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メディアとネットによる過剰なバッシング、叩いて壊した結果なにか残るのか

 自民党を直撃した派閥パーティー券収入のキックバック問題は、岸田文雄総理の岸田派解散という決断により、二階派・安倍派を巻き込んでの「派閥消滅」という事態になりました。後知恵的には、岸田総理としては、「この手しかなかった」ということではありますが、1月18日の総理の電撃的な宣言が流れを作り、論点が裏金問題・個々人の不正そのものから、派閥解体という大きな話にずれたというか、拡大したというか、いずれにせよ、より大きな問題に変化させたことは、凄い発言・決断だったと思います。

 実際に、各種調査でも、政権支持率は、下げ止まっていたり、むしろ少し上昇していたりと、国民からも、この「英断」は一定の評価をされているように見えます。かくいう私も、この決断は凄いことだし、かくなる上は、派閥は解消した上で、派閥が担っていた資金配分や人材の育成や管理(派閥推薦など)の機能は、自民党全体の方に返上して、むしろ党のガバナンスを透明化し、しっかりして行くことしかないとは思います。

 とはいえ、正直に言えば、この事態に私は、一国民として当惑しています。

「安倍派解散」は中国を喜ばせた?

 パーティー券収入を政治家にキックバックして裏金化させるという不正は絶対に正さなければなりませんが、「派閥解散」という決断が今後の日本の政治にどのような影響を及ぼすのか、まだ見通せないからです。よりはっきり言えば、今後の党全体のガバナンス改革などがうまくいかなければ、日本の政治が大きく流動化し、特に対外関係などにおいて国益を大きく損ねる事態にもなりかねないと危惧しています。

 自民党内の派閥には功の部分と罪の部分があったと思います。罪の部分で言えば、お金や人事を取りまとめる中で、そのプロセスにおいて不透明なお金が飛び交ったりすることがありました。私見ではあと、派閥の親分が、総理総裁を選ぶ権利(議員の一票一票)をとりまとめ、それを「今回に岸田に賭ける」など、いわば、所属議員の意志とは別に、親分の意志でゆがめてしまっていたところが大きな問題だったように思います。

 せっかく、選挙民の付託をうけて自民党の国会議員となり、日本国の総理を事実上選ぶ一票(=自民党総裁を選ぶ一票)を行使できるのに、それを自分の意志とは別に派閥の親分に委ねてしまっていたのです。特に、自派閥の親分を総理にすべく当該派閥に参加するならともかく、具体的に言えば、二階派や麻生派などの構成員は、二階さんや麻生さんが今後総理になる可能性がほぼゼロである中、その貴重な権利を親分に委ねてしまっていたことになります。これは実は由々しき問題だと思います。

 一方で、派閥の功の部分で言えば、政策集団として、その派閥のカラーを反映した提言や行動で、政治の世界を活性化させてきました。宏池会といえばリベラル路線とか、清和会はタカ派が多い、などが最近は典型で、そうしたカラーを反映した政策提言や行動を団結してとることで日本の政治を動かしてきました。良くも悪くも自民党の「派閥」は、そうした政策志向性の近い人が集まって集団で力を行使する日本の政治の一種のプラットフォームだったと言えます。そのプラットフォームが崩れようとしています。

 そして、この日本の状況を中国はニヤニヤしながら眺めているのではないでしょうか。安倍派は他界した安倍元総理を筆頭に、対中国強硬派が数多く集う派閥として知られていました。その安倍派が、キックバック問題で世間やメディアから叩かれ、ついには解散すると決断するところまで追い詰められてしまいました。この結果、中国に対して強くものを申せる政治集団はなくなってしまうかもしれません。中国としては、願ってもない状況が生まれるかもしれないのです。

「叩きすぎ」て壊れてしまうもの

 今回の「派閥解散」は、冒頭に述べたとおりですが、自身の出身派閥についても不正が摘発されることとなった中、岸田総理が起死回生を狙って打った策と言えそうですが、背景にはやはり世の中からの政治資金絡みの不正に対する強い批判があったからであることは論を俟(ま)ちません。「不正を正す」という、反論できない強力な鉄槌に対して有効な反対ができない中、結果として、大事なプラットフォームを壊さざるを得ず、却って国益を損ねることにもなりかねないことを危惧しています。

