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0515 「ぺろぺろごっくん」と呼ぶことにした。

「強制給餌」という、何度口にしても、ものすごく苦しい行為を始めて3日目。

猫のターミナルケアを描いたコミックでは、愛猫にそうしてごはんをたべさせるとき、「宇宙食を食べよう」と言うことにしたというエピソードがあった。

わたしは「ぺろぺろごっくん」と呼ぶようになった。

ごはん食べよっか。
のかわりに、
ぺろぺろごっくんしよっか。

そう猫に声をかけている。

今朝ほどはまったく猫は姿を現さず、好きな「籠もり場」のひとつにいたようなのだが、11時頃になって、ようやくふらふらとリビングに姿を見せた。

そこからは、迷っている暇はない。
ささっとシャーを左手で抱き上げて(軽々と持ち上がるのが辛い)かかえたまま台所に行き、右手で用意していた栄養食を詰めたシリンジを冷蔵庫から出して、お手ふきや布類をシリンジとセットにしたものをソファの横に置く。
空いた右手でブランケットで広げて、左手で抱いていた猫をそのブランケットでくるりと包んでちょっと落ち着かせる。
シャーは何がなんだかよくわからないけど、お気に入りのブランケットにくるまれているので、暴れたりはしない。

そのまま、在宅の夫に身体をブランケットごと落ち着かせておいてもらうのを頼んで、わたしは、シリンジの先からフードが出るのを確認して、ぺろぺろごっくんさせる。

少しずつ、舐めて、のみこむのを確認しつつ、10ミリのシリンジをぜんぶ食べてくれるのに初回は5分くらいかかった。

もしかして、時間がかかりすぎているかもしれない。シリンジの先を少しカットして、出る量を増やす。増えすぎてもごっくんできずに誤嚥するのも怖い。
このあたりは正直なところ、まだまだこれがベストという方法にたどり着いていないし、わたしの技術が低いように思う。
最後の方は猫がもう嫌だという仕草を見せるからだ。

ぺろぺろごっくんさせたあとは、思い切り謝る。ごめんね。嫌やんね。えらいね。耳の後ろや顔の周りを優しく掻いてあげると、最初は怒っていたシャーも喉をごろごろを鳴らしてくれる。

ほっとする。

というのを、日に3度ほど繰り返していたが、今日、ネットで調べていたら、3度では必要カロリーや栄養量には全然足りてないようだ…。

まぢか…。

2時間おきに一日8回ぺろぺろごっくんさせているという投稿も見た。その方は自宅での点滴も毎日2度しているようだった。

ま、ま、まぢか……。

「強制給餌」と同時に「自宅点滴」も選択肢のひとつに上がる。
まだわたしはそれについて考えることができない。
ぺろぺろごっくんだけでも心が削られるような気持ちもある。

でも、おそらくシャーは「待ったなし」の状態だろう。

実は、今日の午前中に獣医師の先生に電話をして、一昨日から「強制給餌」を始めたこと。おトイレの回数が減って、水もあまり飲まなくなったことを伝えた。

「脱水症状を起こしているかもしれない。とにかく診てみないと何も確かなことがわからない」

そう告げられたのだけれど、どうしてもシャーを病院に連れて行きたくなくて、午後診までの保留にさせてもらったのだ。

病院に連れていくことで、彼女の命を削る気がしてならないから。

ありがたいことに、昼下がりに、よろよろと出てきたシャーがトイレですこし排泄をしていた。

急いで病院に電話して、そのことを告げて、今日はひとまず様子をみさせてほしいとお願いした。
お願いしたもなにも、先生が決めるのではなく、わたしが決めるべきことなのだが……。

そして午後いっぱい、まったくまたシャーは籠もり場に引きこもり、姿を見せない。一度だけ、グラスに入れた水を口に近づけたら、少しぺろぺろと舐めた。

シリンジ10ミリとごく少量の水…。
これはまずいと、先ほど本日2度目のぺろぺろごっくんを、籠もり場のその場で行った。
安心して寝られる場所を奪ったようで辛かったけれど、命にはかえられないという鬼のような思いで。

シャーに生きていて欲しくて、わたしはどんどんと鬼になっている。
それでいいのか。
ほんとうにわからない。
わからないことしかないよ。

また2時間後にはぺろぺろごっくんさせるつもりだ。それでも、ぎりぎりの食事量に足りないんだから。

どうなんだろう。
そのことばかり考えてしまう。

シャーは最近、鬼のようなわたしを受け入れて、いつもゆるしてくれている。喉をごろごろ鳴らして、顔を指にすりつけながら。

かしこい。

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