間抜けでよかった、かもしれません

「コーンポタージュのコーンを最後まで飲む方法、ご存知ですか」

言い終わる前に、なんとも間抜けな話題を選んでしまったと後悔した。

「これ、回しながら飲むと良い感じなんですよ」
「それ、本当に上手く行きます?」

試したことがある人の言い方だった。

「少なくとも打率は上がります」
「やっぱりそのレベルですよね」
「よく飲むんですか、コーンポタージュ」
「ええ、プチ家出の時に」
「プチ家出」

人差し指でポリ、と頭を掻きながらカフカさんは続けた。

「うちの夕食って空気があまり良くなくて」
「ああ……」
「それでご飯が喉を通らない日もよくあって。それで後から小腹が空いた時に、部屋のハシゴからこの自販機までコーンポタージュを買いに行ってたんです」
「なるほど、たしかに『プチ』家出ですね」
「でも、結構良いんですよ。出ようと思えばこんな家、出れるんだぞって思える気がして。……情けないですよね」

自嘲気味に笑う彼を、思わず抱きしめたくなって、やめた。せめて合わせようと思った目もなかなか合わずに、少し気まずくなった空気をごまかすように、ちびちびとスープを飲んだ。

「……あ」

そして私はすっかり忘れていたのだ。缶を回しながら飲むことを。

「どうです、全部食べられましたか?」

底の方にびっしりと残ったコーンに呆然とし、気まずさから今度は私が目を逸らす番だった。

「ふっ……へへ……ほ、本気でやってましたか?ふふっ…………」
「……ちょっと、ぐるぐるするのが遅かったかもしれないです」
「そういう問題なんですか?……っふふ、あはははは!」

それは初めて見る、カフカさんの笑顔だった。
心の底から可笑しそうに笑う彼は、他のどこにでもいる高校生と変わらない。ああ、守ってあげたいな。彼にはきっと、眩しい未来が待っている。

「じゃあ、そろそろ出発しましょうか」
「はい」

1つしかないヘルメットを差し出そうとする手をやんわりと制し、カフカさんの後ろの方に跨る。
スクーターは徐々にスピードを上げ、一時の方角へと進んでいった。

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