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内閣改造でも支持率がパッとしない岸田内閣に贈る現状打破のための処方箋 ~「女性閣僚5人起用」も有権者には刺さらず、ではこれから何をすべきなのか~

支持率低迷を打破するための内閣改造

 9月13日、岸田首相が内閣改造を実施しました。

 官房長官(松野博一氏)、財務相(鈴木俊一氏)、経産相(西村康稔氏)、国交相(斉藤鉄夫氏)、デジタル担当相(河野太郎氏)、経済安全保障担当相(高市早苗氏)といった主要ポストは留任でしたが、外相に上川陽子氏、復興担当相に土屋品子氏、こども政策・少子化担当相に加藤鮎子氏、地方創生担当相に自見英子氏と、経済安全保障担当相に留任の高市氏を含め、女性を5名起用したところが目新しいと言えば目新しいところです。

 党の人事になりますが、選挙対策委員長に小渕優子氏を抜擢したのも話題になりました。ただ、閣僚人事の後に発表された副大臣や政務官への女性の起用がゼロに終わるなど、竜頭蛇尾な印象もあります。

 内閣改造に踏み切った大きな理由は、最近の支持率の低迷でした。5月のG7広島サミット直後には支持率も好調だったので、そこで衆議院解散・総選挙ともっていけたなら、政権基盤も固められる可能性大でしたが、すぐに解散ができない状況に追い込まれました。

 私は主に2つの理由があると見ていますが、原因のひとつは首相の長男が昨年暮れに公邸を私的利用した際の不適切な写真の存在が報じられたことでした。これが支持率に影響しました。もう一つは、衆議院の区割り変更に伴う候補者調整で自民党と公明党が対立、東京での選挙協力を解消する事態に発展したことでした。これらが意外に大きくボディブローとして効いてしまい、岸田さんは絶好の解散チャンスを逃してしまったのです。

 そこに加えて、さらに2つの問題が降りかかってきてしまい解散は大きく遠のいたと感じています。マイナンバーカードを巡る相次ぐトラブルと、「週刊文春」が報じた木原誠二官房副長官の家族のスキャンダルです。木原さんの家族に関する報道は、木原さんサイドが明確に否定していますが、インパクトが大きく、その後の報道もまだ続いている状況です。

 こうした中、ますます解散の手を打つことが出来ず、岸田内閣はずるずると支持率を下げていったのです。

 岸田内閣は、外相を長く務めた総理自身が得意とする外交ではそれなりの成果を出してきました。G7広島サミット以降も、NATO首脳会議に出席したり中東を歴訪したり、さらにはキャンプデービッドでの日米韓首脳会談、インドネシアでのASEAN関連首脳会合など、積極的な外交活動を展開してきました。しかしその努力は、支持率にはほとんど反映されませんでした。

 こうなると支持率引き上げのために残る手段は内閣改造しかなかったわけです。改造で支持率が上がれば、その勢いをもって解散・総選挙という狙いがあるに違いありません。

 内閣改造が取り沙汰されるようになってから、私はあるポイントに注目していました。それは官房副長官の木原さんの処遇です。

「扇の要」だった木原誠二官房副長官

 木原さんは、実は岸田内閣の扇の要のような役割を果たしてきました。政策にも精通し、政局面でも野党ににらみが利く。岸田総理にとって、いざとなったら喧嘩もできる優秀なブレーンでした。

 松野官房長官は安倍派の出身ですから、岸田総理としては自分の派閥出身の木原さんを非常に頼りにしていたと思われます。ほかにも岸田派には優秀な議員がいますが、木原さんの代わりになれるかと言うと、「帯に短しタスキに長し」で、しっくりする人が見当たらないのです。

 私としてはここが内閣改造の最大の焦点だと見ていました。

 では結局、木原さんの処遇はどうなったか。やはり官房副長官ポストは退任でしたが、自民党の幹事長代理と政調会長特別補佐を兼任するそうです。岸田総理としては、どうしても木原さんのサポートを必要としているのでしょう。政府を離れ、党のほうで党務と政策両面でサポートしてもらう道を見つけ出したのでした。

