見出し画像

#ネタバレ 映画「ラブ・レター」

「ラブ・レター」
1998年作品
家族も戸籍も刻印である
2014/8/28 6:53 by さくらんぼ

( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )

若いころラブレターを書いたことがあります。口下手なものですから。でも、返事が来ても、意味不明なときがあるんですね。NOなのか、OKなのか、玉虫色の返事をくれる人もいて・・・・・

それはそうと、

これは浅田次郎さんの泣かせる小説を映画化したものです。なぜか、いつのまにか健さんが主演だとばかり思い込んでいましたが、どうも中井貴一さんだったようです。

偽装結婚の話でした。

そして主人公の男性は80万円で戸籍を売ります。

戸籍はご存じのとおり、すべての役所にある書類のうち、最も基本になるものです。そのご威光は、たとえば本人が自分の生年月日は平成元年2月1日だと申し立てても、もし戸籍に2日と記載されていれば、普通は戸籍通り2日が正しいとされてしまう事でも分かります(1日に戸籍を訂正するには、証拠となる出生証明書などを探して役所に相談してください。)

そんな重要書類ですから、誤記があった場合でも、普通は消しゴムなどで簡単に消すわけにはいかないんですね。偽装結婚した場合で、後に無効にされても、その経過の記載は残ると思います。

もしかしたら他の市区町村へ転籍届や分籍届をすれば新戸籍上は消えるかもしれませんが、家系図作成や、相続人調査などで、戸籍を出生時までさかのぼって請求すると、転・分籍届前の、経過の記載のある戸籍も出てきてしまい、大事な局面で、大事な人に、過去に不都合なことをした事が分かってしまう可能性があります。

消せない履歴、ある意味「戸籍とは刻印」なのです。

その戸籍は除籍になってからも80年間保存されます。なぜか前述の80万円と符号していますね。

思えば、東日本大震災で人々が意識した言葉に「絆」がありましたが、その原点は家族制度になるのでしょう。

古来、人が生きるためには絆の必要性があったから、自然発生的に人はバラバラではなく家族で暮らすようになった。そして家族は刻印の象徴となった。

それを公証する書類として、後に戸籍が生まれた。だから「戸籍の本質も刻印」なのでしょう。

人々の心の中にあるものが具現化されていくのは、他のものと同じです。

空を飛びたい願望が飛行機を生み、海に潜りたい願望が潜水艦を生み、家族の刻印を永代に記録したい願望が、厳格な戸籍制度を生んだのかもしれません。

映画「ラブ・レター」では、チンピラの吾郎は偽装結婚で戸籍に刻印します。やがて、それは戸籍だけでなく、吾郎の心にも刻印されることになりました。

相手である中国人女性の白蘭(ぱいらん)も、たとえ偽装結婚であっても、縁ある相手が心に刻印されてしまい、やがてラブレターを書くことになりました。

恋愛相手と結婚相手では、相手に対するメンタルの次元が異なります。恋愛は時に遊びですが、結婚相手は家族(刻印)になるべき運命の人だからです。

神仏に悪戯をするとバチが当たると言われるように、神聖なる!?戸籍にも戯れに触れてはなりません。

この映画の、本当の主題は、もう一度観ないと分かりません。でも、戯れに自由になると、こんな想いが浮かぶのでした。

きっと原作は良いのでしょうが、映画は今ひとつの完成度でした。せっかく良い原作と、良い役者をそろえたのに、残念ですね。

この映画は日本で、もう一度リメイクされても良いと思います。

私は基本的に片隅に光を当てたような物語が好きなのですが、これは輝く宝石になるまで磨きたい原石ですね。

★★★

追記 ( 80年間→150年間 ) 
2014/8/28 8:32 by さくらんぼ

>その戸籍は除籍になってからも80年間保存されます。なぜか前述の80万円と符号していますね。

この映画ができた時点では80年間でしたが、法改正により平成22年6月1日より150年間になったようです。

すごいですね。孫子と言う言葉がありますが、150年間保存と言うと、孫が高齢になる未来でも、お爺ちゃんお婆ちゃんの過去を明るみに出せてしまう可能性があります。

なにか役所の執念と言うか、役所にそうさせた集合的無意識の執念を畏怖しますね。

追記Ⅱ ( 戸籍の本質を想像する ) 
2014/8/29 6:43 by さくらんぼ

>古来、人が生きるためには絆の必要性があったから、自然発生的に人はバラバラではなく家族で暮らすようになった。そして家族は刻印の象徴となった。
>それを公証する書類として、後に戸籍が生まれた。だから「戸籍の本質も刻印」なのでしょう。
>人々の心の中にあるものが具現化されていくのは、他のものと同じです。

もちろん戸籍には、簡単に言えば「徴兵と徴税のための住民管理をしたくて役所が作った」という様な一般的な説が昔からあるのは承知しています。

でも私は、ここは、自由な発想を楽しむ映画レビューの場であり、それとは切り離して読んでいただきたいと思います。

今回のレビューで、私が話したのは、主に戸籍以前の話(古代からの人々が持つ「家族は刻印」とも言えそうな想念が、戸籍にも「厳格性・消せない履歴」という言葉で、今も生きている点)です。だから、いったん戸籍に記載した事項は、やがて家族の心にも刻まれることになると。これは、ある意味スピリチュアルな話でもあります。

それに対して、徴兵と徴税の説は、主に戸籍以後の話(戸籍の利用方法のことを)語っているとご理解ください。役所側の利便性のことです。


(  最後までお読みいただき、ありがとうございました。

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?