 同様に、ここ最近、さまざまな「不正」が発覚し、メディアやネットが騒然とする事態が続いています。

 主な例を挙げれば、ダイハツの認証不正問題やまたぞろ発覚した豊田自動織機の不正問題(トヨタグループ)、そして、旧ジャニーズ事務所の性加害問題(性加害は犯罪で、事務所が故ジャニー喜多川氏の性加害行為を隠蔽したのは不正)、同じくダウンタウンの松本人志さんの問題(性加害を受けたという女性の証言が週刊誌で報じられていますが、現時点では真偽不明)などです。宝塚、ビッグモーター、SOMPOホールディングス…とその他にも多々ありました。

 それぞれの不正や犯罪はもちろん正さなければなりません。ただ、事態が発覚して、ダイハツやさらにはその親会社であるトヨタ、そして旧ジャニーズ事務所や松本人志さんなどがメディアやネットからメッタ打ちになっている状況を見ているうちに、私はある不安にとらわれました。それは「相手を叩くだけ叩いて、ターゲットを再起不能にした後はどうなってしまうのか。それは国際的に見て日本の大きな損失になるのではないか」ということです。

過剰な批判で日本の「食い扶持」まで壊していないか

 もう少し説明しましょう。

 認証不正を長年続けていたダイハツとその親会社のトヨタが大きな批判を浴びていますが、両社が支える日本の自動車産業は、世界的に見て日本の「食い扶持」でもあります。過去には電機産業や半導体産業、金融なども日本を支える重要な産業でしたが、現在では日本企業が大きく世界で存在感を発揮できているのは自動車産業くらいになってしまいました。

 言うなれば、自動車産業はわれわれ日本人の食い扶持を稼いでくれる重要な産業です。

 しかし、その日本にとっての“最重要産業”も外国企業の猛追を受けています。昨年は中国の自動車輸出台数が日本の輸出台数を抜き、世界一になりました。中国の自動車産業は日本よりもEV(電気自動車)シフトが進んでおり、東南アジアなどにも猛烈な勢いで浸透しています。日本の自動車メーカーはこれから、そうした中国企業と激しくしのぎを削り合わなければなりません。

 日本国内の自動車に課せられている安全・環境、消費燃料などに関する基準はおそらく世界最高峰レベルにあると思います。そしてダイハツの車をこれまでに買った人の中には、認証試験をごまかしていた車種を買った人も少なくないと思われますが、そこで特に大きな問題が起こったという事例も表立っては聞こえてきていません。

 もちろん認証試験での不正は消費者を裏切る行為ですが、ダイハツの車の安全性が十分でなかったかどうかはまた別の問題です。

 しかし、「不正があった」ということで、メディアでもネットの書き込みでも、とにかく「叩きに叩きまくる」傾向が非常に目につきます。自業自得ではあるのですが、この問題の処理に追われるダイハツとトヨタは、これから先、中国勢とのEVなどの戦いに力を注いでいかなければならないのですが、力の一部が削がれるような事態になりかねません。そうなるとこれは、もはやダイハツやトヨタといった個別企業の損失ではなく、日本全体の損失になってしまうのです。

 旧ジャニーズ事務所の問題でも、もちろんジャニー喜多川さんによる性加害行為はけしからんことなのですが、メディアやネットが叩きに叩いてどうなったか。旧ジャニーズ事務所所属のタレントの起用を控えるテレビ局が続出し、昨年末のNHKの紅白歌合戦でも、ついに旧ジャニーズ事務所所属のアーティストは一人も出演しないという事態になりました。

 かわりに韓流アーティストが6組も出場したと言われています。ジャニー喜多川氏の性加害問題を皆で叩きに叩きまくった結果、旧ジャニーズ事務所のタレントが割を食ったばかりでなく、日本のエンタメ業界において、日本のプラットフォーマーが崩壊し、韓流アーティストの存在感をひときわ高めさせるという結果を生んだわけです。

 現在は日本人アイドルの中にも、韓国資本の芸能事務所に所属する人が増えています。もしかすると、近い将来、日本のエンタメ業界で主導権を握るのは韓国資本の芸能事務所になるかもしれません。表に出るのはアイドル個人個人なので、一見日本人が活躍しているように見えても、多額の資金は、そのアイドルを「プロデュース」しているプラットフォーマーに入ります。次代にどう食い扶持を残すか、日本人のお金がどこに流れるようにしておくか、という観点に立った時、考えなければならない課題です。

ネットを中心としたバッシングが大衆の「娯楽化」

 週刊誌やネットメディアは、「雑誌が売れる」「ページビューが伸びる」と思うネタにはいっせいに飛びつきます。報じることによって、世に知られていない不正やスキャンダルを暴き、事態を少しでも改善させるという働きもありますが、度が過ぎれば、これまで機能してきた仕組み(プラットフォーム)を壊してしまい、資金の流れが外国に向かうことになり、結果として日本人が損をする(割をくう)こともありえます。

