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マイルスの「マラソン・セッション」を聴く


マイルス・デイヴィス - トランペット
ジョン・コルトレーン - テナー・サックス
レッド・ガーランド - ピアノ
ポール・チェンバース - ベース
フィリー・ジョー・ジョーンズ - ドラム

マイルスの「マラソン・セッション」とは、マイルスが1955年契約上の不満から弱小のプレステージ・レーベルから大手コロンビアに移籍するにあたって、1956年終わりまでにLP4枚分の契約が残っていた。プレステージ側がそれじゃあ、二日間で4枚分のアルバムを録るというので行われたレコーディングのことです。そのすべてが一発録りだった伝説のセッションだったわけです。

"COOKIN'"

マイルスは「結局俺たちがやったことは、(スタジオに)やって来て(曲を)料理(COOKIN')しただけだからな。」がアルバム・タイトルの由来です。"COOKIN'"という曲はありません。「キューピー3分間クッキングのテーマ」曲を期待してもダメです(あったら面白いですね)。

一曲目の"My Funny Valetine"はマイルスのミュート・トランペットとレッド・ガーランドのリリカルなピアノで名演になっています。あとベースのポール・チェンバースの存在感がありますね。コルトレーンはスローバラードには必要ないですね。マイルスとリズムセッションだけで十分というより完璧な演奏になってます。

それでもマラソン・セッションの聞き所はやはりコルトレーンなのです。すでにマイルスは完成されたミュージシャンで例えばスローバラードはどの曲を聴いてもマイルスのミュート・トランペットで「卵の殻の上を歩く」ようなと形容されたものでそう変化はありません。でも、コルトレーンはこの時期変化が著しいのです。まあ、はっきり言えば最初は下手なのですが、このマラソン・セッションでの成長著しいテナーマンとして頭角を表してきたと言われているのですね。

そのもっともいい例が三曲目の"Airegin"。コルトレーンのライバルにソニー・ロリンズという同じテナーマンのサックス奏者がいますが、彼の演奏した"Airegin"は同じマイルスと共演しても対等な関係で吹いてます。ロリンズのオリジナル曲ということもあるのですが、実に朗々と歌い上げています。これがマラソン・セッションの二年前の演奏です。マイルスは本当はロリンズを呼びたかったそうなのですが、ロリンズは忙しかったのかコルトレーンに代役が回ってきたのです。

あと特筆すべきは、ルディ・ヴァン・ゲルダーが2006年にリマスターが施されているというだけあって、ポール・チェンバースのベースとフィリー・ジョー・ジョーンズのドラムが粒立ってます。ガーランドとマイルスのリリカルな演奏を際立たせているのはこのリズムセッションなんですね。

"Workin'"

一曲目"It Never Entered My Mind"はまたコルトレーンが抜けたカルテットですね。どうも1956年5月11日と1956年10月26日のセッションで5月の方は、マイルスのカルテット中心で曲順もわかっているそうで、参考になります。でも"My Funny Valentine"が最後なのに、コルトレーン抜きですね。

1956/5/11
・In Your Own Sweet Way / Workin'
・Diane / Steamin'
・Trane's Blues / Workin'
・Something I Dreamed Last Night / Steamin'
・It Could Happen To You / Relaxin'
・Ahmad's Blues / Workin'
・Surry With The Fringe On Top / Steamin'
・It Never Entered My Mind / Workin'
・When I Fall In Love / Steamin'
・Salt Peanuts / Steamin'
・Four / Workin'
・The Theme(Take1) / Workin'
・The Theme(Take2) / Workin'


1956/10/26
・If I Were A Bell / Relaxin'
・Well,You Needn't / Steamin'
・Round Midnight / Miles Davis and the Modern Jazz Giants
・Half Nelson / Workin'
・You're My Everything / Relaxin'
・I Could Write A Book / Relaxin'
・Oleo / Relaxin'
・Airegin / Cookin'
・Tune Up / Cookin'
・When Lights Are Low / Cookin'
・Blues By Five / Cookin'
・My Funny Valentine / Cookin'

一曲目の"It Never Entered My Mind"のマイルスの名演だけでアルバムが成り立ってしまう、"COOKIN'"と似てるアルバムです。"The Theme"が2曲入っていたり"Trane's Blues"もやっつけ仕事みたいで全体的に大味な感じがします。次の"Relaxin' "と比べるとダメ曲を集めた感じです。逆ですね"Relaxin' "がいい曲を選んでしまったので、残り物のような感じなのかな。

"Relaxin' "


マラソン・セッションのアルバムの中で、このアルバムだけマイルスの声が入ってます。「さあ、やるぞ!」的なことを言っているみたいなんですが、マイルスの声がしゃがれ声のマフィアのボスみたいで、聴く方はリラックス出来ないアルバムになっています。それでも4枚の中ではコルトレーンも比較的良くって(マイルスの声のせい?)、一箇所先走りで音を出してしまうところあったりして面白いアルバムになってます。

「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」のような超有名曲はないですが、一曲目の"If I Were A Bell"から最後の"Woody 'n' You"まで捨て曲がないぐらいにいいです。このアルバムが一番コルトレーンがいいように感じてしまうのはそういう曲を選んだからかも知れません。"Oleo"もロリンズの曲ですけど"COOKIN'"の"Airegin"と比べるとだいぶましなような気がします。コルトレーンにあえてロリンズの曲をやらせたのは、マイルスはロリンズとも共演していたので、何か意味があるような気がします。

"Steamin'"

このアルバムも一曲目の"Surry With The Fringe On Top"のマイルスのミュート・トランペットが聞き所の曲です。こういうリリカルな曲をやらせるとマイルス以上のミュージシャンはいないですね。チェット・ベイカーが白人らしさを醸し出すジャズですけど、マイルスには黒人の持つ力強さもあります。

マイルスのアルバムだから、マイルスの際立った曲を一曲目に持ってくるのは当然でここでのコルトレーンはお飾りにしか過ぎない?まさに、タイトル曲の名前が意味深ですよね。カルテットは、馬車の本来の役割で、付け足しのコルトレーンなのかな、と考えてしまいます。

二曲目の"Salt Peanuts"はディジーの超有名曲で数々のジャズマンの演奏が残っている曲ですね。アップテンポでビバップの基本みたいな曲で、コルトレーンの力が試されいます。まあアップテンポだとコルトレーンも乗りやすいのかと。

マイルスはマラソン・セッションですでに完成されたスタイルを身に着けています。コルトレーンは発展途上で曲によってばらつきがある。特にスローバラードの歌心を試される歌曲だとボロが出やすい(だから外してしまうこともある)。三曲目の"Something I Dreamed Last Night"はカルテットだけの演奏になっている。

コルトレーンは一本調子にゴリゴリ吹くだけなんで、アップテンポの曲だと周りのジャズ・ミュージシャンがカバーできるのですね。彼らの推進力で引っ張っていける。そのいい例が"Salt Peanuts"のような気がします。そして、この曲はビバップの超有名曲でコルトレーンをテストするにはピッタリな感じです。

マラソン・セッションがコルトレーンが成長したというより不得手な曲と得意な曲があり、それが出てしまったという感じです。二日間でそう上手くはならないだろうと素人目でも思います。ただ得意な曲はコルトレーンらしさが出たに過ぎないと思います。

コルトレーンが間を学ぶのは、セロニアス・モンクと共演してからだと言われています。言えることは二人の偉大な師匠に学んだ恵まれた環境がコルトレーンを育んで行ったのだと思います。



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