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人生も映画も夢のような

『VORTEX ヴォルテックス』(2021年製作/148分/PG12/フランス)監督:ギャスパー・ノエ 出演:ダリオ・アルジェント、フランソワーズ・ルブラン、アレックス・ルッツ

老夫婦の死に様を描いた ギャスパー・ノエの新境地にして、最高傑作!
映画評論家である夫と元精神科医で認知症を患う妻。離れて暮らす息子は2人を心配しながらも、家を訪れ金を無心する。心臓に持病を抱える夫は、日に日に重くなる妻の認知症に悩まされ、やがて、日常生活に支障をきたすようになる。そして、ふたりに人生最期の時が近づいていた…。

予告編を見たときはアキ・カウリスマキのような人生の悲哀を描いたブラック・コメディだと思ったが、老夫婦の老いを正面から描いていくリアリズム映画だった。画面を半分にして口うるさそうな夫とボケてしまった妻をそれぞれ追いかけていく。その映像が面白かった。息子は薬の売人であり、これまた精神病院に入っていたことがあるという駄目人間なのだが、今は子供もいて老夫婦を面倒を見るまでになっていた。

痴呆症は切実な問題であり、夫の方も心臓病で健康に不安がある老夫婦が二人だけで暮らしていくのは不可能だと思える。最初にフランソワ・アルディの薔薇は萎れていくみたいなシャンソンがながれてきて、その歌詞通りに人はあっという間に若さを失って老いていくという希望もない映画なのだ。かえってその絶望感は、死によって救われる感じになるのは、キリスト教的な映画だからなのだ。老婆がガス自殺を計りながら聖書の言葉を唱えるという死が救いというような映画だった。

夫は映画評論家なのか映画の夢という本を書いているのだが、まさに映画の幻夢性と現実性がテーマとしてあると思う。フランソワ・アルディの歌がまさに夢心地に響いてくるのだった。

ボケ婆さん演じたフランソワーズ・ルブランの演技がリアリティありすぎだった。水洗トイレになんでも流して最後詰まってしまうリアリティとか見たくないものを見せる。


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