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「ヴィレッジゲイト」という門前のドルフィー

『Evenings At The Village Gate: John Coltrane with Eric Dolphy』(1961年8月録音、リリース2023年7月)

現存する名曲「アフリカ」唯一のライヴ音源を収録!
ジャズ界を代表する伝説の2人、ジョン・コルトレーンとエリック・ドルフィーによる幻の未発表音源が発掘!
★この貴重な音源は、1961年当時、新しい音響システムのテストの一環としてエンジニアのリッチ・アルダーソンによって録音。その後、テープが行方不明になっていたが、近年、ニューヨーク公共図書館にて発見されたものでコルトレーンとドルフィーの組み合わせから発せられる創造的で変革的なスピリット、そして短命に終わったクインテットの音楽的成果を余すところなく捉えている。
★コルトレーンが自身のクインテットで伝説のヴィレッジ・ゲートで1961年8月に行った1ヶ月間のレジデンシー公演時にライヴ録音されたもので、90分の未発表曲で構成されている。ドルフィーはこの3年後に惜しくもこの世を去り、この録音は彼らの伝説的なヴィレッジ・ゲート公演の唯一のライヴ録音となっている。コルトレーンのクラシック・カルテットはまだ十分に確立されておらず、その夜、コルトレーンのグループには、先見の明のあるマルチ・インストゥルメンタリスト、エリック・ドルフィーの5人目のメンバーがいたのである。コルトレーンの有名曲(「My Favorite Things]」、 「Impressions」、 「Greensleeves」)に加え、ドルフィーのバス・クラリネットによる「When Lights Are Low」や、コルトレーンの作曲した「アフリカ」の、ベーシストのアート・デイヴィスによるスタジオ録音ではない唯一の音源が収録。
★この録音は、ジョン・コルトレーンの旅における特別な瞬間、すなわち、彼の特徴である恍惚としたライヴ・サウンドが、62年から65年の彼のクラシック・カルテットと共通する、成熟し始めた1961年の夏、彼が造詣の深いアフリカのソースからインスピレーションを得て、スタジオ(Ole)とステージの両方でツー・ベースのアイデアを試していたときを表している。この「アフリカ」の貴重な録音は、当時の彼の広大なヴィジョンを捉えている。
★本作はジョン・コルトレーンとエリック・ドルフィーの切なくも短い関係を紹介するものである。コルトレーンはロサンゼルスで初めてドルフィーと出会い、ドルフィーが1959年にニューヨークへ移住した後、再び親交を深めた。2人ともビバップの絶頂期に生まれ、ハーモニーと感情表現に深い関心を持ち、演奏にヴォーカルのような効果と広い感情の幅を採用していた。コルトレーンのダークでスラスラしたフレージングに、ドルフィーの明るくシャープな声という二人の特徴的なサウンドの組み合わせは、ヴィレッジ・ゲートでの歴史的な公演のユニークでエキサイティングな特徴となっている。
★このリリースには、ヴィレッジ・ゲートでの夕べに参加した2人、ベーシストのレジー・ワークマンとレコーディング・エンジニアのリッチ・アルダーソンによるエッセイが添えられている。さらに、歴史家のアシュリー・カーン、ジャズ界の巨匠ブランフォード・マルサリスとレイクシア・ベンジャミンが、レコーディングに関する貴重なエッセイを寄せている。
■John Coltrane(ss,ts)
 Eric Dolphy(b-cl,as,fl)
 McCoy Tyner(p)
 Reggie Workman(b)
 Art Davis(b)
 Elvin Jones(ds)
"My Favorite Things" (Oscar Hammerstein II and Richard Rodgers) – 15:45
"When Lights Are Low" (Benny Carter) – 15:10
"Impressions" (Coltrane) – 10:00
"Greensleeves" (traditional) – 16:15
"Africa" (Coltrane) – 22:41

