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#ネタバレ 映画「ヨコハマ物語」

「ヨコハマ物語」
2013年作品
過渡期にある人たちの幸福なマッチング
2016/5/1 7:36 by さくらんぼ

( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )

夫の仕事はサッカー場の芝生を守る職人「グリーンキーパー」でした。夫にとって家庭とはサッカー場だったのです。彼にはサッカー選手やその関係者という沢山の家族がいて幸せでした。

妻は家庭を守ってきました。でも夫の心はそこにはありませんでした。妻は結婚していても一人暮らしのように寂しかった。

やがて夫が定年を迎えた日に妻も病死します。夫はかつての妻のように寂しい一人暮らしになりました

でも、妻の本当の寂しさまで気づいたのでしょうか。それには、後に捨てようとしたサーフボードから妻の手紙が出てくるまでの時間がかかりました。

家庭とはサッカー場の芝生と同じ「プラットフォーム」なのです。家族という名の選手がいなければ耕し甲斐がありません。これはバンドにボーカルの欠員が出ているのとも同じ。

でも一人暮らしは本当に寂しいのでしょうか。

ネットのどこかで見た統計では、意外にも一人暮らしの老人の方が長生きしていて、その理由には「人間関係のストレスがなく、自由気ままに生きられるから」みたいな事がかかれていたと記憶しています。

だから「一人暮らしの中高年は若者とルームシェアをしなさい」と謳うこの映画が、完全に正解だとは限らないのかもしれません。

ただ、主人公・田辺のような会社人間は、定年と、妻を亡くした寂しさのダブルパンチを受けたら、一時は抜け殻のようになってしまうと考えられるわけです。そのショックでうつ病になる心配もあります。

そんな過渡期にある人の救済と、家のない若者(こちらも過渡期)のマッチングが、もしルームシェアという形で(ただし良好な人間関係を伴って)、実現可能なら素晴らしいことです。

もし私が主人公・田辺の立場なら、寂しく一人で暮らすより映画の様なにぎやかなルームシェアに少しあこがれます。しかし思いつかない中高年がほとんどでしょう。「民泊」が話題になっている昨今、こっちの方にも光を当てても良いのかもしれません。

★★★☆

追記 ( 七海が男っぽいのは ) 
2016/5/1 9:10 by さくらんぼ

アマチュアバンドのマネージャーをしている七海(北乃きいさん)は、チラシ写真を見ても分かる通り、脚を組んで男っぽいしぐさと言葉を発します。彼女は田辺(奥田瑛二さん)に相談せず、ルームシェア仲間を増やします。なんでも事後承諾です。

七海が男っぽいのは身勝手な夫の記号であり、田辺の方が家庭(プラットフォーム)を守りながら困惑する妻の記号でしょう。つまりリタイア前とは世界が逆転しているわけです。その他の人は子どもと孫の役目。つまりこれは三世帯同居住宅になっているようです。

追記Ⅱ ( 「文明開化」 ) 
2016/5/1 9:18 by さくらんぼ

「横浜」と言えば「文明開化」ですから、ファンタジー的とも言えるルームシェアの物語の舞台に相応しかったのでしょう。

でもファンタジーで終わらせたくない温かい物語でした。映画の願いもそこにあるはず。


(  最後までお読みいただき、ありがとうございました。

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)



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