見出し画像

螺旋階段の先のどこでもドア、もしくはタイムマシン

鴨川にあるカフェカルトーラは出来たらひとりで行きたいお店だ。交通量の多い通り沿い、螺旋階段を登って見える扉はもしかしたらどこでもドアで、入る人を別空間に連れて行ってくれるのかもしれない。センスとユーモアに溢れた店内で力強い味のアップルパイをいただいた。

それもまた、私を別空間に連れていってくれるものだった。店内に飾られたAIWAの赤いラジカセ。小学生の頃、お年玉で買った私の初めてのラジカセととてもよく似ている。それを使ってテレビの音楽番組を録音したり(テレビの前でボタンを押してカセットに録音するのだ。絶対家族の誰かが喋りはじめ、怒るとこまでがワンセット)、銀色のアンテナを伸ばし、ラジオの電波が入る位置を探して部屋の中をウロウロとしたり(聞きたかったオールナイトニッポンは電波が弱くダメだった)、中学に入ってコンポを買った後もずっと現役で使っていたラジカセ。

「これとよく似たラジカセ、私ももってました。子どもの頃」
「そうですか!僕も子どもの頃使っていたんです。お年玉で買ったんですよ」
「私もです」「懐かしい」

店長さんと言葉をかわして、嬉しさでいっぱいになる。もしかしたら当時は小学生が買える値段のラジカセ自体が少なくて、同じエピソードを持つ子どもが全国にいたのかもしれない。あまちゃんでも使われていたと店長さんも話していたので、時代を象徴するような電化製品だったのだろう。

それでも。

どこでもドアかと思って入った扉はタイムマシンだった。あの頃、ラジオから流れる音楽を聴きながら、私はたくさんのことを考えました。学校は楽しい時期もあればそうでないこともあった。早く大人になりたいと思いながら、自分が大人になるなんて信じられなかった。

あのラジカセからは随分遠く離れたけれど、未だに大人になれたような気はしない。でもまあ、結構楽しく生きてはいるけどね。

カフェカルトーラ。とても素敵なお店ですのでお近くにお越しの際はぜひ。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?