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鍋に入るカニ

「このカニを鍋に入れると、ショートショートが出てくるんだよ」

友人はそう言うと、青と白の見慣れないカニを鍋に入れて、火にかけた。

コトコト、コトコト……。

カニを煮込むと、出汁と一緒に文字が浮き出てくる。

「なにこれ?」

「だからショートショートだって。あ、火加減に気をつけて。煮込みすぎると、アクが出てきてバッドエンドになりやすいから」

「ふーん、不思議なカニだねぇ」

友人は熱心に鍋を見つめて、手際よく落し蓋をした。

「落し蓋をしないと、ショートショートの落としどころがなくなるんだ」

「けっこう調理が難しいんだね」

落し蓋を外すと、心なしかカニが微笑んでいる気がする。

「ここからが大事」

友人はちゃぶ台ごと鍋を吹き飛ばす。
リビングにカニと出汁と文字が散乱する。

「これがどんでん返し」

絶対に違うと思ったが、友人もカニも嬉しそうにしていたので、僕は何も言わなかった。――いや、言えなかった。

(完)


この物語はフィクションです。
実在の青い立方体や、かわいい柴犬さんとは一切の関係がありません。
ご了承ください。

※毎週ショートショートnote参加作品ではありません。

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