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Foojin'Z 5th Generation〜先端カーボンへの挑戦

宇津木です。
前回、開発から長いテスト期間を経て、カーボン素材が航空機(ボーイング787)に採用された話をした。先日俺も787ダッシュ8に搭乗した。現在JALの羽田−伊丹間はこの機体が多くフライトしており、この区間を利用される方は当たる確率が高い。787はボディ全体にカーボン素材(T800S)が搭載されているのだが、その前にまず、ボーイング777の尾翼にカーボン素材が採用されて高評価を受け、それが787への採用に繋がっている。
ボディ全体をカーボンで軽量化することで燃費効率は良くなるが、メリットはそれだけではない。搭乗してみると感じるのだが、787の機内は湿度が保たれており喉が乾きにくい。従来の鉄のボディとは違い、787は水分による腐食の心配がないカーボンボディなので、機内の湿度を上げることができる。これは機内の乾燥に悩む乗客に享受できる大きなメリットだ。それこそ海外への長時間フライトとなると、快適性が大きく違うだろう(俺は対策として保湿マスクを使用していた)。現在国際線ではより機体の大きな787ダッシュ9、そしてダッシュ10も就航し始めている。また海外に行ける時が来れば、事前に使用機体も調べてから予約することにしよう。

前回の続き

5代目Foojin’Zのテーマを「先端素材への挑戦」としたことで、求めたのは次の3つ。それぞれプライオリティの高い順でいくと下記となる。
1) シャープな弾き性能
2) しなやかな曲がりと強度
3) 軽量感
そう、Foojin’Zのブランクは「シャープで弾き感があり、尚且つタフで軽量」ということになる。まさに「言うが易く行うは難し」で、簡単にできれば誰も苦労しない理想のブランクにチャレンジすることになる。
基本的にロッドの性能はブランクの質が決めることになるので、どのプリプレグをスクリーニングするかが最も重要だと言える。
前回、東レさんの最新素材「M40X」と「T1100G」について触れた。

TORAYCA®︎第三世代「M40X」と「T1100G」

この2つは簡単にいうと、
「M40X」はそれまでの40tカーボン繊維「M40J」を改良した、ロケットや次々世代航空機への使用を前提とした最新素材である。弾性率と強度の両方を極限追求し、M40Jと同じ弾性率を保持したまま、圧縮強度を30%向上している。ハジキ性能、キャスト時のスピード向上に起因する素材で、弾性率は40t。樹脂は#2574(ナノアロイ)を使用してプリプレグにしている。

「T1100G」は「T1000G」を改良した、完成系中弾性カーボン繊維である。ロケットやF1、次世代航空宇宙用途向けに開発した炭素繊維で、引っ張り強度においては現時点で、世の中の炭素繊維(カーボン)では最高強度を誇る。強度以外にも、キャスト時のロッドスピードの加速や、曲がりのしなやかさを生み出す素材で、弾性率は33t。樹脂は#2574(ナノアロイ)を使用してプリプレグにしている。

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上記のグラフはTORAYCAの強度と弾性率を示したグラフである。縦軸は強度で、横軸は弾性率となる。(横軸が例えば300だと、30tの弾性率ということである)このグラフを見ても分かるように弾性率を上げていくと、必然的に強度は下がってくるトレードオフの関係にある。M40XはM40Jの弾性率そのままで、30%も強度を引き上げ、T1100Gは弾性率を上げながら、同時に強度も引き上げることに成功している。これら2010年代以降に開発されたカーボン素材は「第三世代」と位置付けられほど、従来のカーボン繊維と比べ突出していると言える。

前述したように共にプリプレグにするための樹脂は、#2574(ナノアロイ)を使用した技術で、特に圧縮強度に優れている。圧縮強度とは竿が曲がる際に、竿の外側は引っ張られ、内側は圧縮される。それぞれの限界点を超えると折れてしまう訳だが、ほとんどの場合圧縮された部分で破断することが多い。圧縮強度に優れているということは、ロッド が折れにくいことと直結する。前作のFoojin'AD(後期モデル)で初採用したナノアロイ技術だが(この時はT800S)、第三世代ではもはやデフォルトになってきている。ちなみに今回のFoojin'Zから、このナノアロイ技術は印籠継のジョイント部分にも採用した。

目指すはランカー以上

今回Foojin’Zのプロジェクトをスタートするにあたり、テスターの意見をヒヤリングした。すると予想通りというか、ほぼ全てにおいてランカーを視野に入れたモデルばかり。通常シーバスロッドのラインナップといえば、L(ライト)〜ML(ミディアムライト)〜M(ミディアム)〜MH(ミディアムヘビー)〜H(ヘビー)とパワークラスが満遍なく揃っているものだが、この時のヒアリングではMHとHばかりが出揃った。だがこれは当然の結果でもあった。APIAは大物志向のテスターが圧倒的に多い。それこそ過去メーターシーバスをキャッチしているテスターが9人(本数で言えば29本)もいる。俺も昔はジギングでJGFAの日本記録や、IGFAの世界記録を本気で追いかけており、デカい魚は大好きだ! もちろん釣りはデカい魚を釣ることだけが楽しみではないし、偉いわけでもない。いろんな楽しみ方ができる釣りという遊びは本当に素晴らしいと思う。でも俺はデカい魚に圧倒的なロマンを感じる。俺の志向がそうである以上、必然とそういう仲間が集まるのだろう。
そして彼らは口を揃えて言う。
「シャープで弾き感があり、尚且つタフで軽量」
いや、分かっているよ。俺もそう思っていたよ。これを毎度聞かされるのだから、デジャブ感が半端ない。

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(2014年1月 タイリクスズキ 121cm アングラー:北添貴行)

理想のブランクへ

「シャープで弾き感があり、尚且つタフで軽量」
これを実現させるには前述の「M40X」と「T1100G」しか考えられない。だが昨年までのプロトタイプは、この素材の特性を全く活かし切れておらず、使えないプロトタイプを重ね続けた。
しかし東レさんの勉強会に参加するようになり状況は一変する。特性、使い方を正しく学んだ上で、最も効果的な使い所を探っていく。この作業には決められた正解があるわけではないので、完成予想から逆算して、あらゆる組み合わせにサイコロを振り続けることが重要だ。すると今まで超えられなかったイシューが一気に解決していった。

釣竿は様々なパーツの集合体で、多くの人を介することで完成する。Foojin’Zも素材メーカー、工場、現場のテスター、そして我々アピアがコンソーシアムを組むことで、「言うが易く行うは難し」を乗り越えることができたのだ。

次回はブランク以外のコンポーネンツ、そして現在進めているラインナップを紹介する。


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