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『俳句 2024年3月号』を読む。

  『俳句 2024年3月号』

◆大特集 類想、自己句模倣に陥らない作法
[総論]本井英
[各論]高橋健文・小島健・西池冬扇・中西夕紀・森田純一郎・西村我尼吾・田口風子・藤田直子・大石雄鬼・和田桃・中本句真人

◆特集 昭和の俳句
[インタビュー]川名大・黒岩徳将
[座談会]高野ムツオ・西村和子・野崎海芋・西村麒麟
[一句鑑賞]谷村行海・網倉朔太郎・斎藤よひら・小山玄紀・野名紅里・若林哲哉・中矢温・佐々木啄実

◆特別企画 全国結社マップ
vol.6 中国・四国・九州・沖縄

◆日本の俳人100
しなだしん句集『魚の栖』む森』

◆第12回星野立子賞発表!
◆第20回鬼貫青春俳句大賞

■巻頭作品50 池田澄子
■作品21 山口昭男・山西雅子

■グラビア
今月の季語
日本の鳥たち
結社歳時記
写真帖

■作品
[16句]辻桃子・稲畑廣太郎・野中亮介
[8句] 伊藤良瓔子・鈴木太郎・柴田鏡子・森野稔・古賀雪江・落合水尾
[12句] 蟇目雨・松野苑子・五十嵐秀彦・中田剛・中村与謝男・竹岡一郎・今瀬一博・榮 猿丸
[クローズアップ(7)] 飯野幸雄・渡井恵子・山田六甲・亀割潔・吉田林檎・西川火尖・家藤正人
[俳人スポットライト]山下幸典・田嶋紅白・夏目たかし

■ 好評連載
○山本健吉の歳月……井上泰至
○妄想俳画……田島ハル
○昭和の遠景……須藤功
○俳句水脈・血脈……角谷昌子
○俳句中の虫……奥本大三郎
○現代俳句時評……岡田由季
○漢字四季折々……笹原宏之
○蛇笏賞の歴史……坂口昌弘
○「俳句」と「日常」……堀切実
○合評鼎談……横澤放川・辻村麻乃・井抜諒一

■読者投稿令和
俳壇[題詠]
令和俳壇[雑詠]

巻頭作品50 池田澄子

『俳句 2024年3月号』「池田澄子50句」から。「昭和俳句」でも50句競作という新しい試みがあった。それは俳句を定形だけの文芸ではなく、芸術作品であるような文学を目指したものではないのか?池田澄子「春は花」は、春の句50句なのだろうか?

山川草木そしてわたくし去年今年

口語俳句だが自然詠の虚子を意識した本歌取りは伝統回帰なのか?

雨は霙に新種のウイルスに変種

霙が冬の季語の社会詠俳句か。

龍の玉むかしのことは覚えている

連句の力か?桜は当たり前のように詠まれるが。

花よ花よと老若男女歳をとる  池田澄子

随分と生きてやっぱり春は花 池田澄子
桜さくら嫌な昔もありまして
しらじらと明け切々と花筏
百回寝たら此処は桜が咲き満ちる

最後の句は一年が過ぎてまた桜を咲くのを待ち願う気持ちの句だった。この方法がいいのかな。日記のように俳句を詠む連句という技だった。

年とるとしょっちゅさびしい花大根

吟行がてら毎日の散歩は欠かさずにという感じか。見習わなければ。

自我没我漢字平仮名春日遅々

これは漢字だけの俳句だった。

俳句の省略

西村麒麟選「省略の効いた名句50句」より。論理はわかりにくいので実践的に省略の効いた名句50句を読んでいく。


山寺の仁王たじろぐ吹雪かな 幸田露伴

吹雪が季語に詠嘆のかなは切れ字。山寺の仁王たじろぐような吹雪の意味で直喩かな。山寺の仁王と吹雪を対になっていて「たじろぐ」で繋いでいると見ればいいのか?僧ではなく仁王を詠んだことがポイントだという。

