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#ネタバレ 映画「オーバー・フェンス」

「オーバー・フェンス」
2016年作品
「華麗なるギャツビー」への献辞か
2016/9/22 8:42 by さくらんぼ

( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )

名作映画「華麗なるギャツビー」には象徴的な対岸の「緑の光」が出てきます。そして映画「オーバー・フェンス」にも一瞬だけ似た光が登場するのです。

離婚した妻を忘れられなくて薬指の指輪を外せない主人公・白岩(オダギリジョーさん)。彼は勇気を出して元妻と面会します。そして、とりとめのない話をした帰り際、「捨てられないから、これ返すわ…」と元妻から指輪を渡され(引導を渡され)、その場で、こらえきれず泣きだしてしまいます。

その様子を遠くのクルマから観察していた、白岩に想いを寄せるホステス・聡(蒼井優さん)。「今でも泣くほど元妻を好きだったのか」とショックを受けつつも、急いでクルマを走らせ自宅へ戻り、「台所でしゃがみ、素っ裸になって身体を拭く」のです。もし白岩が聡の家にやってきたら慰めてやろう(千歳一隅のチャンスだ!)という気持ちからでしょう。

この「身体を拭くシーン」は2回ほど出てきますが、「うっかり愛人の自慰シーンを見てしまったような破壊的なエロチシズム」です。しかも、それだけでなく、そこには「哀しみ、愛らしさ、いじらしさ」も混じっていて、あのシーンだけでもこの映画を観る価値があろうというもの。蒼井優さんはスゴイ。実は彼女の部屋は実家の離れにあり、東屋みたいに風呂もシャワーもないのでした。

しかし…白岩は来なかった…(たぶん)。

この話の「元妻がデイジー」であり、「白岩がギャツビー」ですね。

そして指輪は「緑の光」なのでしょう。

引導を渡され、その光は消えてしまいますが。

それから、ホステス・聡も「追いかける者」という点ではギャツビーだったのかもしれません。

★★★★☆

追記 ( 「冷ややかな視線」は刺さる ) 
2016/9/22 9:34 by さくらんぼ

その他にも、この映画「オーバー・フェンス」には、「冷ややかな視線」に傷つきやすい、底辺で生活している人たちが多数登場します。

そして職業訓練校では大工講習が登場し、「家を建てるということは人生を作ることと同じ」と描かれています。みんなで協力しなくてはいけないのに、多分いるであろう不器用な者に対して、たいてい誰かが無意識にも「冷たい視線」を投げかける。すると人間関係が壊れ、家は建たなくなる。

その最たるものが「想い人」からの冷ややかな視線。

恋愛は片想いしているだけでも辛いのに、一世一代の勇気をもって告白したら、「一滴の思いやりもなく」断られた上に、皆にばらされて、以後「冷笑」もオマケにつくようになったとしたら…。

この映画「オーバー・フェンス」での「緑の光」は、そんな叶わぬ夢、「冷ややかな視線」の象徴であったのかもしれません。

追記Ⅱ ( メガネ屋の看板 ) 
2016/9/23 9:31 by さくらんぼ

映画「華麗なるギャツビー」では、寂れた町はずれに、「メガネ屋の大きな看板」が出てきます。

あの、丸メガネには不似合いな、居心地の悪い、「冷ややかな視線」とは何だったのか。

その意味が、映画「オーバー・フェンス」を観ると分かるような気がします。

追記Ⅲ ( 般若の面 ) 
2016/9/25 12:11 by さくらんぼ

( 書くのが遅いのですが、映画「華麗なるギャツビー」のネタばれですのでご注意ください。)

>その最たるものが「想い人」からの冷ややかな視線。
> 恋愛は片想いしているだけでも辛いのに、一世一代の勇気をもって告白したら、「一滴の思いやりもなく」断られた上に、皆にばらされて、以後「冷笑」もオマケにつくようになったとしたら…。

一般的はそうなると思うけれど、映画「華麗なるギャツビー」のストーリーの中で語れば、映画のラストでプールにいたギャツビーに銃口を向けた、嫉妬に狂った男の目。

その目は、ギャツビーがデイジーの夫に向けた内面と同じ。

つまり拳銃の男は紳士然としたギャツビーの中に潜む「般若の面(鬼)」を暴き出した存在だったのでしょう。

追記Ⅳ ( 「能」を舞う ) 
2016/9/25 14:15 by さくらんぼ

映画「オーバー・フェンス」の主人公・白岩(オダギリジョーさん)も、一見とても大人しい紳士ですが、居酒屋で女の子たちに激怒したことからも分かる通り、ギャツビー同様どこかに「角」(つの)を隠し持っているのです。その「角」のせいで離婚にもなったのでしょう。

その「角」を比較的強く感じさせた点では、2012年のレオナルド・ディカプリオさん主演版・映画「華麗なるギャツビー」が、ロバート・レッドフォードさん主演版より勝っていました。

又、ホステス・聡(蒼井優さん)の「動物の求愛踊り」。あれは表面的には彼女が動物園でバイトをしているせいでしょうが、深層的には「能」を舞っていたつもりかもしれないのです。一度、彼女のお店で、白岩をも引き込んで踊りましたね。あれは「二人で能を舞った」象徴的なシーンなのかも。

そして「般若の面」は普通は「女が嫉妬に狂った顔」らしいのですが、それはホステス・聡が、白岩が離婚しても指輪を離さないので、「何で離婚しても指輪してるの?、理由を話して、話してよぉ…」とヒステリックに迫るシーンで描いていました。あれが「鬼」の顔でしょう。


(  最後までお読みいただき、ありがとうございました。

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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