、ゆっくりと咀嚼する。独特な味噌の風味が、ぷんと鼻に抜けた。

「悪く無い味だと、思い始めてきた所だ」

ジムとデラも、きっとこんな気持ちだったのだろう。じわじわと上がりそうになる口角を誤魔化すように、二口目を齧った。

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