 木原さんの後任となる政務担当の官房副長官(衆議院)には、やはり岸田派の村井英樹さんが起用されました。43歳、当選4回の若手の有望株です。木原さんと同じような働きをするのはまだ難しいと思いますが、同じ財務省出身で、木原さんが採用に携わった際に入省した方とも言われています。党のほうに控えている木原さんのサポートがありますから、岸田総理を支えるブレーンの陣容はかえって強化されたと見てもよいかもしれません。

支持率アップに結び付かなかった内閣改造

 では、内閣改造で岸田政権の支持率はどう変わったか。共同通信の調査では支持率は前回調査より6.2ポイント上がって39.8%、不支持率は10.3ポイント減って39.7%へと改善しています。

 しかし、日経新聞・テレビ東京の調査では、支持率は横ばいの42%、不支持は1ポイント増の51%。読売新聞・NNNの調査では、支持率は横ばいの35%、不支持率も横ばいの50%と極めて厳しい数字が出ています。

 ざっくりいえば、内閣改造による支持率のテコ入れをしようという目論見は、空振りに終わったと言えるでしょう。こうなると、「内閣改造で支持率アップ、その勢いで解散・総選挙へ」というプランを実行に移すのも難しそうです。

 一方、政局全体を見渡せば、いま自民党にとってもっとも気になるのは、日本維新の会の躍進ではないでしょうか。いま岸田首相が解散を打てば、総選挙で大きく議席を伸ばすのは維新だと見られています。ひょっとすると、大々的な維新ブームが起きる可能性も否定できません。

 実はこの7月、私が主宰する青山社中で、日本維新の会代表の馬場伸幸さんを招いて、フォーラムを開きました。そこで聞いた、維新の戦略、自らの位置づけに対する認識などには、かなり鋭いところがありました。

 フォーラムで私は馬場さんに、少し意地悪な質問をしてみました。

「維新は伸びているし力も付いてきているけれど、国民からみると『またか感』がある。というのも、ここ30年くらいの日本の政治を振り返れば、90年代には日本新党ブームで、非自民の連立内閣による政権交代があった。2000年代には、『自民党をぶっ壊す』といった小泉ブームがあった。2009年には民主党による政権交代があった。つまり、ほぼ10年ごとに政界を揺るがすブームがあったが、改革を標榜する側が政権をとったものの、結局それで政治がよくなったということもなかった。そしてその後は、都民ファーストの会から希望の党の流れや、維新のブームがあったが、政権を取るまでには至っていない。『またか』と思っている国民もきっと多いと思う。維新のブームは、過去のブームと何が違うのか」

地域を重視する維新の戦略

 これに馬場さんは特にかつての民主党と比較しながら、次のように説明してくれました。

 民主党は国政しか見ていなかった。どうやって政権を取るか、とそればかりに夢中になっていた。だからいざ政権を取ってみると、すぐダメになった。維新はその失敗を見て学んだことがある。一つは地域に根差していこうということ。まずは大阪の首長を取り、身を切る改革をし、万博を招致したりもした。そのほかにも奈良県知事、舞鶴市長などのポストを取った。

 今年4月の統一地方選では首長と議員で600議席(非改選を含む)を目標として戦ったが、774議席を獲得した。このように政権交代当時の民主党とは違い、維新は地方・地域を重視している。

 民主党の失敗から学んだもう一つの点は、焦らずじっくり行くということ。民主党のように慌てて政権を取りにいくのではなく、まずは「野党第一党」を目指す――。

 馬場さんの説明を聞いて、「第二自民党」と自称もしている維新は、自民党と自らによる保守二大政党制を目指しているのだと確信しました。だから立憲民主党を「日本に必要ない」とか「つぶさなきゃアカン」と突き放したり、共産党を「無くなったらいい政党」と批判したりしているのも、まずは野党第一党を目指し、国民から政権を任せても大丈夫という安心感を持たれる「第二自民党」を目指すという、極めて戦略的な発想に基づく発言なのだと思います。

自民党よりも「保守政党」本来の特色を備えた維新

 馬場さん自身、もともとは自民党の中山太郎元外相の秘書を務めていた人ですが、同様に、維新には元自民党議員など、保守的志向を持った人が数多く参集しています。逆に「保守政党」とされる自民党は、より多くの有権者の支持を集めるため、革新的志向を持つ有権者の要望にも応える政策を打ち出してきた結果、純粋な保守というより、ある意味で大きな政府を志向するかなり左の方までウイングを広げた政党になってきています。

