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「裏金事件でほとほと愛想が尽きた」と国民に思われている今がむしろチャンス、自民党改革のための3つの処方箋

せっかく「派閥解消」で支持率低迷を脱しかけたのに

 自民党が裏金問題で大揺れです。世論調査を見ても、派閥から裏金を受け取っていた議員に対する風当たりは相当強いのに、自浄作用の働きが見えてこないところに、国民は不信感を募らせています。

 ついに総理も登場する形で、国会で政治倫理審査会(政倫審)が開かれましたが、国民が納得するような説明はなかったように思われます。おりしも確定申告の時期と重なってしまったこともあり、脱税なのではないかと、国民の不満は高まっているようにも思います。

 せっかく、低迷していた支持率を、派閥解消の流れを主導したということで、年明けから下げ止め・回復させた岸田総理としても、早くもその効果が失われてしまっています。2月の各種支持率調査からもその傾向は明らかです。今回、乾坤一擲、自らが政倫審に出るという奇策で予算成立には目途をつけましたが、おそらく支持率を回復させるほどの効果はないと思われます。

 自民党にしてみればこれはかなりのピンチです。4月の国政補欠選挙の見通しも良くありません。良くて1勝2敗、下手すると3敗の可能性も取りざたされています。

この「大ピンチ」も対応次第では大チャンス

 ただ、よく「ピンチはチャンス」という格言めいた言葉がありますが、実は今回のピンチも、やりようによっては、自民党にとっては大きな“チャンス”になり得ると私は思っています。

 というのも、大きな問題が起こった時ほど、大きな改革がしやすくなるからです。自民党の若手議員などは、もっと、今こそチャンスとばかりに、「自民党大改革」などを唱えて、具体案などを出して行くべきでしょう。ちょっと大人しすぎるようにも思います。

 今回の「裏金問題」の発端は安倍派や二階派の政治資金パーティーで集めたお金の一部が裏金化していたことによる政治資金の不適切な管理・活用の実態が明るみにでたことでした。総理の出身母体であり、直前まで派閥会長をしていた岸田派も安倍派・二階派ほどではないにせよ、すねに傷を負う立場であり、大ピンチでした。

 ところが岸田総理の「岸田派解散」の決断を契機に、次々と派閥解散の動きが党内に起こり、先述のとおり、いったんは、政権支持率も下げ止まり、むしろ回復したかに見えました。(しかし、これまた先述のとおりですが、その効果も一時的なものとなりましたが)

 要するに裏金問題への対応をきっかけに、岸田総理は長年課題になっていた「派閥政治解消」の方向に事態をシフトさせ、政権を支える麻生氏や茂木氏との関係はギクシャクさせたとはいえ、政党の改革という意味では、一時は、一部の成功を収めたのです。このように、もともと政治・政党の改革を考えていた人にとっては、今回のピンチは願ってもないチャンスになっているのです。

9・11という国家的危機をバネにアメリカが“成し遂げた”こと

 よくない事例ですが、ピンチの時ほどそれまで不可能と思われていたことを成し遂げた例として、2003年のイラク戦争を思い返してみてください。

 かつてアメリカにとってイラクのフセイン大統領は、のどの奥にずっと刺さっている魚の骨みたいな存在で、どうにも不都合な人物でした。そんなとき2001年に9・11の同時多発テロが起きました。このテロの直接的な首謀者はオサマ・ビンラディンが率いるイスラム原理主義テロ組織「アルカイーダ」で、その後ろ盾となっていたのがアフガニスタンのタリバン政権でした。

 アメリカはアフガニスタン紛争でタリバン政権を打倒しますが、アメリカの国防に関わる人々にとって、それだけでは十分ではありませんでした。アメリカにとっての不安定要因としてイラクのフセイン大統領がいるからです。

 そこで9・11というアメリカの国家的危機に際して高まった、西側諸国を中心とする国際社会やアメリカ国内の「反イスラム原理主義」「テロ撲滅」の世論に巧みに乗って、「大規模テロを引き起こす大量破壊兵器は危険だ。その大量破壊兵器をフセインは持っている、その証拠もある、テロを引き起こす恐れがあるじゃないか」ということでイラク戦争を起こし、フセイン政権を潰し、フセイン本人も処刑してしまいました。