山寺の坊主たじろぐ吹雪かな だめ句

省略は俗っぽさを排除せよということなのかもしれない。

山上憶良を鹿の顔に見き 後藤夜半

意味のわからない句だが、山上憶良が鹿顔でそれを見たという俳句だという。句跨りなのだが、鹿顔とまとめたほうがわかりやすいかな。「懐かしい」が省略されているのだそうだ。「山上憶良鹿顔懐かしき」でいいんじゃね。ぶつ切りに感じるのなら「山上憶良の鹿顔懐かしき」で字余りだが、「やまのうえの」が字余りだし、「の」のリフレインは音韻的にいい。伸び切った顔も鹿顔のようだし。

福笑い大いなる手に抑えられ 阿倍野青畝

福笑いの情景の句。何が省略されているのだろうか?それがわからん。笑いか?「福笑い大いなる手に笑い抑えられ」とかの意味なのかな。笑いが重なるから、カットしたのか?

特集 昭和の俳句

川名大『昭和史俳句』のインタビューが掲載されていたが、俳人協会と現代俳句協会の分裂は角川に責任の一端があるのだが、この本が角川から出ていたのか?ちょっと、盲点だった。それで「昭和俳句」のベストのような企画があったのだが、新興俳句があまり出てこないな。渡邉白泉は出しにくいとして、富澤赤黄男とか高柳重信とかがないのは痛い。そのへんは俳人が意識したとか?角川の枠があるとか?自己検閲という奴か?俳人協会の人が多いとか?いろいろ勘ぐってしまう。それだと川名大の主張通りになってしまうのだが。「前衛俳句~昭和の終焉」というサブタイトルがあった。

ただこの本はシリーズ化されていて、以後は伝統俳句系になる模様。

咲き満ちてこぼるゝ花もなかりけり  高浜虚子

桜の満開を言っているのだが、もっと代わりの言葉があるような気がする。こぼるゝは梅のほうがいいのじゃないのか?下句は否定の詠嘆。「も」という助詞。「も」~否定形はなんかあったな。自己を投影しているから「も」なのか?いまが絶頂だと。

桃食うて煙草を喫うて一人旅 星野立子

ただごと俳句のような気がするけど自由が一番という俳句なのだそうだ。オヤジの前ではそうは出来ないのかな?

耳塚の前ひろゞゝと師走かな  川端茅舎

よくわからん。耳塚というのは戦国時代とか負けた武士の耳とか切り取ったものを弔ったものだが、師走の風が冷たく寂しい様子をひろびろという言葉で描いているという。言葉が足りなくてよくわからんよな。

兜虫黒き光を放ち歩む 京極杞陽

兜虫の威風堂々とした姿を端的に表現しているという。

忘れ羽子少し汚れて美しや 上野泰 

これもわかりにくい句だった。正月の羽子板が汚れているけど美しいということのようだ。だから何?だよな。そうか汚れが美しいのではなく思い出が美しいということだった。言葉足らずだよな。それに羽子は板ではなくて羽根のほうだぞ。省略し過ぎだよな。

わが机妻が占めをり土筆むく  冨安風生

これはいい句かな。ただごと俳句に近いけど、妻の強さが出ている。夫婦の関係が良好なんて言っている。違うだろう。妻に文句を言いたいのだろう。

板買うて釘が足らぬや小屋の秋  永田青嵐

これもそれがどうしたのただこと俳句だよな。関東大震災時の東京市長の句だそうだ。足らないのは言葉も足らなかった。

小鼓の稽古すませし端居かな 松本たかし

端居は端っこに座っていること。季語がないようだが「稽古」か。「稽古始め」で新年。

スケートや右に左に影投げて  鈴木花蓑

これはわかりやすくて面白い。

洛中のいづこにゐても祇園囃子  山口誓子

橋本多佳子に似たような祇園囃子の句があった。

ゆくもまたかへるも祇園囃子の中  橋本多佳子

両方とも響き渡る(聞こえる)という言葉が省略されて、映画の一コマのような場面なのが共通しているのか?

