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#ネタバレ 映画 「夜霧よ今夜も有難う」

「夜霧よ今夜も有難う」
借りは返すもの
2012-07-23 21:13byさくらんぼ

( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )

ファースト・シーンから、いきなり裕次郎さんの歌「夜霧よ今夜も有難う」が流れてきて雰囲気満点でした。

そして、もう、ラストの話しですが「カギを返してくれないか」と刑事が現れます。これが映画の主題の様です。つまり、この映画は「借りは返すもの」という話しなのかもしれません。

裕次郎さんが演じる主人公の相良は、プロボーズした恋人の秋子に、ひと言の挨拶もなく逃げられたと思っていました。秋子に愛をもてあそばれ、ゴミの様に捨てられたと思っていたのです。理不尽だという気持ちは相当なものだったことでしょう。

この気持ちは分かるような気がします。たとえ捨てられるにせよ、理由をキチンと説明してくれて、そのことに一滴の誠意を感じられたなら(借りを返す)、耐え難く哀しくとも、理性の力で、きれいに別れてあげることも不可能ではないのです。

ところで、相良はなぜ横浜でナイトクラブ”スカーレット”を経営しながら”逃がし屋”をやっていたのか。

ナイトクラブの夜通しの華やかさは、失恋の哀しみを忘れさせてくれるものなのかもしれません。灯りのない夜は寂しいから。

さらに、もしかしたら、かつて、なりゆきで助けた一組の逃亡者から、最大級の謝意と喜びを告げられ、それが相良の心の奥底に溜まっていた秋子への、未練を消してゆく薬になったからかもしれません。

その薬には「どんな訳あり人でも、恩人に黙って去ったりはしない。秋子が黙って消えたのは、彼女がとんでもないヒトデナシだった証拠だ。あんな女は早く忘れた方が良い」と、無理にもそう思わせてくれる薬効があり、それで自分を慰めることが出来たのでしょう。

だから、ナイトクラブも逃がし屋も、失恋の傷の深さが、相良自身も意識せぬまま引き寄せた仕事だったのかもしれません。ある意味、癒やしの代替行為でした。

その傷心を、知ってか、知らずか、刑事は相良にはあまり手を出しませんでしたね。警察内部には常時「逃がし屋疑惑はまだ捜査中」とでも報告していたのでしょう。あとは、親友に寄り添うように(Stand by Me)、カウンターでぼんやり酒でも飲んでいる刑事さんでした。

この映画「夜霧よ今夜も有難う」が名作映画「カサブランカ」に似ていることは良く知られているようですが、本家を咀嚼してあるせいか”逃がし屋”をしていた理由が、かえって本家の映画「カサブランカ」よりも良く分かってしまうのでした。

ちなみに映画「カサブランカ」の主題は「心変わりは人の常」だと思います。オマージュにされた作品ですが、主題は違うのですね。リメイク、オマージュにはよくあることです。

この時代の日本映画の多くは2本立ての気楽な娯楽でありましたし、まだ国際映画祭へ出そうとか、世界へ売り込もうなどと、あまり”世界と張り合おう”などとは考えていなかったと思います。だから、観客も、それなりに肩の力を抜いて鑑賞するものだと思います。

でも、平成の世に観ると、懐かしい昭和の匂いが満載なのですね。そんな楽しみ方を発見できた一作でした。映画がカラーなのに宣伝用の写真がモノクロなのも時代を感じさせますね。

★★★



(  最後までお読みいただき、ありがとうございました。

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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