 そして後に、イラクが大量破壊兵器を持っていたという事実はなかったことが明らかになりました。

 現在の中東の混乱を見れば、これがアメリカにとって良かったのかどうか評価は分かれるところですが、その当時のアメリカの保守派にとっては、「フセイン排除」やそれに伴う各種利権の獲得はどうしても成し遂げたいことでした。それを9・11後の国内外の世論の波に乗じて、国家的ピンチはある意味でチャンスとばかりに、達成してしまったと言えるわけです。

 翻って、日本において自民党の改革を成し遂げたいとずっと考えている人にとってみれば、この裏金問題は、思い切って党改革を断行できる、願ってもないチャンスとも言えるわけです。実際、改革ダマの一つとして、繰り返しになりますが、一年前には誰も想像もしていなかった「派閥の解体」が進んでいます。今回のことを奇貨として派閥中心の自民党の在り方が変わってしまいつつあるのですが、元々改革しようと願っていた人にとっては天恵とも言うべき機会となりました。

議員の評価基準、当選回数最優先でいいのか

 では、自民党の現状に不満を持ち、なんとか改革したいと思っていた人は、どういうことを意識すべきなのでしょうか。私は3つのポイントが必要だと考えています。

 1つは、自民党はもっと近代的なガバナンスを備えた組織になるべきだということです。これはずっと自民党の課題とされてきましたが、これまで改革できなかった側面です。

 近代的な組織、近代的な政党というのは、ひと言で言うと、人事やお金の管理を中央が一括してコントロールするということです。

 具体的に言えば、党の中にどういう議員がいて、その議員はどういう能力を持っていて、どういうポテンシャルがあって、どういう仕事が向いているのかを、総裁あるいは党本部のスタッフがしっかり把握したうえで、「この議員は次は財務政務官をやったほうがいい」とか、「次は党の政務調査会に入って汗をかいた方がいい」といった管理をするということです。これが自民党は、党そのものの機能としては、いままでできていませんでした。

 ではそうした人事面の管理は党内で誰がしていたのかと言えば、派閥でした。総裁や党本部は、各派閥から「この議員は当選○回なので、そろそろどこかの大臣に」というように推薦されてきた議員を起用することが、非常に多くありました。一般企業では考えられない人材マネジメントの在り方です。

 しかも派閥は、主には、その議員の能力とか実績に基づいてではなく、主に当選回数の考慮を大前提として推薦してくるのです。これではとても近代的組織とは言えません。

お金の管理も「派閥主導」

 こうした人の管理以上に大事なのがお金の管理です。

 これも今回の裏金事件で明らかになりましたが、自民党ではお金の管理においても派閥が、ある意味で党本部以上に主導権を握っていたようです。

 党本部には国から政党助成金が支給されますが、そこから派閥に政策活動費などの名目でドンとお金が配られています。一方で派閥は、政治資金パーティーを開き独自にお金を集めています。派閥の所属議員はパーティー券の販売ノルマを課せられますが、ノルマを超えた分については派閥からキックバックされていました。

 こうしたお金の管理や分配方式というのは、普通の会社組織ではありえません。きっちりした予算が決められているわけでもなく、使ったお金の使途もはっきりしないものがかなりあります。こうした派閥による資金再配分機能がなくなった後はどうなるのか。

 本当に公明正大に現下の制度できっちりやるのであれば、今の自民党の体系では、おそらく、総裁も1年生議員も、同じように議員歳費や文書交通費などの関係諸手当の支給を受けるということで、金銭面では差が出ないようにも思います。いわば、会社で言えば、社長も平社員も給料が同じなわけです。それもそれで、何かおかしな感じもします。

 政治にまつわるお金をどう調達し、どう分配し、組織や構成員個人としてどう使っていくのか。これを党として戦略的に設計し、状況を把握し、国民に対してクリア説明していくということが近代的政党の必須条件になります。

政策立案を担うシンクタンク機能が弱すぎる

 2つめに大事なポイントが、シンクタンク機能です。当たり前ですが、政党というのは政策を実現しようとする人たちの集団です。であるならば、党には政策を検討して策定して発信するシンクタンク機能が必要です。しかしそれまではこの機能が脆弱でした。