蟷螂の斧をしづかにしづかに振る 山口青邨

「しづかにしづかに」の動作が無音の小さき者を表しているとか。単にリフレインの巧妙ではないのか?

あたゝかき十一月もすみにけり 中村草田男

十月じゃいけないのか?と思うが師走の近さなのかな。十二月一月と寒さに向かっていく、未来も感じさせるという。

酒さかな見えて遊船すれちがう 下田實花

白居易の俳句みたいな感じだ。優雅さはあるな。初めての俳人。山口誓子の妹で芸者だという。

片眉をちよとつり上げ蜜柑むく  竹田小時

写生句。それがどうした句だけど。蜜柑が季語で聖性かな。蜜柑の匂いが立ち込める。酸っぱい蜜柑なのかもしれない。この人も初めての俳人。この人も實花と同じ芸者俳人仲間。

大いなる月よごれ居る除夜の鐘  原石鼎

大晦日の夜の月に雲がかかって残念に思う気持ちだという。雲がかかった月もけっこういいと思うがな。それを「よごれ(煩悩)」と排除する除夜の鐘が許せん!原石鼎と相性が悪いのは予想がつく。

[座談会]高野ムツオ・西村和子・野崎海芋・西村麒麟

「昭和俳句が残してきたもの、乗り越えるべきもの」から。

去年今年の貫く棒の如きもの 虚子

昭和25年の新年(敗戦の年の次の年です)に読んだ新年の抱負というより虚子の俳句道のようなスローガンなんだろう。標語と言ってもいいかもしれない。男根かよと思ってしまう。言霊性というか、本来日本の歌言葉はそのようなスローガン的なものがあったとか。「第二芸術論」とか俳句が翼賛体制になったことなど、これっぽちも反省しない姿勢が俳句道を見極めた虚子ならではとか。少しはお前反省しろよなとも言いたくなるが。

百万に餓鬼うづくまる除夜の鐘  波郷

こちらは波郷の昭和二十年の大晦日の句だという。戦時真只中。現在のウクライナやガザにも通用する句だという。虚子の句はロシア側やイスラエル側の句だよな。

外に出よ触るるばかりの春の月 中村汀女

これも昭和二十一年だったのか。女性解放運動の頃かと思っていたが違った。戦時だと月ぐらいしか雅なものが無かったとか。

勝つ事は勝てり蜈蚣(むかで)と闘ひて 相生垣瓜人

よくわからん。戦争の比喩みたいなんだが、蜈蚣がよくわからん。漢字も読めんし。作者の名前がまずわからなかった。

いっせいに柱の燃ゆる都かな  三橋敏雄

三橋敏雄が入った。東京大空襲の句。無季だけど戦争という事件が季語性を持った句なのだ。無季の俳句の代表的な句だという。そうか?白泉とかあるだろう。定形だからいいという。

広島や卵食ふ時口ひらく 三鬼

原爆の惨禍がその行為に象徴されるという高野ムツオの意見だが、当時は安易に広島を詠んでいいのかと言われたのだ。

暗闇の眼玉濡らさず泳ぐなり 鈴木六林男

これはあまりにも悲惨すぎた状況を象徴的に詠んだ句だという。これも無季だ。無季=戦争という概念が出来ているのかな。

湯豆腐やいのちはてのうすあかり  久保田万太郎

境涯俳句なのか。老人の俳句の淡々とした様子を湯豆腐に喩えているのだろうか?

石田波郷が一番人気があるということで全員から選ばれている俳人だった。

雪はしづかにゆたかにはやし屍室  石田波郷(西村和子選)
百万に餓鬼うづくまる除夜の鐘       (高野ムツオ選)
泉への道後れゆく安けさよ         (野崎海芋ノザキカイウ選)
七夕竹惜命の文字隠れなし         (西村麒麟選)

野崎海芋は初めて知る俳人だった。

石田波郷は人間探求派といわれるだけあって生死に関わる重い句が多いな。俳諧味とは違うような。いいんだけどこのへんは精神とか言いそうで。

自然派だと龍太が二人から選ばれている。オヤジより多いのか?

