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ノートをかっ開いて

以前ラジオで、もやもやした気持ちを吐き出すには紙にひたすら書きなぐることだ、と片岡さんが仰っていたのを思い出す。

彼がそういう用途のノートを持っているのも聞いたことがあるし、「センス・オブ・ワンダー」や「トワイライト」の歌詞にもそんなシーンが投影されている。
ましてsumikaのマスターピースともいえる「Lovers」という曲の主人公である“僕”が涙の理由をB5の紙に書き出しているのは皆様ご存知のことと思う。

そうして色々思い悩むことに溢れていた(なかなかヤバめなやつだ)私は、いいことを聞いた!と思い、そのような気持ちの整理方法を試みたものの、一向に書き進めることができなかった。
というのも、ペンの先が紙に触れた瞬間、自分が書きたいと思った感情が何者なのか分からなくなってしまうのである。

今でこそ、紙に書くことが習慣化して、ルーズリーフヘビーユーザー兼ひとりごと書きなぐりマスター(謎称号)になった私だが、当時は上手く思いを紙上に昇華できないために心が詰まる感じがして苦しかった。

そんな時、ふと、これなら出来ると思ったことがある。それは“考察”である。

自分の心惹かれる曲の歌詞を印刷する。そして気になったフレーズ、表現を丸で囲って、気になった理由や自分なりの解釈、つながりを書き込んでいく。
その“丸”はやがて線となり、矢印となって、どんどん他の言葉にも伝播していき、いつのまにか真っ黒になった歌詞カードが出来上がる。
誰に見せるでもない、自分だけの思考の結晶である。
少しばかりの達成感を得てひと息ついた後、カードを手にゆっくりとその曲を聴く。
すると、そこには今まで見えなかった景色や色、音が感情の波となって私の耳に返ってくる。

そのときの感覚が忘れられなくて同じようなことを何度か繰り返していると、初めはただの形容詞の羅列だった書き込みが、気付けば色や映像に置き換えられ、具体化されていった。
なるほど、なんとなくではあるが自分なりの思いの書き出し方がわかってきた。

そんな変化を経て、いざ、歌詞ではなくて自分の気持ちをまっさらな紙に書いてみる。
あの時の断片的な言葉ではなくて、ちゃんと連続性のある文字の流れを、少しずつ、捉えることができるようになった。
単純にすっきりするから癖になった。

頭の回転を、思考の流れを、止めたくないから必死で後から読めるか読めないかギリギリラインの運転で鉛筆を走らせる。
いっぱい書いて満足して気付く、右手の側に残った黒鉛の跡も嫌いじゃないな。

ズボラな私はせっかく思いを刻んだルーズリーフもどこかに放ってきてしまうから、今日はかわいい色のノートを買って帰ろう。ついでによく書ける鉛筆も。
これからは何度でもその時の自分を思い出せるように。
机の引き出しの肥やしになってしまったであろう彼らも気が向いたら探してみることにする。

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