 もちろん自民党には政務調査会、そしてその下に部会があって、そこで政策を考える仕組みは機能していました。しかし、そこでは主に霞が関から出てくる法案その他を審議するという受け身的な機能が中心で、中長期的な視点に立ち、世界情勢や世界各国の事例をリサーチしたりしながら政策をくみ上げていくという機能は、ゼロではありませんが、けっして強くありませんでした。もちろん、特別に調査会や議連などをつくって政策を動かす向きもありますが、さほど盛んとは言えません。そういう政治家たちを支えるスタッフ機能は貧弱です。

 もっとも自民党も「シンクタンク機能を持った方がいい」という意識は持っていたこともあり、2005年ごろ、当時の重鎮だった中川秀直氏ら、いわゆる上げ潮派の人々が主導して「シンクタンク2005・日本」を、立ち上げたこともありました。しかし定着することなく、消滅してしまいました。また自民党政治を批判する形で誕生し、政権までとった民主党も、かつて党内に「公共政策フラットフォーム(通称:プラトン)」というシンクタンクを持っていました。もしかしたら、立憲民主党などに、今もそうしたものがあるのかもしれませんが、有名無実化していると思います。

 アメリカには外部のシンクタンクの政策を採用したり、民間企業のロビイストたちの売り込みを採用したりする「政策マーケット」とも言うべき、いわば市場がありますが、日本はまだその市場の勃興期で、ほぼ存在しないも同然です。私が立ち上げた青山社中もシンクタンク機能をもつ組織ですが、正直まだ貧弱な存在であり、そもそも日本にはまだまだシンクタンク系の組織が数えるほどしかありませんので、政策マーケット自体が存在しないようなものです。

 そして、こうした外部のシンクタンクの力を借りるよりも、特に政権交代があまり起こらない日本では、本来は自民党のような政党がシンクタンク機能を持つべきです。例えば、東大を出て官僚になるか、自民党のシンクタンクに就職して政策作りやその実現を図るか、悩むような状況が現出しないといけないと感じます。

 そこで、これは第一の点、すなわち自民党全体のガバナンスのあり方とも深く関わりますが、ぜひ自民党に取り組んでほしいのは、優秀な人材のリクルーティングです。議員だけじゃなく、例えば学者の卵や元官僚、新卒の優秀な学生などを採用し、政策を考えたり作ったりするスタッフとして活用してほしいのです。

 可能性としては、そのスタッフが将来、議員になるケースも出てくるかも知れませんが、基本的には議員として採用するのではなく、自民党の政策を作るスタッフとして頑張ってもらうのです。すでに十分な実績を持っている人ならば、高額な報酬を約束し、ヘッドハンティングしてくるくらいでいいのではないでしょうか。

政策秘書も党が採用するべき

 同じ流れで言えば、秘書や政策担当秘書についても党主導で採用すべきです。実は国会議員は秘書で苦労をしている人が少なくありません。そして秘書の才能や技量で議員のパフォーマンスはずいぶん変わってきます。実際、政策担当秘書がしっかりしている議員は国会での質問もしっかりしているものです。質問内容の討議や使用するパネルの準備状況などで、議員のパフォーマンスは大きく左右されます。

 現在、政策担当秘書の具体的な採用・任用は、実質的には議員個人(各議員事務所)に委ねられていることが多いようですが、それがうまくいかない人などについては、自民党として秘書や政策担当秘書を採用し、各議員に割り振る方がよいでしょう。そうすることで秘書や政策担当秘書のクオリティを担保できるだけでなく、個々の議員の採用などマネジメントにかかる時間がかなり低減され、より政策立案などの本質業務に励めるはずです。

 こういうリクルーティングを自民党が積極的に行えば、繰り返しになりますが、これまで「日本を政策でよくしたい」と考え、霞が関の官僚になっていたような優秀な学生が、将来は自民党に就職し、政策を作るスタッフになっていくというルートができるかも知れません。募集の広報や、採用時のアトラクト(惹きつけ)なども民間企業並みに頑張れば、もちろん、新卒だけでなく、経験者採用も広がって行きます。むしろ、経験者採用が鍵になるかと思われます。

