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【連載小説】雨がくれた時間(連載中)

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『雨がくれた時間』を全部まとめたマガジンです。
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2020年6月の記事一覧

【連載小説】雨がくれた時間 13.かけがえのない時間

前回の話はこちら 第12章『告白』 始めの話はこちら 第1章『思わぬ雨』       13 かけがえのない時間 「すまない。驚かせて」  そう頭を下げる澤村の顔は、頬に浮かぶ静かな笑みとは裏腹に少し青ざめて見える。 「本当は墓場まで持ってくつもりだったんだがな……うっかり口が滑った」  覇気のないその笑い声が、無理に明るくふるまう澤村の胸中をそのまま表しているようだった。 「墓場だなんて……なに言ってるんだろうな、俺は」  なにげなく“墓場”という言葉を口にしたことに気

【連載小説】雨がくれた時間 12.告白

前回の話はこちら 第11章『晴れていく迷い』 始めの話はこちら 第1章『思わぬ雨』         12 告白  並んで虹を見上げる私と澤村の間を、涼やかな風がふわりと通り抜けていく。さっきまでの湿り気をおびた潮風とはまるで違う、さらりとした、とても爽やかな風だった。 「どうした?」  誰かに呼ばれた気がしてあたりを見渡していると、澤村が不思議そうにこちらを見ながらそう聞いた。 「今、名前を呼ばれた気がしたんだけど……あなた……じゃないわよね?」 「いいや。風の音じゃ

【連載小説】雨がくれた時間 11.晴れていく迷い

前回の話はこちら 第10章『意外な素顔』 始めの話はこちら 第1章『思わぬ雨』       11 晴れていく迷い 「気は済んだか?」  ようやく笑いがおさまり息を整えている私へ、澤村がそう問いかける。 「うん。済んだ」  自分でも驚くほど弾んだ声はいつもよりかなり高くなっていたが、彼は気にした様子もなく「なら、いい」と静かに言った。ついさっきまで、すねた子供のように膨らませていた頬には、いつもの柔らかい笑みが戻っている。 「見ろよ」  彼はいきなりそう言って、すっかり雨雲