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最強の変化球とはなにか ~Rapsodo Pitchingを添えて~

著:原島(監督) 編:梅村(部長)

皆様こんにちは。

 最近友人の結婚式が続く監督です。友人の結婚式はほぼ群馬で開かれているのですが(監督は群馬出身)、三重県から群馬県まで車で7時間ぐらいかかるので中々参加できないんですよね…。招待してくれる友人に祝福の気持ちと罪悪感を抱えながら、noteを打ち続ける今日この頃です。

では今回もよろしくお願いいたします。
 

1.最強の変化球とは何か


 今回はタイトルの通り、最強の変化球とは何か探してみようという話です。
 

 一度、MLBの変化球のトレンドを見てみましょう。

  以下は過去10年間のMLBにおける変化球の変遷になります(Fangraphsよりスクリーンショット)

Fangraphsより

 英語なので少しわかりにくいですが、フォーシーム(いわゆるストレート)が年々減少し、逆に年々スライダー(SL)が増加している傾向がありそうです。また、2010年代後半に一時増加していたカーブ系は近年少し減少傾向にあるようですね。
 

 さて、改めて最強の変化球とは何か…話になるのですが、普遍的な最強の変化球は無いというか、そんなもんあったらとっくにみんな投げてるぞという話になります。

 そのため、最強の定義の考え方を変えてみましょう。次章から2つの視点に焦点を当てての最強の変化球を考えてみたいと思います。
 

2.まずは自分のことを知りましょう

例えば次の画像をご覧ください。
 

画像は以前の使い回しです。

こんなA君が変化球を覚えたいと言ってきました。
①    「横に大きく曲がるスイーパーを投げたい!」
②    「縦に大きく曲がる(12-6)カーブを投げたい!」
さあ、A君に適した変化球はどちらでしょうか?

 当然②ですね。縦の変化量が大きい(回転効率が高い)フォーシームを投げる選手は、横に大きく曲がる変化球が不得手な傾向にあることが知られています。そのため、横ではなく縦の変化を覚えた方がいい(よりよい変化をしやすい)とされています。

雑記:ストレートをフォーシームやツーシームと分類されるようになってきた昨今なので、ストレート(直球)と言っていいものか…。
 

 ということで、自分にとっての最強の変化球を覚えるために、まずは自分のことを知っておきましょうという話になります。

 そのために必要なのは、RapsodoTRACKMANを始めとする計測機器です。ミズノのMA-Q(野球ボール回転解析システム)でも良いでしょう。MA-QはRapsodoやTRACKMANに比べると測定できる項目は少ないですが、29,800円と安価ですのでチームで少しずつお金を出し合えば購入できるかもしれません。

個人的には以下の項目が計測できれば良いかと考えています。

・球速
・回転数
・回転軸
・回転効率
(・縦/横の変化量)※あれば良い

 まずはストレートから投げて自分の球質を調べてみましょう。

  1.  球速と回転数の関係を見て、平均と比較した自分の球質を知る

  2. 回転軸と回転効率を見て、自分の球質はどの方向にどれほど曲がりやすいのかを理解する

  3. 自分の球質を理解したら、それに適した変化球を考えていく 

 自分の球質が理解出来たらBaseball SavantFanGraphsに潜って、自分と似たような球質の投手を探して参考にしてもいいでしょう。もちろんMLBの選手は球速や回転数が自分とは段違いだとは思いますが、回転軸や回転方向は参考にできると思います。回転数も球速との関連を調べると何となく個性が見えてくるのではないでしょうか。例えば、藤浪晋太郎投手(BAL)は球速の割に回転数が低いことで話題にもなりました(下図)。

Baseball Savantより

 MLBの投手は、自分の球質やそれに対して効果的に働く変化球を持っていることが多いため、一から闇雲に探すよりも効率的でしょう。あくまで最後は自分の感覚を重視しなければなりませんが、道しるべとして参考にする価値は間違いなくあります。

 ここで自分の感覚以外にもう一つ気をつけなければならないのが、技術力の差です。例えば前述のA選手ですが、縦スラ(回転効率を落として下方向に変化させる球種)を覚えさせようとなると、フォーシームに影響が出てくることがあります。回転効率を上げたり下げたりすることは、それなりの感覚調整が求められるので、まずは自分のストレートに影響が出にくいような球種から始めてみるのが吉でしょう。 

 余談ですが、ここでさらに自分がリリース時に回内/回外のどちらをしているかを知っておくと持ち球の目安を立てやすいと思います。もちろんまだ研究が始まったばかりの分野なので難しい所ではありますが、知識の一端として知っておくとよいでしょう。
 

3.結局投手と打者はイタチごっこ


 ここで最強の変化球について、別の角度から考えてみます。


 焦点になるのは、「流行りの打ち方」です。今や過去の遺産となりましたが、フライボール革命という打撃理論が少し昔に流行りました。この対抗策として、高めに強く投げ込む球種が注目され、インハイにストレートを投げ込むという攻め方が一つの策として取られています。

 雑記:この対抗策はフライボール革命だけでなく、投手の球速アップや分析機器の発展によって発見されたという要素も含まれます。

(部長より)また、近年は高めのストレートがある程度対策されつつあるという報道もありました。依然として有効な傾向はあるものの、これまでほどではないようです。

  そして高めのストレートと大きく落ちるカーブという組み合わせが攻略された結果、この1、2年で新たにクローズアップされた変化球が「スイーパー」と呼ばれる横方向に大きく曲がるスライダーです。どうスイングをしようが外に大きく逃げてしまえばバットに当たる訳がないという意味では、ある意味究極の解決策と言えるのかもしれません。

 ただ、そのスイーパーも当然万能ではありません。大きく曲がる変化球は当然制球がしにくく、しかも(右投手であれば)左打者には効果的ではないこともわかってきました。最近のニュースなどを見ていると、左右両方に対抗できるボールとして次のトレンドになるのはもしかしてスプリットやフォークなのかもしれないと言われています。

 このように、打撃や投球の流行というのは、その時代の流行に対応策として発生することが多いです。「低め投げよう→フライボールや!→高めのライジングやで→レベルスイングでどこでも対応したらあ!」というようにイタチごっこを繰り返して流行りはできていくので、一つのコンテンツが永久不滅ということはあり得なさそうです。

 したがって、最強の変化球は「その時代の流行に適合した球種」と考えるのも一つかもしれません。

※余談ですが、今放映されている「葬送のフリーレン」というアニメに、これと似たような話がありました。ネタバレになるので詳しくは触れませんが、最強の魔法は必ず総力を挙げて研究され、対策が発見されるという話です。

雑記:そう考えると、一昔前の日本の野球は中々矛盾していたことが分かります。投手は低めに投げることを大正義としていたのに対して、打者は「上から叩け」という打ち方をしてきました。せっかく低めを目指して投げているのに、なぜ上から叩くような打ち方を奨励していたのでしょうか。そりゃ打ち取られるって。

 結局最強の変化球ってなんやねんという突っ込みを入れられそうですが、最強は人によって、時代によって変わっていくものという結論になりそうです。ここまで引っ張っておいてそれは逃げではないのか?

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