 そう考えると、むしろ維新の方が、本来の保守政党としての性格がハッキリして、身を切る改革で、小さな政府を目指すということで、有権者にもアピールしやすくなってきています。これが最近の維新の伸びの背景にあるのだろうと思います。

 実は青山社中からも、維新から立候補する人材が複数出てきています。既に国会議員になっている東京12区の阿部司さんをはじめ、次の総選挙では、青山社中の塾生からさらに3人が維新から立候補する予定です。この1~2カ月で波状的に決まりました。三菱商事を退職して政治家を志した吉平としたか君(東京3区)や、医系技官として厚労省で働いていた共に医師の阿部圭史君(兵庫2区)、石川雅俊君(東京4区)など、優秀な人材ばかりです。このように有能な人材がいま維新に集まりつつあります。

 このように維新がますます勢いを増している中、この10月からは法人や個人事業主を対象にしたインボイス制度が開始されます。事業者が消費税の納付を正確にするための制度ですが、個人事業主などからは不満が高まりそうです。そんなことも背景に、支持率が伸びない岸田政権には、解散の大義名分も備わっておらず、ますます解散がしにくくなってきそうです。

 ただ、遅くとも衆議院議員の任期が来る2年後までには選挙をしなければなりません。できれば、支持率低迷でダッチロール化するようなことなく、ある程度の支持率を維持したまま総選挙に入ってもらいたいと思います。私が特に岸田政権を応援しているから、という理由ではありません。安定した政権運営はひいては国民のためになるからです。

 では、そうなるためには、岸田総理はこれからどうしたらいいのでしょうか。

岸田総理はマネジメントに徹せよ

 もっとも真っ当なアプローチは、岸田総理が本当にやりたいこと――例えば小泉総理の時の「郵政民営化」のように――を打ち出して、日本をよくするためにこれが必要なんだと国民に訴え、支持を得ていくというものです。

 ところが残念ながら、岸田総理がやりたいこととして、いまさら「『新しい資本主義』で分配を重視します」と言われても国民ももうピンとこないでしょう。あるいは「少子化対策をちゃんとやりたいんだ」と言っても、「異次元の少子化対策」と言いながら、異次元感のない対策しか出てこなかった“前科”がありますので、これもちょっと難しい。

「地方分権をやりたいんだ」、「憲法改正だ」など、岸田総理としての新しいタマを打ち出す手もありますが、国民もバカではありません。心の底からやりたくて叫んでいるのか、とりあえず声高に主張しているのかくらいは分かります。岸田さんがライフワーク的に主張し続けているのは、広島が地盤であることに基づく核軍縮施策くらいで、その他は、いかにも取ってつけた感があります。それで支持率が上がるとも思えません。

 ここは別のアプローチが必要です。私は、岸田さんは思い切って一歩引き、マネージャーに徹するべきだと思います。

 かつて佐藤栄作総理が長期政権を維持しましたが、彼は「人事の佐藤」と言われるほど、人材起用に定評がありました。本人が強烈に何かやりたいというより、実力者たちや若手に責任ある仕事を任せ、思う存分やらせたのです。

 岸田総理も、少子化対策、スタートアップ育成など、それぞれ熱意や経験を持っている若手や実力者を抜擢したり登用したりして、責任あるポジションに就けて逃げられない状況をつくり、任せればいいのです。田中角栄氏のセリフとされていますが、「最後の責任は俺が取る。だから、好きなようにやれ」というスタイルです。これは、岸田総理お得意の「聞く力」の見せどころでもありますから、とってつけた感じもありません。

 支持率が低迷する中で、維新の伸長などで追い込まれて総選挙に突入するのか、あるいはここから若手を起用して大きな仕事をし、国民の支持を取り戻すのか。内閣改造をしたばかりではありますが、岸田政権はいま大きな岐路に立たされていると言えるでしょう。

2019年5月末から青山社中で働く広報担当のnote。青山社中は「世界に誇れ、世界で戦える日本(日本活性化)」を目指す会社として、リーダー育成、政策支援、地域活性化、グローバル展開など様々な活動を行っています。このnoteでは新人の広報担当者目線で様々な発信をしていきます。