 ヤフコメやX(旧ツイッター)には、週刊誌やネットメディアの報道を受けて、多くの人がそのテーマについて持論を述べたりしています。自由な言論空間ですから虚偽や誹謗中傷でなければ何を書いてもいいわけですが、ルサンチマンのはけ口的なコメントもしばしば見かけます。そのうえ最近はネットのコメントをメディアが拾い上げて報道し、その報道を受けてまたネットが反応し……という連鎖が繰り返されがちです。

 こうして、一度ターゲットにされた対象は、メディアやネットにとことん叩かれることになります。こうなると、最初の「隠された不正を明るみにして正す」という目的から離れ、ただただ追加の“燃料”が投入されるのを待ちながら、対象を叩くことが目的と化してしまいます。より厳しく言うのなら、誰かを叩いて留飲を下げることが「娯楽化」しているのです。

 その結果、これまでわれわれの社会基盤を支えていた、政治や産業、エンターテインメントの“プラットフォーム”を破壊してしまうことになってしまうのです。それは、果たして多くの日本人が望んでいる状況なのでしょうか。この点、良い事ではないですが、権威主義国家では、そうした動きを政府などが強制的に「止める」ことができます。結果として、中国やロシアの大企業などは温存されることとなり、エネルギー企業などを中心に、世界で存在感を放つことになります。

批判される対象はかつてほど強くなく、批判する側はかつてないほど強くなった

 不正は正さなくてはなりません。これは大前提です。しかし、叩くことが目的となってしまうと、メディアもネットも「安倍派を壊す」とか「ダイハツとトヨタを徹底追及しないといかん」とか「ジャニーズ事務所を潰す」という方向に振れがちです。

 しかし、もしも安倍派が消滅し(実際、安倍派は解散することになりました)、ダイハツやトヨタが事態収拾のために認証不正への対応に多大なエネルギーを割かざるを得ない状況に追い込まれ、旧ジャニーズ事務所が解体的出直しを迫られ(実際にそれに近い形になったと思います)たとしたら、そして、それが外国勢の喜ぶところとなれば(日本の国益が損なわれることになれば)政治や産業、芸能界の仕組みはこれからどうなるのでしょうか。誰もその青写真も、改善プランもないまま、ただただ叩いて壊して、後は野となれ山となれ、では、一番困るのは我々日本人です。

 逆に言えば、外国から見れば、日本は一人で勝手に転んでいくライバルであり、自分たちが美味しい市場をしゃぶりつくすための場所をわざわざ空けておいてくれる有難い存在です。

 日本はこれから人口も経済力も縮小していくのは避けられません。昨年はGDPで、人口が約2/3で低成長にあえぐドイツに抜かれ、ついに世界4位に転落しました。しかし持てる力をフルに発揮し、自分たちの食い扶持を確保するため、諸外国と経済力で勝負していかなければなりません。日本が緩やかに縮小しながらも豊かな国であり続けられるのか、それとも急速に衰退していくのか、いまはその分岐点となる極めて大事な時期です。

 日本が成長軌道にあるときであれば、メディアが権威を批判だけしても、批判された側はその批判を受け入れ、修正していく力がありました。しかし、いまはそうではありません。現代のメディアによる批判は、ネット空間が“拡声器”の役割を果たすときなどはとくに、とてつもなく大きな力を発揮します。叩かれた側が、なにか抗弁しようとして会見を開こうものなら、メディアとネットが鵜の目鷹の目でさらに叩くための材料を探してきます。いったんメディアとネットのターゲットにされたら、そう簡単に「叩き」を止めてはくれません。

 このように、自分たちの力を弱体化させ、外国につけ入る隙を与えるようなメディアやネットの“暴走”は決して、私たち国民一人一人にとってあまり好ましいものではありません。かつての成長軌道に乗っていた時代とは状況が変わっているのです。不正を正す、批判して事態をよりよく改善するという意図があるのであれば、せめて既存のプラットフォームが壊れてしまった後の善後策も併せて考えていかないと、私たちが不幸になります。報道に携わる人たちの姿勢も、国としての在り方も、改めて見直す時期に来ているのかもしれません。

2019年5月末から青山社中で働く広報担当のnote。青山社中は「世界に誇れ、世界で戦える日本(日本活性化)」を目指す会社として、リーダー育成、政策支援、地域活性化、グローバル展開など様々な活動を行っています。このnoteでは新人の広報担当者目線で様々な発信をしていきます。