大寒の一戸もかくれなき故郷  飯田龍太(西村和子選)
手が見えて父が落葉の山歩き      (野崎海芋選)

西村和子はオヤジも選んでいた。

戦死報秋の日くれてきたりけり  飯田蛇笏

息子を4人のうち3人を亡くしていたという。それで残ったのが龍太だったのか。そう思うと龍太も蛇笏の息子としての苦労が伺える。

加藤楸邨も二人から選ばれている重要俳人か。

死ねば野分生きてゐしかば争へり 加藤楸邨(西村和子選)
一本の灘頭燃えて戦終わる        (西村麒麟選)

こうして見るとやはり戦争句が多いのか。

女性俳人だと、桂信子が二人から選ばれている。

手袋に五指を分かちて意を決す  桂信子(西村和子選)
窓の雪女体にて湯をあふれしむ     (高野ムツオ選)

身体的な句だが西村和子選は意志を感じさせ、高野ムツオ選はエロスを感じさせる。

津田清子という俳人は馴染がなかった。これも戦時の句かな。違った。生け花の句のようだ。

紫陽花剪るなほ美しきものあらば剪る 津田清子(野崎海芋選)

昭和俳句は戦争のイメージだったな。非日常の句が強い。

合評鼎談(辻村麻乃X抜井諒一X横澤放川)

合評は現代俳句の動向を知る事ができるので面白いかもしれない。年代もベテラン、中堅、若手と三者三様なので。

三村純也「伊勢・丹波・吉備」
俳句雑誌は一句だけで評価するのではなく連句で読ませるということになっているのだ。プロとアマチュアの差は連句が読めるかどうかなのかもしれない。そのテーマとして「伊勢・丹波・吉備」というタイトルを見るとその古典的観光地の句だろうかと思うのだが。旅吟であるが、さすが観光地は詠まずに土地柄を詠んでいるのか。写生句のようだ。一番は「茸採」の句だとか。

井上弘美「南蛮酒」
似たような古典の観光地(芭蕉が詠んだ観光地)の句だが、こっちは観光地俳句のような気がする。こういうのは芭蕉が好きなひとはなるほどと思うのかもしれないが、芭蕉に興味がない人は意味を汲み取れないだろう。

朝妻力「亡き人のユニフォーム」
阪神タイガースにいた横田慎太郎という選手の追悼句のような。熱烈な阪神ファンなんだろう。

野球俳句だけではなく、一般的な秋の季節の俳句もあるが、それは作者の心情に沿ったものだろうか?

佐怒賀直美「広島」
旅吟が多いな。非日常だからか?広島だから当然「原爆」が出てくる。まあ、広島に行ったら誰もが「原爆」を読まずにいられないのかもしれない。紀行文的な俳句だろうか?

照井翠「呪いの棺」
戦争時事詠だった。現代では難しいテーマのようだ。当事者でないと、数多い時事詠に埋もれてしまう。まあ、ウクライナ人が詠んだ俳句にはなかなか敵わないと思うが、それでも詠みたいと思う意欲かな。

遠山陽子「未完の自画像」
いちばん読みたくないテーマかもしれない。そう言えば今月号に石田波郷の「俳句は私小説だ」が出ていた。それに反抗したのが藤田湘子であったという。俳句の想像力だった。

第69回角川俳句賞受賞第一作という野崎海芋「月山」。期待の新人だったのか?

月山筍はみ出汁椀朝餉なり

読みづらい。難解俳句だな。どう読んでいいかわからん。意味は筍が御椀からはみ出るほどの朝餉に感動しているのだが、月山との取り合わせということはそれがおかずなのか?窓から月山が見えるとか。

即身仏に供へ榧(かや)の実はしばみも

観光地俳句なんだろうな。観光地俳句ばっかかよみたいな。そういえば、堀切実『「俳句」と「日常」』であえて旅するのではなく日常的な吟行するような俳句がいいとか書いてあった。でもそれが私小説的になってしまうのか?だから非日常を求める。そのへんだよな。日常詠なんだけど非日常のような世界観(想像力)なんだと思う。



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