このアルバムはコルトレーンの凄さよりドルフィーの凄さを聴くべきアルバムであり、それ故に第66回グラミー賞最優秀アルバム賞にノミネートされたのだ。なにより拘束具を外した「エヴァンゲリオン」のようなコルトレーンとドルフィーの共演盤それまであまり知られてはいなかった。それは正式にはドルフィーとの共演盤は『アフリカ/ ブラス』やアトランティックの『オーレ』からライブ音源の『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』まで何種類かあるのだが、そこでのドルフィーはアレンジはともかく演奏はコルトレーンの影に収まるようなものでしかなかったのだ。実際にはライブ演奏ではヨーロッパツアー・ライブ盤(海賊盤)で知られていたりしているのだが(ここまで音がいいのは貴重な録音だ)、それらの演奏を聞いたものは、もしかしてコルトレーンよりドルフィーのほうが凄い!というものだった。ドルフィー・ファンからしてみれば当然のドルフィーなのだが、世間一般的には、コルトレーンのスピリチュアル・ジャズはコルトレーンが独自に開拓したものだと思われがちだが、このアルバムを聞けばその演奏がドルフィーなくしては生まれなかったのがよくわかる。なによりも凄いのはこの演奏が1961年なのだ。

My Favorite Things」の熱さは、コルトレーンの1960年のスタジオ録音と比べられるべきものじゃない。1960年盤はJRの観光旅行のCMに使われるぐらいに定期演奏だとしたらこのライブ盤の演奏は巨人が正面衝突するぐらいの通常ではない異常な熱気に包まれている。コルトレーンとドルフィーはライブのたびにそのような演奏をしていたのだと思う。1961年のクインテットにはドルフィーは必要メンバーだったのだ。しかしながらこうした白熱ライブは世に出ることはなかったのだ。それは大手レコード会社の戦略だったかもしれない。しかし、コルトレーンがドルフィーとの共演以降に長尺ライブで延々にサックスを吹き続けたのはドルフィーのイメージがあったからだと思う。ドルフィーの亡くなった後にコルトレーンにフルートが手渡されて、その写真が『至上の愛』のジャケットに載せたのは、このアルバムがドルフィー追悼の意味があったのではないのか?

マルチプレーヤーのドルフィーの凄さはコルトレーン・バンド以前にもミンガスの演奏やファイブスポットのブッカー・リトルとの白熱ライブがあり、コルトレーンもセロニアス・モンクの元でファイブスポットに出演していたのだから、ドルフィーをその頃から知っていたのかもしれない。マル・ウォルドロンは両者との共演があり、コルトレーンもドルフィーも当時のニュー・ジャズを目指すグループ内にいたのだ。

なによりこのアルバムが興味深いのはそれまでドルフィー抜きで発表されていた曲がドルフィーが加わったことで、コルトレーンの変化が見られることである。例えば「Impressions」はインパルスでの最初の録音はビレッジバーンガード・セッションだが、それビレッジゲイト・セッションはそれ以前のドルフィーとのセッションが収められているのだ。最初からリミッターを外して全力で行くコルトレーンのソロ、ドルフィーはいつものスタイルで応酬する。

そして「Greensleeves」というイギリスの子守唄のような民謡が狂気の世界へと誘うのである。

なによりこのライブ盤の「アフリカ」が想像以上に凄い。

スタジオ盤ではドルフィーが若手ミュージシャンを指揮したブラバンの中でコルトレーンが咆哮する。しかし、ここでは少数精鋭でブラバンの部分をドルフィーがひとり受け持つのだ。これはミンガス・バンドでも少数でビッグ・バンド的カラフルなサウンドを出す手法を真似たのかもしれない。『アフリカン/ ブラス』と同時期に吹き込まれた『オーレ!』の方は少数精鋭でのスパニッシュ・メロディというかインド音楽の影響を受けていて、こちらでもドルフィーのアレンジが光るのだ(というかこれは名盤)。

『Evenings At The Village Gate: John Coltrane with Eric Dolphy』の「アフリカ」では一番弱点になるのはベース・ソロかもしれない。ダブル・ベース(二人ベース)か、後のジミー・ギャリソンのようなベース・ソロが取れる人材が必要だったのだ。まだこの頃はコルトレーン・カルテットの最強以前の流動期であり、その中でもエリック・ドルフィーというミュージシャンとの双頭コンボだったのである。そのままの形で「ライブ・イン・ジャパン」まで飛んでいっても違和感がないはずである。むしろ「ライブ・イン・ジャパン」はこのアルバムの二番煎じかと思えるほどなのであった。「ライブ・イン・ジャパン」ではここにいるメンバーも総取っ替えという感じだが、コルトレーンが次世代のミュージシャンに伝えたかったものがあるのだろう。

それにしてもこのアルバムが1961年というのが驚きである。日本ではやっとメッセンジャーズのハードバップが入ってきて頃なんだから。あとエルビンのドラムは今聴いても凄い。

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