 このようなシンクタンク機能の強化や、リクルーティングの強化が無ければ、自民党の再生もおぼつかなくなるのではないでしょうか。

個性ある議員の存在が政治にダイナミズムを吹き込む

 3つめのポイントは、ちょっと先回りした話になりますが、議員の個性の重視ということです。というのも、最初に説明した近代的政党、近代的組織としてのガバナンスが進めば進むほど、また、2番目に説明したシンクタンク機能やリクルーティング機能が充実すればするほど、所属する議員の個性は埋没しやすくなる傾向があるからです。

 例えば、共産党や公明党は、自民党に比べてかなり近代的な組織になっています。リクルーティングはもちろん、人事、お金を党が一括して管理して運営するスタイルです。自民党で起こっている裏金問題のようなトラブルは、共産党や公明党ではほとんど聞きませんし、例えば私が所属していた東大からも、一定数が毎年、共産党や公明党の勧誘で、それらの組織にリクルートされて入っています(後者の場合は創価学会の本部への就職なども含めて)。

 さらに、政策集団として政策スタッフも充実していますし、調査能力も高いものがあります。私は官僚時代から、共産党や公明党の議員の質問は相当練られていると実感していました。これは組織の力の賜物です。

 しかしその一方で、共産党や公明党の議員それぞれに“個性”を感じるか、と問われると頷けない部分があります。もちろん個性的な議員がいないわけじゃないのですが、党のサラリーマン的な印象の議員の方が多数です。

 政策を考えたり実現したりするうえで、それはそれで面白みがありません。自民党ではこれまで政治家同士が互いに鎬を削り合うことで、政治のダイナミズムを生み出してきました。その源である議員それぞれの個性を削ぎ落すような方向に過度に進むべきではありません。

 近代政党化していきながら、同時に個としてしっかり意見を主張でき、研鑽を積めるような人材育成の仕組みも考えていかないといけないのです。

国民は心底呆れ、本気で怒っている

 アナロジーとして、大きな商店街を思い浮かべてください。

 大規模な街になると、通りや筋ごとに商店街組合が複数に分かれて存在いることが多いです(最近は統廃合も進んでいますが、少なくともかつては)。大きな政党の中に、派閥が複数あるのに似ています。そして、商店街組合同士の競争意識もあり、切磋琢磨の中で、街全体に賑わいが出ます。

 ただ、時代の流れの中で、商店街の各店舗が経営の近代化を過度に進めようとすると、コンビニや外食チェーンなどの傘下に入るお店も出てくることもあるでしょう。上の政党の例だと、近代的ガバナンスを備えた政党になっていくことに似ています。

 しかし、コンビニやファミレス、チェーンのラーメン店やメガネ屋、チェーン店のアパレルショップばかりになってしまうと、どこかスマートすぎて、商店街としてのダイナミズムが感じられません。個性が際立った個人商店にこそ人は面白みやシンパシーを感じる部分もあるのです。いま人気の商店街というのは、経営の近代化を図りながらも、お店それぞれが個性を発揮できているところです。

 政党にも同じことが言えます。近代化を進めながら、個がしっかり育つ人材育成の仕組みを作り上げる。そこを疎かにすべきではありません。

 裏金問題をきっかけに、国民は自民党のいい加減さに呆れ、怒っています。しかしだからこそ、自民党を抜本的に改革するのは、このタイミングを除いてないとも言えます。

 自民党の心ある人たちには、上で述べた3つのポイントを踏まえて、国民から信頼され、よりよい未来を作っていける政党に変えていってほしいと強く願います。もっと若手から具体的な提言やその実現のための動きが出ても良いように思いますが、どうでしょうか。私が知らないだけで、マグマのようにそうした動きが党内に実はあるのだと良いのですが。

2019年5月末から青山社中で働く広報担当のnote。青山社中は「世界に誇れ、世界で戦える日本(日本活性化)」を目指す会社として、リーダー育成、政策支援、地域活性化、グローバル展開など様々な活動を行っています。このnoteでは新人の広報担当者目線で様々な発信をしていきます。